オープニングセレモニーではル・マン24時間を戦った「787B」が快走した(筆者撮影)

クルマのブランドは、どうあるべきなのか。最近、そんな問いに対する答え探しをしている。

そんな中、「MAZDA FAN FESTA」(2024年10月19日〜20日、富士スピードウェイ)で、マツダに関わる人たちやマツダファンの想いに触れた。


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富士スピードウェイでのMAZDA FAN FESTAは、昨年に続き今年で2回目。前身は、2014年から全国で開催していたブランド体験イベント「Be a drive. Experience」で、富士スピードウェイでは2016年と2018年に開催している。

2024年のMAZDA FAN FESTAは、富士スピードウェイのほか、宮城県のスポーツランドSUGO(4月6日〜7日)でも実施されており、11月19日〜20日には岡山県の岡山国際サーキットでの開催も予定されている。

富士スピードウェイでのMAZDA FAN FESTAは、昨年の1日開催から今年は土日をとおした2日間へと規模を拡大した。入場者数は約2万3000人に達し、マツダ社員も約450名が参加している。

では、MAZDA FAN FESTAとは、どんなイベントなのだろうか。そこには、大きく2つの構成要素がある。

「走り」を楽しむ「体験」を楽しむ

ひとつ目が、サーキット(本コース)やショートサーキットなどを使っての走行体験とレース参加、およびその走行風景を楽しむこと。


本コースを走るマツダファンそれぞれのクルマ(筆者撮影)

本コースでは、ロードスターパーティレース、マツダ車による3時間耐久レース、ル・マン24時間などで活躍した「787B」を筆頭とする歴代レーシングカーのデモンストレーションラン、さらにユーザー所有車によるパレードランも行われた。

また、ショートサーキットなど本コース周辺各所では、各モデルの開発者による座学と同乗体験、プロドライバーによる走行同乗体験、マツダドライビングアカデミーFUJI特別編など、マツダ車そのものを深く感じるコンテンツが実施された。

構成要素のふたつ目は、イベント広場などでの体験コンテンツだ。

【写真】子どもたちの姿も可愛い体験コンテンツの様子を見る

ラジコンカー作りと操縦体験、eスポーツの「グランツーリスモ」タイムアタック、初代「ロードスター(NA)」から最新「CX-80」まで、さまざまなモデルを取り揃えた富士スピードウェイ外周路での試乗体験などである。

そうした中で、筆者が興味を持ったのは「ロードスターVR体験」だ。VRゴーグルをつけて仮想空間を体験すること自体はもはやめずらしくないが、その内容がとても濃いものだった。


VRを活用したロードスター走行体験の様子(筆者撮影)

ステアリングやペダルに見立てた輪やバットを操作して、ロードスターを仮想空間で運転できるだけでなく、エンジン内部や回転するタイヤの中に顔を入れて機械の作動状況を観察できるというもので、子どもだけでなく大人にとっても新鮮な体験である。

また、「XR Activity Lab」では、eスポーツのようなドライビングシミュレーターを使い、マツダのデザイナーが新たに作ったキャラクターモデルで、キメの細かい形状や色合いを駆使した仮想空間を移動する体験ができた。

自動車メーカー各社では近年、量産車開発や新しいサービス事業構築に向けて、仮想空間を使った研究開発を進めている。そんな中で、これらの体験型コンテンツは、「クルマの楽しさ」に直結するわかりやすさを重視している点が特徴だ。

鍛造から制御まで「モノづくり」体験

ピットビル内では、マツダの開発者や技術者が自ら考案した、子どもにも理解しやすいようなモノづくり体験や技術体験を行っていた。例をあげると以下のとおり。

・マフラー(消音器)の工作キット作成
・プレス技術の歴史と進化の体験
・ディーゼル(SKYACTIV-D)圧縮着火の再現体験
・エンジンの鋳造に対する説明
・鍛造でのスタンプづくり
・プラスチック廃棄物を素材とする射出成形体験
・子ども用のプログラミングによる車両運動制御の体験
・クレイモデル作業体験
・実車を使った子ども向けサービスエンジニア体験

クルマづくりからメンテナンスまで、現役社員がユーザーやその家族と直接触れ合う試みが盛りだくさんだ。


「KIDS なりきりエンジニア」では実車を使って子どもたちが整備を体験(筆者撮影)

パドックエリアには、マツダ資本100%の10社を含む、新車販売企業各社やアフターマーケット関連企業など64社が出展。キッチンカーなど22社が、個性豊かなフードを提供した。

さらには、ロードスター35周年記念モデルの世界発表と開発者やデザイナーによるトークショー、プロミュージシャンによるスペシャルステージなども開催。1日ではすべてを見きれないほどの充実ぶりだった。

