アカクロジャージーの「1年生10番」が、秩父宮のフィールドを支配した。

 11月3日(日)、東京・秩父宮ラグビー場で早稲田大と帝京大が激突。関東大学ラグビー対抗戦で開幕から無敗同士の対決は、7トライを重ねた早稲田大が48-17で快勝した。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 関東対抗戦で早稲田大が帝京大に勝利したのは、実に4シーズンぶり。関東対抗戦と大学選手権でともに3連覇中の帝京大は、春季大会を除いた公式戦の連勝が「34」で止まった。


早稲田大の10番を任された1年生の服部亮太 photo by Saito Kenji

 この大一番は、10月下旬に日産スタジアムで行なわれた日本vsニュージーランド戦に先発した早稲田大2年のFB矢崎由高が先発することでも注目を集めていた。ただ、矢崎よりも目を惹いたプレーを見せたのは、キックでゲームをコントロールした1年生の18歳SO服部亮太だった。

 服部は得意のロングキックで何度もチームを前に出しつつ、時にはハイパントキック、グラバーキックを使って早稲田大の攻撃をリード。その一方でチャンスがあれば積極的にランで仕掛けて、王者・帝京大から2トライを奪った。

「初めての帝京戦で、ここに照準を合わせてやってきたので、勝てたのは自信になります。自分の強みであるキックも全面的に出せた。4シーズンぶりに帝京大に勝ててうれしいです!」

 服部は名門・佐賀工業出身。高校の先輩でもある早稲田大の大田尾竜彦監督は、高校日本代表ではFBとしてプレーしていた服部をSOに固定している。その魅力について尋ねると、「あれだけキックが飛ぶ選手は、なかなかいない」と語る。

 監督自身も現役時代はSOとして活躍し、日本代表7キャップの経歴を持つ。SOの先輩として、服部に立ち位置などの細かい指導をしているという。

「(帝京大戦の服部は)期待どおりです。しっかりプレーメーカーとして機能している。恵まれた才能を持っており、本人もしっかりと練習を大事にする選手なので、まだ成長する余地は大いにあります」

【人よりキックが飛ぶと思っていた】

 王者・帝京大が負けた要因のひとつに、服部のキックにエリアを奪われたことがあったのは間違いない。帝京大の相馬朋和監督は、「早稲田大のキックがすばらしく、逆に帝京大はいいキックが蹴れなかった。特に前半は蹴り負けたシーンが多かった」と悔しそうに振り返った。

 大学生になったばかりのルーキーシーズンの春、服部は試合に出ることが叶わなかった。3月に参加した高校日本代表のイタリア遠征で左肩を負傷したからだ。服部は4カ月ほどのリハビリ期間を経て、夏合宿から復帰を果たし、対抗戦でようやく大学デビューを果たした。

 開幕戦(立教大戦/57-6/9月14日)は控えながら、試合終盤に出場するとロングキックで会場を沸かせた。その飛距離と音で、いきなり強烈なインパクトを残した。

 2試合目から10番を託された服部は、その後もルーキーと思えない落ちついたプレーを見せた。自陣のインゴールから10mラインまでしっかりとスクリューキックで蹴ることができ、飛距離もワールドクラス。帝京大戦でもそのクオリティは突出していた。

 服部の身長は178cm。SOとしてそこまで大きくない。だが、キックの飛距離は別格だ。「高校2年生くらいから飛ぶようになった。人より飛ぶなと思っていた(笑)」と話す。

 もちろん、服部の魅力はキックだけではない。高校時代からキレのあるランとパスセンスで注目を集め、昨年は高校生セブンズで32得点を奪ってMVPに輝き、佐賀工業を初の高校日本一に導いた。

 ラグビーを始めたきっかけは、3歳年上の兄。関東学院大でプレーするSH服部莞太の影響で、8歳から福岡県北九州市の帆足ラグビースクールで競技を始めた。

 高校も兄と同じく、親元を離れて佐賀工業に進学。1年から「花園」全国高校ラグビー大会に出場し、スクール時代から12年間プレーし続けた盟友・井上達木(筑波大1年・SH/FB)とのコンビで、2年時はベスト8、3年時はベスト4にチームを導いた。

「兄がいなければ佐賀工業に進学しなかったし、早稲田大への道もなかったかもしれない。(兄の存在は)ありがたいですね」

 卒業後に早稲田大を選んだ理由を、こう語る。

「展開ラグビーがしたかったので、早稲田大に行きたいと考えていた。(佐賀工業OBの)大田尾さんや五郎丸(歩/元日本代表FB)さんが早稲田大で活躍していたので、高校でやっていたことは間違いないと自信を持って入学しました」

【名将エディーが手放しで賞賛】

 1年生ながら対抗戦に開幕から出場できているのは、服部の実力が周囲に認められている証拠だ。「コミュニケーションも取れてきて、速く展開するラグビーもフィットしてきた」と語るなど、早稲田大の攻撃のキーマンになりつつある。

 王者・帝京大から勝利を奪えたのは、優勝するうえで非常に大きい。しかし、日本一奪還を狙う大学選手権の前に、まだ対抗戦では強豪との3連戦が待っている。11月10日の筑波大戦、11月23日の慶應義塾大「早慶戦」、そして12月1日の明治大「早明戦」だ。

 服部が初めて早稲田大で10番を背負った日体大戦(83-0/9月22日)を、ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズHCは秩父宮ラグビー場で観戦していた。

「ワセダの10番イイネ! スバラシイ!」

 名将の目に映った若き司令塔を、手放しで褒めた。

 服部がこのまま活躍すれば、U20日本代表に選ばれることは間違いないだろう。そして、その先にあるのは日本代表だ。ジョーンズHCは「若い世代を育てていかないといけない」と繰り返し語っているだけに、服部に声をかける可能性も十分にあろう。

 1学年上の矢崎が日本代表でブレイクしたことについて、服部は「刺激を受けている」と話す。ただ、現実もしっかりと直視している。

「将来的にはU20やジャパンに行きたいですが、まずは早稲田でラグビーをやることに意味があると思って入学したので、先のことを見ずにしっかりと早稲田大のラグビーに専念したい」

 さらに盛り上がってくる大学ラグビーシーンで、「アカクロの10番」から目が離せない!