東武東上線大山駅南口。駅直結でアーケード街にアクセスできる(撮影筆者)

建築会社や不動産会社などが毎年発表する「住みたい街ランキング」。トップテンの顔ぶれを眺めると、常連の吉祥寺や恵比寿、新宿、目黒、最近だと北千住や大宮なんかも人気だ。しかし、どれも「まぁそうだろうな」と思えるような街ばかり。

この連載では、住みたい街ランキングにはなかなか登場しないけれど、住み心地は抜群と思われる街をターゲットに定め、そこを実際に歩き、住む人の声と、各種データを集めてリポート。そして、定番の「住みたい街」にはない、「住むと、ちょっといい街」の魅力を掘り起こしていく。

今回おじゃましたのは、複数の商店街が入り乱れる板橋区大山町だ。地図に赤くマーキングしたあたりを散策した。

駅直結のハッピーロード大山商店街

東武東上線大山駅(板橋区大山町4-1)の南口改札はハッピーロード大山商店街に直結している。

アーケードがあるので、雨の日でも安心の商店街だ。駅を出て、北に向かって歩くと、すぐに踏切がある。そこから、西に向かってアーケードは続く。

街歩き好き、特に商店街好きの筆者は、当地をこれまで何度か訪れたことがある。歩いていると、違和感を覚えた。なんだかアーケードが短くなっているのだ。

【画像18枚】「池袋からわずか3駅」「アーケード商店街が魅力的!」…。板橋区・大山は住むと"ちょっといい街"だ

その理由は後ほど語るとして、まずは散策を続ける。


今回散策した場所(国土地理院発行の地図から筆者作成)

ハッピーロード大山商店街は1978年(昭和53年)に誕生。当時は板橋区随一のアーケード商店街として親しまれた。にぎわいは今も変わらない。200以上の店が並び、1日3万人が訪れるという人気ぶりだ。そのためか、大山駅の乗降客数は前後の駅に比べるとかなり多い。


2023年度の1日平均乗降人数(東武鉄道HPより筆者作成)


ハッピーロード大山商店街の入り口(撮影筆者)

地域医療の充実度は都内屈指

アーケードのかかったメインストリートから横道にそれると、また趣が変わる。歴史のある商店街なだけあって、昭和を舞台にした映画のセットのような風景が楽しめる。


アーケード街の入り口近くで枝分かれする小路(筆者撮影)

店先に置かれたテーブルで、ゆるゆるとタバコの煙をくゆらす強面(こわもて)の大山ダンディーがいたりするのだが、ひるまずにそのまま小路を抜ける。

すぐに視界が開ける場所に出た。東武線の線路に沿うように道は続く。進行方向を見上げると、板橋警察署 養育院前交番(板橋区栄町35-3)の向こうに、「東京都健康長寿医療センター(板橋区栄町35-2)」の姿が確認できた。


老年医学の拠点「東京都健康長寿医療センター」(撮影筆者)

東京都健康長寿医療センターは、高齢者医療及び老年学・老年医学研究の拠点として知られる総合病院だ。大山駅から歩いて数分の距離である。

「この界隈は病院がたくさんあるから、救急車の到着も早い。そういう意味じゃ高齢になっても安心して住める街だね」

ゆく先々で、そんな話を聞いた。

それはそれとして……。東京都健康長寿医療センターの真ん前にある交番の名前が「養育院前交番」というのがちょっとひっかかる。

調べてみると、東京都健康長寿医療センターができたのは2009年のこと。東京都老人医療センターと東京都老人総合研究所が統合して発足したのだそう。さらに、旧東京都老人医療センターは、かつて養育院附属病院という名称だった。交番の名前はその名残というわけだ。こうした道端のちょっとした不思議を解き明かすのも街歩きの魅力だ。

散策した付近には、東京都健康長寿医療センターの他にも、「東京都立豊島病院(板橋区栄町33-1)」や「昭成会 田粼病院(板橋区大山西町5-3)」など、大きな病院が集まっている。地域医療の充実度はかなり高い。

地元のことは地元の不動産屋さんに聞け

今回も、地元の不動産屋を訪ねた。いつものようにアポナシの訪問である。大山駅から徒歩3分の場所にある「株式会社くみん不動産 大山駅前店(板橋区大山東町59-2 くみん大山ビル1階)」。店長代理の長瀬優也さんが対応してくれた。


「株式会社くみん不動産 大山駅前店」店長代理の長瀬優也さん(筆者撮影)

「大山のウリは、やっぱり商店街ですよね。ハッピーロード大山商店街に隣接するかっこうで、遊座大山商店街があるし、板橋区役所のちょっと先には仲宿商店街があります」(長瀬さん)

うかがったくみん不動産は遊座大山商店街の入り口近くにある。


東武東上線の線路を挟んで、遊座大山商店街とハッピーロード大山商店街が向かい合う(撮影筆者)

「日常の買い物は商店街で事足りますし、池袋まで東武東上線で数分だから、生活圏内で手に入らないものはありません。古くからある商店街なので、長く住まれている方も多い。病院が近いから、高齢者の方でも安心して暮らせるんですよね。

あと、商店街を歩いていて気付いたかもしれませんが、整骨院とかマッサージ屋さんがたくさん営業しています。これは私の印象なんですが、周りに大きな病院がいくつもあるから、健康意識の高い人が集まりやすい。だから整骨院なども多いんじゃないかと思います」(長瀬さん)


主要駅へのアクセスは抜群(筆者作成)

駅前再開発は吉と出るか凶と出るか

先にも書いた通り、筆者は過去にこの街を何度か訪れたことがある。駅を降りてすぐの風景はかつてのままだが、アーケードが短くなっていることが気になった。長瀬さんに尋ねると、