なぜ、マツダはここまでMAZDA FAN FESTAに注力するのだろうか。

マツダ耐久レースにも自ら参戦した毛籠勝弘(もろ・まさひろ)社長は、記者団の囲み取材で、「(マツダを中心とした)コミュニティによって(マツダの志への)共感が広がれば」と答えた。


マツダ耐久レース決勝での走行後、記者団の囲み取材に答える、毛籠勝弘社長(筆者撮影)

また「マツダファンを中心に、(モノやことに)触れ合って楽しく過ごすこと、そこにマツダ社員が直接対応することが大切」という経営者としての視点を示すと同時に、昨年の開催時に「多くのお客様が『楽しかった』『また帰ってきたい』という声を聞いて感激した」と個人としての感情も踏まえて、規模拡大を決めたことを明かした。

つまりMAZDA FAN FESTAは、単なるイベントではなく、経営戦略としてのブランド価値の再定義をマツダの社内外に示す役目があるのだ。

「ブランド体験推進本部」という新部署の役目

マツダは2023年11月の社内組織改革で、「ブランド体験推進本部」を新設しており、ここにマツダ・スピリット・レーシングをはじめとしたすべてのモータースポーツと、MAZDA FAN FESTAを含むブランド体験に関連する機能を集約した。

ブランド体験推進本部には、ここにはブランド体験ビジネス企画部、ファクトリーモータースポーツ推進部、ブランド体験創造部などがある。

単に販売台数を追い求めるのではなく、ブランド価値を深掘りし、マツダファンを増やしていくという経営戦略を採っているのだ。


関東マツダのブースで行われたエアガンを使った射的ゲーム(筆者撮影)

他の日系自動車メーカー各社も、車種それぞれにひもづく、プレミアム、スポーティ、アウトドア、モータースポーツといった観点からブランド価値創造に着手している。だが、「社名=ブランド」という観点での試みは現時点で行われていない。

そのため各社のファンイベントは、スポーティブランドやモータースポーツに特化したものが多く、ブランド全体を対象としたカタチになっていないのが現状だ。

今回のMAZDA FAN FESTAのステージイベントで、スーパー耐久(S耐)シリーズで自動車メーカー各社関係者がざっくばらんに意見交換する「ワイガヤクラブ」によるトークショーが行われた。参加したのは、トヨタ(GRカンパニー)、スバル、マツダ、そしてS耐主催関係者と、メーカーや組織を越えてのトークショーである。

トークショー後の質疑応答で、筆者は「ブランド戦略という観点で、MAZDA FAN FESTAをどのように感じたか」と聞いた。


共挑S耐ワイガヤクラブに参加した、マツダ、トヨタ(GR)、スバル、スーパー耐久未来機構のメンバー(筆者撮影)

すると、トヨタGRカンパニー・プレジデントの高橋智也氏は「マツダの歴史を感じた。誕生して間もないGAZOOレーシングとして、多くの人から応援されるブランドになっていきたい」としたうえで、「マニア(の心に)にささるブランドでありたいと思う一方で、(幅広い層の)皆さんから受け入れられるブランドになりたいと、改めて感じた」と答えた。

また、SUBARU Team SDA Engineering代表の本井雅人氏は「STI(スバルテクニカインターナショナル)としてのファンイベントがあるが、SUBARU全体のイベントはここしばらくの間、やっていない。(もしやるとするならば)一本筋が通ったイベントができれば良いと感じた」と、SUBARUファンイベント実施に向けた意見を述べた。

スーパー耐久未来機構で副理事長を務める桑山晴美氏は「スーパー耐久で24時間レースを初めて開催した、あのときの感動に近いものを感じた」と、同じ富士スピードウェイで開催され多くのファンに支えられている光景に感銘を受けたという。


2024年のスーパー耐久「富士24時間」で取材したMAZDA SPIRIT RACING(筆者撮影)

くわえて「スーパー耐久は参加型レースだが、観客を増やすという目標を持ってきた。MAZDA FAN FESTAは、(我々にとって)原点回帰。とくにパドック(の出展の様子など)を見てそう感じた」と、今後のレース運営での参考となった様子であった。

「クルマが好き」と感じていただきたい

MAZDA FAN FESTA開催の想いについて、マツダは次のように説明している。

「ご来場いただくすべてのお客さまに楽しんでいただき、笑顔で前向きな感情になっていただきたい。クルマを通じた楽しさを発見し、『クルマが好き』と感じていただきたい」

2日間を通じてMAZDA FAN FESTAを取材し、筆者としても「クルマのブランド価値とは何か」を深く考えさせられた。

【写真】マツダのメッセージを感じるMAZDA FAN FESTA

(桃田 健史 : ジャーナリスト)