18年のACL初制覇から優勝の二文字が遠ざかる鹿島。確固たるスタイルの構築が必要なのではないか。写真:田中研治(サッカーダイジェスト写真部)

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 もし、日本を訪れた外国人のサッカーフリークに、「Jリーグを代表する強豪クラブはどこですか?」と尋ねられたら、なんと答えるのが正解だろう。

 ラ・リーガならレアル・マドリーとバルセロナ、セリエAだったらユベントスとミラノの2チーム(ミランとインテル)、ブンデスリーガはバイエルンで、プレミアリーグは近年であればマンチェスター・シティ、リバプール、アーセナルの3強が、すぐに思い浮かぶ。

 ならば、Jリーグは?

 歴代最多8回のリーグ優勝を誇り、2018年のACL制覇で通算「20冠」を達成した鹿島アントラーズ。しかし、それ以降はタイトルからすっかり遠ざかり、“常勝軍団”という謳い文句も今では薄ら寒く響くようになった。

 同じくJリーグ創設時からの「オリジナル10」メンバーで、一度も下部カテゴリーに降格したことのない横浜F・マリノス。過去5シーズンで2度のリーグ優勝を誇るが、今シーズンはハリー・キューウェル監督の招聘が裏目に出て、下位に低迷している。

 近年の成績で言えば、「川崎フロンターレ」と答えるのが正解だろうか。しかし、シルバーコレクターの汚名を返上し、17年からの5シーズンで4度リーグの頂点を極めたチームも、この2シーズンは優勝争いに絡めていない。

 いずれも「Jリーグきっての強豪」と、胸を張ってお勧めするには抵抗がある。

 もちろん、100年以上の歴史を持つ欧州のトップリーグと、たかだか創設30年ばかりのJリーグを比較するのは乱暴だし、リーグを代表する強豪クラブもこれから生まれるのかもしれない。それでも、鹿島、横浜、川崎に限らず、“強さを継承する難しさ”を感じているJクラブは少なくないはずだ。
 
「人」「カネ」「哲学(=スタイル)」。欧州のメガクラブにはこの3つがすべて、少なくともそのうちの2つがハイレベルに備わっている。

 1980年代以降に2部降格を4度も経験し、98-99シーズンには3部でのプレーも強いられたマンCが、いまや欧州最強と呼ばれるまでになった最大の要因は「カネ」だ。

 08年の『アブダビ・ユナイテッド・グループ』による買収で、圧倒的な資金力を手に入れると、セルヒオ・アグエロをはじめビッグネームを相次いで獲得。11-12シーズンに44年ぶりのトップリーグ制覇を成し遂げたクラブは、16年夏に名将ペップ・グアルディオラを招聘し、最先端の戦術スタイルとともに黄金期を築き上げていくのだ。

 対照的に、同じ街のライバルクラブで、かつて世界の最高峰に長く君臨してきたマンチェスター・ユナイテッドが凋落したのは、「人」と「哲学」を失ったからだろう。12-13シーズンを最後にサー・アレックス・ファーガソンが去って以降、1度もプレミアリーグの覇権を握れずにいるが、それは現場の意向を汲み取らないフロント主導の補強と、監督のクビをコロコロと挿げ替える一貫性の欠如が原因だ。マンC、そしてリバプールやアーセナルに水を開けられた理由はそこにある。

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 翻ってJリーグだ。23年度のクラブ経営情報開示によると、J1全18クラブの平均売上高はおよそ52億円。唯一100億円の大台に乗ったのが浦和レッズだが、平均値を超えたクラブも8つあり、資金力でリーグ内格差は生じていない。つまり飛び抜けて裕福なクラブがない分、飛び抜けて強いチームも生まれないのだ。

 いわば総中産階級。「カネ」がなければ、「哲学」で道を切り開くしかない。それをやってのけたのが、ボール保持型のアタッキングフットボールを掲げてリーグを制した横浜と川崎だが、しかし強くなればその代償として「人」を失う。

