使い方しだいでこんなに変わる…間違えると「病状が悪化する」湿布の危ない使用方法…上皇陛下の執刀医が教える
上皇陛下の心臓バイパス手術の執刀医として知られる天野篤医師。
69歳となった現在も順天堂大学医学部特任教授として、難手術に臨む日々を送る。このほど、自身が執刀した心臓血管外科手術数が1万例を超えたという。おそらくは日本屈指の手術数だが、外科医としての名手であるいっぽう、予防医学を熱く説く論客としても定評がある。
いわく「食事でとる脂質の質が動脈硬化や血栓のリスクにかかわる」「肥満を防ぐ食生活こそが心臓を守り健康寿命を延ばす」……などなど。
また、高血糖、高血圧、高LDLコレステロールなどの生活習慣病では、薬を服用しても数値を下げたほうがいいとう積極治療派でもある。そんな天野医師だが、意外にも危険視している薬が、じつは湿布薬。新刊『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』のなかで熱く説く、湿布薬への注意点を聞いた。
湿布薬には血圧上昇を招く成分が入っている
ほとんどの人は、肩こりや腰痛で湿布薬を使ったことがあるのではないでしょうか。通院している医療機関で処方してもらえますし、薬局やドラッグストアでも市販品を購入できますから、もっとも身近な薬といっていいかもしれません。
しかし、手軽だからといって安易に使いすぎてはいけません。とりわけ、心臓にトラブルを抱えている人は注意が必要です。
また、高血圧で血圧を下げる薬=降圧薬を服用している人も気をつけたいものです。湿布薬には血圧を上昇させたり、病状を悪化させたりする危険があるのです。
湿布薬に含まれている代表的な成分は「フェルビナク」「ジクロフェナクナトリウム」「インドメタシン」の3つですが、いずれも「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs=エヌセイズ)」に分類される薬剤です。解熱鎮痛剤のアスピリン、ロキソプロフェン、イブプロフェンも同じ分類です。
このエヌセイズは、体内で炎症、痛み、発熱を引き起こす「プロスタグランジン」という生理活性物質がつくられるのを抑えることで症状を改善します。
プロスタグランジンは「シクロオキシゲナーゼ(COX=コックス)」という酵素が作用してつくられることから、エヌセイズはその酵素の働きを阻害し、プロスタグランジンが産生される経路を抑制するのです。
これにより、体内で水やナトリウムの再吸収の抑制に関与している「プロスタグランジンE2(イーツー)」や「プロスタサイクリン」という生理活性物質の産生が抑えられます。
しかし、そのいっぽうで腎臓の血管が収縮して、腎血流量が低下します。その結果、体内に水やナトリウムがたまりやすくなり、血圧の上昇や浮腫が生じるのです。
湿布薬を多用すると、降圧薬の効きが弱くなることも
エヌセイズが血圧に及ぼす影響を検討した報告によれば、平均5mmHg(ミリメートルエイチジー)程度の血圧上昇を招くとされています。血圧が正常な高齢者がエヌセイズの使用を開始した直後から、血圧が高血圧の区分にまで上昇し、使用を中断すると血圧が正常化したという報告もあります。それだけ、エヌセイズは血圧に影響するのです。
もともと高血圧の人であれば、エヌセイズの過度な使用は、狭心症、心筋梗塞、大動脈解離といった心臓疾患を発症するリスクが高くなる可能性があるのです。
またエヌセイズは、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬、ARB(アンジオテンシン受容体)拮抗薬、利尿薬といった降圧薬と相互作用があります。
つまり、普段から血圧の薬を飲んでいる人が、安易に湿布薬を多用していると、気づかないうちに血圧の薬の効き目が弱くなり、血圧が高い状態のまま過ごすことにもなりかねないのです。湿布薬を使うときは相当な注意が必要です。
さらに、先ほども少しふれたように、エヌセイズは長期にわたって使っていると体内に水分を貯留させます。すると、頻脈などの不整脈、息切れ、浮腫といった心不全の症状が表れる場合があります。
これは、人工透析の患者さんにも同じような症状が見られます。体内にたまった水を一気に吐き出したり、再びたまったりすることを繰り返していると、心房は水がたまっている状態に対して鈍感になり、心房細動が起こりやすくなります。
すると、心拍出量が少なくなるので、だんだんと心房が大きくなっていきます。その結果、心臓の働きが落ちて血液の流れが悪くなり、心房内で血栓ができやすくなります。それが脳の血管に移動して詰まれば脳梗塞を引き起こします。
こうしたリスクがあるため、心臓にトラブルがある人は安易に湿布薬を使ってはいけません。
とりわけ、近年登場した「ロコアテープ」と呼ばれる経皮吸収型非ステロイド性鎮痛消炎剤(一般名:エスフルルビプロフェン・ハッカ油製剤)は効き目が強力で、2枚貼っただけで主成分の血中濃度が飲み薬を服用した場合と同程度まで上昇します。
そのため、「1日1回、患部に貼付」「同時に2枚を超えて貼付しない」と、上限2枚までの用法・用量が決められています。また、心臓疾患に対してよく使われる抗凝固薬の「ワルファリン」との併用にも注意が必要とされています。
さらに<【後編記事】その処方は要注意…やっぱり薬は「飲みすぎてはいけない」多剤処方がもたらす「意外なリスク」【医師が予防医学から警告】>でも、天野篤氏による、病気の治癒するために必要な知識を明かしています。