「駅周りの再開発が進んでいて、その影響で、アーケードも一部取り壊しが始まっています。街のシンボルのような存在なので、残念に思っている人も多いようですね」(長瀬さん)

ことの発端は、東京都が2015年に事業認可を受けた道路の整備計画だ。計画された道路は、ハッピーロード大山商店街と一部重なる。その部分のアーケードの解体が始まっているのだ。ただし、快く思わない関係者も少なくない。意見は二分し、反対運動も起こっている。

再開発は道路だけではない。合計4棟のタワーマンションの建設も進む。「家賃が上がって商売がやりにくくなってきた」と嘆く商店主もいた。

「それでも、大山は古くから住んでいる方が多いから、住民同士の繋がりは深いですよ。街ぐるみのお祭りなども盛んです。私もつい最近、近所のお祭りに招かれてお神輿を担いできたばかりです。

あと、食べ歩きの楽しみもオススメしたいですね。ドーナツ屋さん、アイスクリーム屋さん、たこ焼き屋さん、ケバブ屋さん、クレープ屋さんなどなど。ちょいと小腹が空いたときにフラッと立ち寄れるお店がたくさんあります。

中でも『ピエロ』というクレープ屋さんは行列ができるほどの人気。とにかく種類が豊富なんです。流行りのお店とは異なる昔ながらの雰囲気を醸し出しつつ、若い方からお年寄りまで人気な場所。大山ってそういう街です」(長瀬さん)


長瀬さんオススメの「ピエロ」。これでもかというくらいのメニュー数だ(撮影筆者)

歩き回るのに疲れると、甘いものが欲しくなる。どうせなら古くからやっている店を探したい。できればタバコを吸えるとなおありがたい。

検索すると、ぴったりの店を発見した。先ほどおじゃましたくみん不動産のすぐ近くにある喫茶店「能舞台(板橋区大山東町45-2)」だ。


喫茶店「能舞台」(筆者撮影)

さっそく入ってみる。カウンター席が10人分。6人がけのテーブルがひとつに、4人がけのテーブルが4つの店内だ。ひといきついてから、クリームあんみつ(750円税込み)をオーダーした。

この地で40年以上、商売を続けている喫茶店

待っている間にタバコを1本吸う。店には「タバコは3️本まで」という独自ルールがあるので、緊張の一服だ。聞くとコロナの時期に、混雑を緩和するために作ったルールらしい。タバコを吸わない客からは好評で、今も続けているようだ。


コロナ時代に作ったルール(撮影筆者)

運ばれてきたクリームあんみつは、バナナ、マスカット、柑橘系とフルーツの量が期待以上で幸福感が上昇する。それらの味を損なわない程度に黒蜜を回しかける。この塩梅が極めて重要だ。少し疲れているので、若干多めに使わせてもらった。


クリームあんみつ。750円税込み(筆者撮影)

店主の高屋真一さんは御年73歳(取材時)。この地で40年以上、商売を続けている。屋号の「能舞台」は、「ゆっくりできる雰囲気の店作りをしたい」との思いからつけたらしい。大山の魅力について尋ねると、

「やっぱりね、病院が多いことが嬉しいね。長く商売を続けていると、いろんなことがあるでしょ。店の前で具合が悪くなった人がいたりして、これまで4回くらい救急車を呼んだことがある。いつも、ものの数分で到着しますよ。他の場所じゃこうはいかないでしょ」(高屋さん)


生まれも育ちも板橋 高屋真一さん(撮影筆者)

地元の常連さんに愛される店だが、切り盛りは難しい。

「昔はここらへんは物価が安いって言われたんだけど、今じゃそんなことなくてね。なんでもかんでも高くなってる。これまで頑張ってきたけど、この10月からブレンドコーヒーの値段を430円から500円に値上げしました。お客さんも納得してくれてるみたいで、客足が遠のくということはないようですね」(高屋さん)

また、治安がいいのも大山の魅力なのだそうだ。「住んでいる人が皆優しいんだよ。店で救急車を呼んだときだって、お客さんが総出で手伝ってくれた」と高屋さん。

24時間営業の本屋まである商店街

能舞台を出て、さらに散策を続ける。アーケード街の中程に、面白い店を見つけた。24時間営業の本屋だ。どうやら現状は「実証実験中」らしい。

書籍の取り次ぎ大手、株式会社トーハンと、デジテール ストア(旧称:MUJIN書店)を運営する株式会社Nebraskaの協業で始まった取り組みだ。デジテール ストアの実証実験第3号店「メディアライン大山店」(板橋区大山町4-4)として2024年3月15日から24時間営業をスタートしたという。


24時間営業の書店「メディアライン大山店」(筆者撮影)

夜中に訪ねてみると、なるほどやっている。22時以降は無人営業だ。

有人 月〜土 10:00〜22:00、日・祝 10:00〜21:00

無人 月〜土 22:00〜翌10:00、日・祝 21:00〜翌10:00

店頭にあるQRコードからLINEの公式アカウントで友だち追加。無人営業の時間帯は、ドア横にあるQRコードを読込むと、自動ドアが開くシステムだ。夜間の会計は完全セルフで、キャッシュレス。購買履歴などをLINEで確認することもできるらしい。

職業柄、本はよく読む。近所にこんな店があったらさぞかし便利だろう。「引っ越そうかな」と思わず呟いてしまった。


複数の物件サイトと現地取材により筆者制作

何十年と地元に根付いた店がある一方で、こうした実験的な店舗も進出する大山。長く住んでも飽きのこない街と言えるだろう。大都市池袋から近いだけあって、家賃相場はそこそこ高いが、刺激を求める人にはオススメである。


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(末並 俊司 : ライター)