『この世界は1ダフル』(写真:番組公式Xより引用)

記憶力や論理的思考力・説明力、抽象的な思考能力など、「頭がいい」といわれる人の特徴になるような能力というのは、先天的に決められている部分があり、後天的に獲得している能力は少ないと考える人が多いのではないでしょうか。

その考えを否定するのが、偏差値35から東大合格を果たした西岡壱誠氏です。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)編集担当の西岡氏は、小学校、中学校では成績が振るわず、高校入学時に東大に合格するなんて誰も思っていなかったような人が、一念発起して勉強し、偏差値を一気に上げて合格するという「リアルドラゴン桜」な実例を集めて全国いろんな学校に教育実践を行う「チームドラゴン桜」を作っています。

そこで集まった知見を基に、後天的に身につけられる「東大に合格できるくらい頭をよくするテクニック」を伝授するこの連載。連載を再構成し、加筆修正を加えた『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』は、発売後すぐに3万部のベストセラーとなっています。連載第146回は特別編です。西岡壱誠さんが、10月31日に放送予定の『この世界は1ダフル』(フジテレビ系)でも紹介される、西岡さん自身の受験体験談をお話しします。

ドラゴン桜に触発された我が子に対して…


10月31日に、『この世界は1ダフル』(フジテレビ系)という番組が放送されます。この中で、『ドラゴン桜』の原作者の三田紀房先生が、僕(西岡壱誠)の受験エピソードを紹介してくださいます。

僕自身は偏差値35から東大に合格しました。それでも、「偏差値が低い我が子が、東大に合格することは可能なのか?」と疑問を抱く親御さんもいるようです。

日曜劇場「ドラゴン桜」(TBS系)の放送中、僕は『ドラゴン桜2』の編集担当として仕事をしている中で、ある親御さんからこんな連絡をもらったことがありました。

「私の子どもが、『ドラゴン桜』を見て、東大に行けるなんて勘違いをしている。行けるわけないのに、子どもが間違った夢を見たらどうしてくれるんだ!」

つまり、東大を目指せる学力にはない我が子が『ドラゴン桜』に触発されて「東大を目指したい」と言ったことで、「無理に決まっているのに、おかしな夢を見せるな」と怒って連絡したわけですね。

みなさんはこれについてどう思うでしょうか?

このご意見をいただいたうえで、僕はこう考えました。「じゃあ実際に、僕自身や『ドラゴン桜』のように、偏差値が低い学校や、逆境に立たされている中で、東大に逆転合格した人って、どれくらいの人数いるのだろう?」と。

それから僕らは、会社で東大生にアンケート調査やインタビューなどを実施し、"リアルドラゴン桜"の調査をしました。

内容としては、以下の3つの項目のうち2つ以上当てはまる人をリアルドラゴン桜と定義しています。

1 高校入学時点で、全国模試の総合偏差値が50を切っていた人

2 高校の進学実績の中で、10年以上東大合格が出ていない高校出身の人

3 受験の年に、東大受験が困難になるような問題が発生した人(自分または家族が病気になってしまった、家庭でなんらかのトラブルがあった場合など)

アンケート結果からは、東大生の全体の約2%程度がこの条件に当てはまることが見えてきました。つまり3000人の東大新入生の中で60人程度は、"リアルドラゴン桜"だと言えるのです。

もちろん定義や調査方法によって数字は変わるでしょう。しかし「偏差値が低い学校から東大に合格する」という人が、夢物語の存在ではなく、現実世界にもいるということは、多くの人が知っておくべき話なのではないかと思います。

子どもが大きな挑戦できなくなる

これを踏まえて、先ほどの「子どもが東大を目指したらどうするんだ」という意見を考えてみましょう。

もちろん東大受験はとても難しいですし、親御さんの目から見て「この子は東大なんて絶対無理だろう」という子もいるかもしれません。

でも逆に、「この子は東大なんて絶対無理だろう」と考えているからこそ、子どもが親を信じることができず、大きな挑戦ができなくなっている場合もあると思います。

僕は、小中学校でずっと学年ビリの成績を取っていました。赤点常連で、小テストは毎回再テスト。中学のときには三者面談を3時間やって、「なんでお前は真面目に勉強に取り組まないんだ」と怒られていました。高校入学時点では偏差値35。高校2年の3月の模試では英語が3点で、適当にマークしたところが当たっただけでした。

そんな僕に対して、音楽の先生が、『ドラゴン桜』の桜木先生のように、「東大に行け」と言ったから、僕は東大を目指すことにしたのです。

東大に合格した後でその先生に、「あの時、僕に『東大に行け』と言ったのは、僕が東大に行ける実力を秘めていると思ったからですか?」と聞いたことがあります。

答えは「いや、まったくそんなふうには思っていなかった。でも、お前は周りの大人たちからあんまり期待されていなかったから、それが不憫だと思ったんだ」とのことでした。

「子どもは、周りの大人が期待した以上には伸びない。周りの大人が全員『ここまでだろうな』とラインを引いたら、そこから上に行くことはない。だから、俺くらいは、そのラインを天井のところまで引いて、『お前は、ここまで行けるはずだ』って言ってやろうと思ったんだ」

東大に逆転合格した人も、この音楽の先生のケースと同じように、「周りの大人から言われた言葉で東大を目指した」という場合が多いです。

『ドラゴン桜』でも、周りの大人の言葉で、子どもの自己肯定感が大きく変わるという話があります。

※外部配信先では漫画を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください



(漫画:©︎三田紀房/コルク)




(漫画:©︎三田紀房/コルク)

ここで描かれているとおり、子どもが自分のことを信じることができるかどうかは、周りの大人の声がけによって変わります。


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僕は音楽の先生から「お前だったら頑張れる。東大に行け」と言われたから変われた人間です。

そんな僕の目から見て、「子どもが東大を目指したらどうするんだ」という言葉は、とても残念に思います。

子どものことを信じる大切さ

少なくとも親御さんがそう言ってしまっているうちは、子どもは東大に限らず、どんなささいなことでも「やってみよう」という気にはなれないだろうな、と。

ほんの少しでいいので、子どものことを信じてあげる大人であってほしいと思います。そうすれば、子どもはのびのびと成長できるのではないか、と。リアルドラゴン桜な人間として、僕はそう思うのです。

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(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)