武田鉄矢が全く勝てないプロゴルファーを熱演！ヒロイン役の財前直見や共演の阿部寛も魅力抜群の作品「プロゴルファー織部金次郎」

2024年11月6日 17時0分

武田鉄矢が主演した映画「プロゴルファー織部金次郎」は、武田鉄矢原作・高井研一郎作画による漫画作品を映像化したもの。「ビッグコミックスペリオール」(小学館)に連載された本作は、プロゴルファーになり17年間1勝もしていない男が下町の人情につつまれ、一発発起する物語だ。ただ、もともとは映画用に武田がプロットを創作した企画であり、当初は映画化が進まなかったため結果的に漫画として先行してヒットしたために映画化が実現したようである。第1作は武田が脚本を書き、杉村六郎が監督した。杉村監督は武田主演の「刑事物語」シリーズ全5作中3作でコンビを組んだ盟友だ。第1作は1993年1月に公開され、後にシリーズ化して1998年までに全5作が製作された。2作目から5作目までは武田が自ら監督も務めている。

第1作のストーリーは、下町の脇田ゴルフ練習場にレッスンプロとして主人公の織部金次郎(武田鉄矢)がやって来る場面で幕を開ける。通称"オリキン"こと織部は、プロ生活17年間で1勝もできない男だが、教え方が丁寧でたちまち練習場の常連たちの人気者となる。

ヤクザの親分・勝田修造(大滝秀治)をはじめ、オカマの新珠新三郎(平田満)、バーのママ・毛利綾子(小野みゆき)、医師の多古(ケーシー高嶺)といったクセのある面々だが、皆憎めない好人物だ。さらに常連たちのたまり場であるスナック「バーディー」を経営する正村周(阿部寛)と妹の桜子(財前直見)、練習場の社長・脇田彦三郎(下川辰平)らもオリキンを全力で支える。オリキンはプロとしての自身に見切りをつけ、トーナメント出場を諦めようとしていた。妻とも離婚し、人生から降りようと半ば無気力になりながらも、仲間たちはオリキンを応援し、彼をトーナメントに出場させようと躍起になっていた。勝田親分は必要な金を集めるため、オリキンに内緒で賭けゴルフをやらせる。相手は素人とはいえ関西アマ2位の実力者・白石(小西博之)。勝てば1000万円、負けた場合は桜子の身が危ないという危険な賭けだったが、オリキンは辛うじて白石に勝った。ところが、賭けゴルフの現場を中島常幸プロ(本人出演)に見とがめられて意気消沈。金は返して、桜子らも責任を痛感。地元商店街を巻き込んで、募金を行い、まっとうな手段でオリキンを応援する。期待に応えようと一念発起して厳しい練習を開始したオリキンだったが...という物語だ。

ストーリーは単純明快で、テンポもよく非常に見やすい構成になっている。主人公を演じる武田は、本作の前年にフジテレビ系ドラマ「101回目のプロポーズ」に主演し、最高視聴率を打ち出して人気の絶頂期。俳優としても自信を深めていたのか、本作での演技も見事だ。

オリキン(武田鉄矢)を応援する正村周(阿部寛)とその妹・桜子(財前直見)
(C)東映：三菱商事：日映：バンダイビジュアル：レオナ：武田鉄矢商店

ゴルフの場面もリアリティ抜群で、スイングもさまになっている。ゴルファーが主役の作品では、異常な飛ばし屋であるとか超絶なテクニックを持つなど、派手な特徴を持つ設定にしがちなのだが、織部の武器が「バンカーショット」である点もユニークだ。また、彼を応援する仲間たちがじつに魅力的で、シリーズ全5作においてヒロイン役となる桜子役の財前直見が素晴らしい。織部に想いを寄せ、彼も桜子に強く惹かれながらも、なかなか進展しない"あるある"展開だが、財前のキップの良さと可愛らしさが全開。スタイルも抜群で、昭和のトレンドを感じさせる衣装も似合っている。織部を時に叱咤し、時に包み込むような優しさで視聴者も魅了されるはず。声もじつに魅力的で、桜子役は完全にはまり役となっている。

特別友情出演として顔を見せる中島常幸プロも、素人離れしたしっかりした芝居で貢献。スペシャルゲストとして坂田信弘プロとゴルフ解説者の戸張捷も顔を見せるが、中継場面の声しか登場しないが、戸張氏の解説ぶりがリアルでじつに素晴らしい。

第2作は、未勝利のシニアプロ・勝又(川谷拓三)を織部がコーチする話が主軸。第3作では、北海道を舞台に2年目の女子プロ・日向みずき(岡田理江)の成長と恋愛を絡めるなど、毎回設定に工夫がみられる。クラブメーカーと契約してCM出演を果たしたものの、それを機にスランプに陥ってしまう第4作も見ごたえ十分。メーカー宣伝部の女性部長・喜屋武由布(高橋ひとみ)の好演も特筆すべきだ。第5作はマレーシアロケも敢行し、ファイナルを飾るにふさわしい大作。いよいよ桜子と結ばれるかと思いきや、2人の関係に最大の危機が訪れるのも見どころとなる。

今回、「プロゴルファー織部金次郎」シリーズ全5作がWOWOWで放送されるが、5作すべて構成にひと工夫あって、まったく飽きさせない。武田と財前の秀逸な演技を中心に、阿部寛ら脇役たちも奮闘。2作目以降も毎回登場する現役プロ、救急隊員やラーメン屋など毎回異なる役でワンシーンだけ登場してほっこりさせてくれる堀内孝雄など、笑いあり涙ありの作品だ。最近では少なくなった人情喜劇として堪能してほしい。

文＝渡辺敏樹