「睡眠は1.5時間周期」はウソだった!なぜ私たちはスッキリと起きられないのか…エビデンスをもとに医師が解説
「睡眠は1.5時間周期だから、この倍数の時間で起きると良い」……そんな俗説をきいたことはないだろうか。しかしこれは科学的には全くのデタラメだった。ではどうしたら私たちはスッキリと起きることができるのか。
【図】子どもは7時間でも足りない? 年齢ごとに必要とされる睡眠時間
UCLA准教授で医師の津川友介氏の著書『正しい医学知識がよくわかる あなたを病気から守る10のルール』より一部抜粋・再構成し、エビデンスに基づいて解説する。
「睡眠は1.5時間周期」のウソ
人はどれくらい睡眠時間を確保できれば十分なのだろうか?
日本では1.5時間周期で眠ると良いと言われており、そのため「6時間」がきりのよい数字と思っている人が多い。
つまり、睡眠時間を6時間確保できるとよく眠れたと考え、それ未満だと少し眠り足りないと考えている人が多いようである。
しかしこの「睡眠時間6時間神話」は実は間違いなのである。ちなみに私の周りのアメリカ人でこの1.5時間周期の話をする人はいないので、これは日本独自の「神話」であるようだ。
睡眠時間は1.5時間の周期が良いという考え方は、レム睡眠(脳が活発に動いている睡眠のこと。眼球がピクピクと活発に動いているためREM〈Rapid Eye Movement〉睡眠と呼ばれる)とノンレム睡眠(眼球が活発に動いていない、脳が休息している深い睡眠のこと)が90分周期で訪れるため、そのタイミングで起きると目覚めが良いという理屈からきているようである。
しかしながら、これはあくまで平均値が90分というだけであり、実際にはレム睡眠とノンレム睡眠の周期にはかなり個人差があるということが知られている。
さらに言うと、複数の研究の結果から、6時間では睡眠時間が足りないことが明らかになっている。
アメリカの国立睡眠財団(National Sleep Foundation)によると、18~64歳の人では7~9時間、65歳以上の人では7~8時間の睡眠時間が必要であるとされている。
これは、それ未満の睡眠時間では、健康に様々な悪影響があるというエビデンスを基にしている。つまり、健康を維持するためには少なくとも7時間の睡眠時間が必要だということである。
子どもは7時間睡眠でも足りない
図2からも分かるように、10代やそれ以下の子どもでは7時間睡眠でもまだ睡眠時間が足りていない状態である。
6~13歳であれば9~11時間、14~17歳であれば8~10時間の睡眠時間が必要とされている。
若者がいつも眠そうにしているのは決して怠惰なわけではなく、生物学的に大人よりも長時間の睡眠時間を必要としているからなのである。
このエビデンスを考慮して、学校の始業時間を遅らせようという動きが色々なところで始まっている。
実際にアメリカのワシントン州シアトルで行われた研究[*1]では、高校の始業時間を約1時間遅らせることで、生徒の睡眠時間が34分増え、成績が平均で4.5%向上した。
それでは日本人の睡眠時間は足りているのだろうか?
図3を見てほしい。これは縦軸に平均睡眠時間、横軸に所得水準(人口1人あたりのGDP)を示した図である。
これを見れば、日本が世界で最も睡眠時間が短い国の1つであることが分かる。
日本人が6時間ちょっとしか眠っていないのには、前述の「睡眠時間6時間神話」が関係しているのかもしれない。
眠るだけで得られる巨大なメリット
これら睡眠に関する研究から分かっていることは、以下の3つのポイントにまとめることができる。
まず1つ目は、睡眠不足は万病の元であるということである。慢性的な睡眠不足は、心筋梗塞や死亡のリスクを上げるだけでなく、肥満も促進することが報告されている。
健康で長生きしたいと思うのであれば、十分な睡眠時間を確保することは必要不可欠である。
2つ目は、睡眠不足は脳のパフォーマンスに悪影響をもたらすということである。
つまり、仕事の生産性を上げたいのならば、十分な睡眠をとる必要があるということだ。例えば1時間早く帰宅して、1時間早くベッドに入ったとしても、その分勤務時間中のパフォーマンスが上がれば、最終的な仕事のアウトプットは上がっている可能性がある。
ビジネスパーソンであれば、睡眠時間を確保することはもはや仕事の一部であると言っても過言ではないだろう。
3つ目は、私たちが健康を維持して、仕事でパフォーマンスを発揮するためには7時間以上の睡眠時間が必要ということである。
巷で信じられている「睡眠時間6時間神話」は間違いで、6時間睡眠ではまだまだ睡眠不足の状態なのである。
睡眠は量と質の両方が重要であるが、睡眠の質で量を補うことはできないとされている。睡眠の質を考えるのは、まず7時間の睡眠時間を確保してからの話である。
レム睡眠とノンレム睡眠の周期は個人差が大きく、1.5時間周期の睡眠時間としても、必ずしもすっきりと起きられるわけではない。
十分な睡眠時間を確保すれば、明け方にかけてレム睡眠は増え、ノンレム睡眠は減るので、自然とレム睡眠からすっきりと目覚める確率は高くなる。
つまり、目覚めのすっきりしない感じは、タイミングの問題ではなく、シンプルに睡眠時間を延ばすことで解決する問題なのだ。
少子高齢化により日本は今後ますます生産年齢人口が少なくなっていくため、仕事の生産性を高める必要があるということが色々なところで叫ばれている。
そのためには、従業員の労働時間を長くすることよりも、毎日早めの時間に帰宅してもらい、少なくとも7時間の睡眠時間を確保してもらう方が良いだろう。
この方法は、生産性を高めることができるだけでなく、仕事に対する満足度も高め、感情を安定させ過労による抑うつなどの精神的問題のリスクを下げ、長生きもしてもらえる(「健康経営」につながる)、まさに「四方よし」の働き方改革なのである。
図/書籍 津川友介著『正しい医学知識がよくわかる あなたを病気から守る10のルール』より
写真/shutterstock
*1 Dunster GP et al. Sleepmore in Seattle: Later school start times are associated with more sleep and better performance in high school students. Sci Adv. 2018;4(12):eaau6200.
正しい医学知識がよくわかる あなたを病気から守る10のルール
津川 友介
2024年10月18日発売
682円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4-08-744707-1
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「7時間以上寝る」心筋梗塞のリスク20%減、
「白米を1日1杯以下にする」糖尿病のリスク24%減など、
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病気になってしまうその前に知っておきたい、今日から実行できる「最強」の健康習慣。
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(装画・ヤギワタル)