 年間収益額が1000億円超のマンCやR・マドリーといったメガクラブにはもちろん、欧州の中堅クラスにも運営規模で太刀打ちできない現状では、Jクラブは手塩にかけて育てたタレントが海外へ流出するのを、ただ指をくわえて眺めるしかない。

 Jクラブの大半は、人材を“搾取される側”だ。とりわけ川崎は、三笘薫、守田英正、板倉滉、田中碧、谷口彰悟といった日本代表クラスを根こそぎ海外クラブに奪われた結果、競争力を著しく低下させてしまった。
 
 17年の就任以来、クラブにポゼッションスタイルを定着させ、7つのタイトルをもたらした功労者の鬼木達監督だが、これほど主力が流出しては理想のサッカーを体現するのも難しかっただろう。成績不振の責任を取って、今季限りで8年の長期政権に終止符を打つが、後任人事も含め、いかに鬼木監督の遺産を継承するかは、川崎のフロントに課された大きなテーマだろう。

 横浜に関しては、優秀な指導者を相次いで失ったダメージが、強さの継承にストップをかけてしまった。アタッキングフットボールを植え付けたアンジェ・ポステコグルー(現・トッテナム)、それを進化させたケヴィン・マスカット(現・上海海港)がチームを去ると、今季同じオーストラリア人のキューウェルを招聘。しかし、監督経験の少なさはいかんともしがたく、チーム内に不協和音を招いた末に、わずか7か月で解任されている。

 鹿島に至っては、「哲学」さえ曖昧になりつつある。この約4年半で監督交代が実に5回。今季から指揮を執ったランコ・ポポヴィッチ監督は、怪我人が多いなかでも少数精鋭のチームをなんとか上位にとどめてきたが、それでも10月上旬に解任の憂き目を見ている。

 これでは明確なスタイルなど根付くはずもない。「献身、誠実、尊重」を掲げたジーコ・スピリッツの継承とともに、ピッチ上でも壁にぶつかった時に立ち返られるような“鹿島スタイル”の構築が、今こそ必要なのではないか。

 Jリーグに、誰の目にも明らかな強豪クラブが存在しないのは、とにかくクラブ数を増やして横への拡張路線を突き進み、縦の階層を作ってこなかったからだろう。

 ここにきて、ようやくJリーグは今後の成長戦略として、「世界と肩を並べるようなトップクラブを生み出す」ことを掲げ、カテゴリー間の格差をより明確にしていく考えを示している。

 国内に「ここでプレーしたい」と若い選手たちが憧れるようなビッグクラブが誕生すれば、有望株の海外流出もある程度は抑止できるだろうし、リーグ全体の競争力アップにもつながるはずだ。

 しかし、そんな未来が訪れるのは、まだまだ先の話だろう。当面は「カネ」も「人」も限られるなかで、いかに強さを継続させられるかを模索していくしかない。
 
 だとすれば、やはり揺るぎのない「哲学」のもと、独自のスタイルを築き上げ、ブラッシュアップしていくことが最善の策に違いない。ジネディーヌ・ジダンやカルロ・アンチェロッティのようなマネジメント能力に秀でた指揮官が、当代随一のスター選手たちを気持ち良くプレーさせることで強さを維持してきたR・マドリーにはなれなくても、カンテラの若者を大切にし、ボールゲームという立ち返るべき原点を持ったバルサになら、Jクラブでも近づくことは可能ではないか。

 財政難に苦しみ、宿敵R・マドリーとの比較で近年は浮き沈みが激しいバルサだが、それでも欧州のトップレベルを維持できているのは、自前で育てた極上のタレントが、いつの時代もチームを支えてきたからだ。

 シャビ、アンドレス・イニエスタ、リオネル・メッシ、ジェラール・ピケが去っても、ガビ、フェルミン・ロペス、パウ・クバルシ、マルク・カサド、そしてラミン・ヤマルといった新たな才能が、とめどなく出現する。

 そんな枯れることのない才能の泉を見つけ出し、それを有効活用できる監督――かつてのペップや現在のハンジ・フリックのような――に出会えたクラブが、いつかJリーグを代表する強豪クラブと呼ばれるようになるのかもしれない。

文●吉田治良