慶應、早稲田、青学、雙葉「小学校の最難関校」が、これからの受験で求めている「4つの力」…平成とはココが違う
今、幼児教育に注目が集まっている。高学歴なら有名企業に就職でき、定年まで同じ会社で勤め上げるという時代ではなくなっているからだ。困難にあったとき、しなやかに生き抜いていく力をつけるためには、幼児教育から見直すべき時期に来ているという。
それなら、いったいどう子どもを育てたらよいのか? そんな令和の親たちの悩みに答える本が出版された。『スイング幼児教室が教える 冒険力の育て方』の著者・矢野文彦さんは、「小学校受験の試験問題には、将来を見据えた幼児教育のヒントが詰まっている」という。
最難関小学校合格率の高さで知られる「スイング幼児教室」代表の矢野さんに、悩める令和の親たちに向けて「子育ての解決策」を聞いた。
小学校受験の試験問題から見る「子どもの将来像」
――有名大学を卒業したら大手企業に就職できるとも限らず、リストラや事業縮小などで離職や転職も普通の時代です。どんなゴールを目指して子育てしたらいいのか、悩まれている親も多いと思います。何を目指したらよいのでしょうか。
矢野文彦さん(以下、矢野):私立小学校の入学試験を分析すると、学校側が求める家庭像・子ども像が見えてきます。またどのようなカリキュラムや取り組みを重視しているのか、そしてどのような大人に成長して欲しいのかを推察することで学校への理解が深まります。少し、具体的に見ていきましょう。
〈私立小学校の受験問題/書籍『冒険力の育て方』より引用〉
■暮らし力を見る問題
(1)お弁当の中身をつくる(材料は画用紙、毛糸、ストロー)…青山学院初等部2024年出題
(2)お片づけゲーム(ぬいぐるみを箱へ、本を本棚へ)をグループで行う…東京女学館小学校2024年出題
(3)毎日しているお手伝いについて、面接時(子ども)に質問される…聖心女子学院初等科2024年出題
(4)夏休みに楽しかったことを、面接時(子ども)に質問される…横浜雙葉小学校2024年出題
■コミュニケーション力を見る問題
(5)人の役に立つ生き物を考えて、その生き物が役に立っているところの絵を描く…慶應義塾幼稚舎2023年出題
(6)1枚のカードに好きなものの絵を描き、グループで話し合ってお話づくりをする…洗足学園小学校2024年出題
(7)子どもの興味・関心を育むために家庭で取り組んでいることについて、面接時に父親に質問される…立教女学校小学校2024年出題
■世の中の仕組みやものごとの知識を見る問題
(8)親子面接時にお気に入りの絵本を使って、「自由に過ごしてください」と指示があり、絵本を親子で読む…東京農業大学稲花小学校2024年出題
(9)地球のよいところの絵を描く。描いた絵を持ってお友だちとお話をする…慶應義塾幼稚舎2024年出題
(10)カードに絵を描き、お友だちと同じ季節のカードをひくゲームを行う…暁星小学校2023年出題
■からだ力を見る問題
(11)音楽に合わせて自分で考えた創作ダンスをみんなで自由に踊る…立教小学校2024年出題
(12)風船運び競争や道具運び競争、道具高積み競争など、チームで競い合うゲームを行う。実施前に勝つためにどうしたらいいかを話し合う…早稲田実業学校初等部2024年出題〉
――中学、高校、大学の入学試験とはずいぶん違いますね。私立小学校は、入学を希望する子どもたちに何を求めているのでしょうか?
矢野:小学校受験は時代を反映します。以前は面接試験で、料理は母親が作ることを前提に親や子どもに質問がされていました。最近では、父親も作りますし、家族で一緒に作ることもあります。
そのため、昨今は、料理の質問から母親と子どもとの関わり方を見るというよりも、家族同士の関わり方や家庭での料理に対する取り組みから、家族というチームとして各々がどのような成長をしているのか、そしてどのようなポリシーがある家庭なのかなどを知ろうとしています。
つまり時代の変化に対応しつつ、学校と共に同じポリシーを持って歩んでいけるご家庭であるかを見ているのです。
また、慶應幼稚舎の出題からは、「絵が描ける」「工作ができる」だけではなく、子ども自身の興味関心はもちろん、家庭がどのような支援を行っているのかなどの「家族との関わりを含めた自己紹介としてのアイテム」として絵や工作を見ています。絵画や工作の高度なスキルを求めていないことを理解しておく必要があるでしょう。
また、雙葉小学校や白百合学園小学校、聖心女子学院初等科、東洋英和女学院といった難関女子校では、話す力はもちろんですが、聞く力である傾聴力や相手の気持ちを考えることができるかどうかという共感力を求めています。
ペーパーテストでは、聞く力を問うことを目的に「お話の記憶」が長文であったり、登場人物の感情、気持ちを問われることが多いのも特徴の一つです。
また、「行動観察」という試験もあります。
例えば、子どもたちに「6人グループでカップを高く積み上げる競争をする」という課題を出すとします。そのとき学校側が見ているのは、カップを高く積み上げるスキルというよりも、同じチームの仲間と協力し合いながら課題を遂行できるかどうか。
また、うまくいかなくても諦めずに何が悪かったのかを考えて再挑戦する姿勢を見ています。まさに社会生活や集団生活で大切な力を測る試験でもあるのです。
…つづく<これからの幼児教育、もう「学歴だけ」では食べていけない社会で子育てする親の「3つの悩み」に専門家が答える>では、混同しがちな「早期教育」「幼児教育」「小学校受験」を整理しつつ、平成と令和の幼児教育の違いを明らかにしていきます。
聞き手/高木 香織