第3回プレミア12に向けた侍ジャパンの宮崎合宿で毎朝楽しみにしているのが、ウォーミングアップの後に行なわれるキャッチボールの時間だ。特に日本トップの投手たちは短い距離はもちろん、長い距離をとっても、まさに糸を引くような球を投じていく。

 とりわけ目につくのが、186センチの高橋宏斗(中日)と189センチの才木浩人(阪神)の長身右腕コンビだ。今回初めて侍ジャパンに招集された才木は、最年少の高橋のすごさについてこう表現した。

「球の出どころというか、ここ(胸)で捕るまでの時間がすごく速いっていう感覚ですね。急に来て、強いボールが来るので、速さはすごく感じます。球の強さはもちろんあるので、すごくいい投手っていう感じですね」


今シーズン自己最多の13勝を挙げた阪神・才木浩人 photo by Sankei Visual

【早くから国際大会に照準】

 10月31日、13日後にプレミア12の初戦を迎える侍ジャパンの宮崎合宿3日目。サブグラウンドでキャッチボールを終えると事前に配られた予定表のとおり、3投手がブルペンに向かった。早川隆久(楽天)、北山亘基(日本ハム)、そして才木だ。

 三方から質の高い球が投げ込まれていくなか、キャッチャーミットから最も鋭い音を弾かせたのが才木だった。

「こっちに来てから初ブルペンだったので、投げるタイミングやバランスとか、真っすぐの感触だけチェックしたっていう感じですね」

 長い手足が特徴的な才木は、体をうまく回転させて強い球を投げ込んでいくのが印象的だ。189センチの長身をうまく使い、高いリリースポイントから速いボールをドカンと投げ下ろしていく。今季はリーグ2位タイの13勝、同3位の防御率1.83、同3位の137奪三振を記録して飛躍の1年にしたが、ブルペンを見ただけで好成績が納得できた。

 球界では以前、「手足の長い投手は体をうまく扱うのが難しい」と言われてきたが、才木は絶妙に自分自身を操っている。恵まれたポテンシャルをどのように発揮しているのだろうか。

「体の連動はすごく意識します。感覚の話になりますけど、リリースの時にちゃんと体幹周りを使えて、リリースまで伝わっているかどうかは、自分のなかで感じながら投げています」

 高校時代から速球派として注目された才木は、将来の日本代表入りをずっと目標にしてきた。阪神入団後の2020年にトミー・ジョン手術(右肘内側側副靱帯再建術)を受けた時から、日の丸をつけるチャンスを逆算しながら見据えてきたと明かす。

「トミー・ジョン明けぐらいから、順調にいけば今回のプレミア12とか、(2026年の)WBCがあるのはわかっていました。そこぐらいには代表に入りたいなって思っていましたね」

 4年前に右ヒジにメスを入れてから順調に成長し、入団8年目の今季、日本トップクラスの右腕と誰もが認める成績を残した。プレミア12では先発陣の中心として期待されるが、普段どおりに臨むつもりだ。

「プレッシャーは別に感じないですね。思い切って、楽しんで投げられたらいいかなと思います」

【ボールの質にこだわる早川隆久】

 かたや、「ほぼストライクが来ていた」と井端弘和監督を感心させたのが早川だった。

 今季はリーグ4位タイの11勝、同5位の防御率2.54、同3位の160奪三振。安定感が高く、国際舞台で期待される先発左腕だ。

「ボール自体は思いどおりにコントロールできたので、残りはボールの質を改善していきたいと思います」

 特に改善する必要があるのは、変化球の精度だと語る。NPBとは使用球が変わり、「重さも、縫い目も全然違う」からだ。それゆえ、普段とは感覚が微妙にズレてくると言う。

「ボールの軌道がいつもとちょっと違ったりしました。自分のなかでボールの重さを感じるので、圧のかけ方が少し違うかなっていうところで、軌道がうまくつくれなかったかなという感じですね」

 特に普段と感覚的に違う球種はスライダーだった。ストレートとカットボールの投球割合が高い早川にとって、幅を広げる意味でもスライダーは重要な球種になる。

「スライダーがいつもスイーパー気味に曲がるところが、今日は若干縦系の成分が入っていました。それでスライダーがちょっと斜めになったりするときもあって。そこが自分のなかではいつもと違ったかなと思います」

 早川と話していると、野球IQの高さが伝わってくる。この日のブルペンではタブレットでトラックマンの数値を見ながらアナリストと会話を交わすシーンもあったが、通常のシーズンでも微修正しながら好パフォーマンスにつなげているのだろうか。

「そうですね。登板ごとに体のコンディションの違いもありますし、『今週はこういう感じ』っていうのは数字上である程度見えるところではあります。そこをうまく活用させてもらっています」

 現時点では大会使用球に若干フィットしない感覚もあるが、だからこそ本番前に合わせていきたいと話す。大会でボールを気にし過ぎていると、目の前のバッターに集中し切れないからだ。

 その意味でトラックマンの活用とともに、大卒4年目にして国際経験豊富なことも自身の強みだと早川は続ける。

「去年のアジアチャンピオンシップや、その後にオーストラリアのウインターリーグも経験させてもらいました。ウインターリーグでも(プレミア12と同じ)SSKのボールでやって、そこではすぐに適用できたので、今大会も大丈夫かなと思っています。スライダーに関しては、去年投げていなかったので、そこは違うかなと思いますけどね」

 2024年シーズン、スライダーをうまく使ってキャリアハイの成績を残した早川は、プレミア12ではこの曲がり球を含めてどこまで仕上げてくるのだろうか。適応力の高さを誇るだけに、本番での完成度を楽しみに待ちたい。