【社説】高等教育無償化 実現へ財源の議論深めよ
教育の無償化を衆院選で公約した政党が多い。とりわけ高等教育を無償とすることに積極的だ。
家庭の経済状況によらず、希望すれば進学できるようにするのは国の責務である。大いに進めてほしい。
文部科学省は2020年度から低所得世帯に対する無償化制度を導入した。大学や短大、高専、専門学校などの授業料や入学金を減免し、返済不要の給付型奨学金を支給する。23年度は約34万人が支援を受けた。
効果は、はっきりと表れている。住民税非課税世帯の大学などへの進学率は、18年度の約40%から23年度は70%近くに上がった。
25年度からは対象が拡大される。3人以上の多子世帯の学生は、一定額までの授業料と入学金が所得制限なしに無償になる。
それだけで十分とは言えない。物価高騰の影響もあり、中間所得層でも無償化への期待は大きい。
子どもが地方から首都圏などの大学に通う場合は、家賃や仕送りの出費がかさむ。授業料値上げを決めた国立大もある。学費の負担は重くなるばかりだ。
各党は「高等教育の無償化を大胆に推進」「2030年代の大学無償化」「国公立大の授業料無償化、私立大は同額程度の負担軽減」と競うように訴える。
実現には巨額の費用がかかる。これまでの無償化には消費税の増額分を充てたが、対象者が増えれば足りない。
公約の多くは肝心の財源に触れていない。これでは実現可能性に疑問符が付く。財源や国民負担の有無を説明し、議論を深めるべきだ。
日本では所得の格差が広がっている。文科省などの調査によると、所得が少ない世帯やひとり親世帯では、中学生と保護者が大学進学を希望する割合が平均より低い。公的支援の拡充は不可欠だ。
広がる格差は子どもの成長過程にも影を落とす。塾や予備校での勉強だけでなく、人生を豊かにするスポーツや音楽、美術などを体験する機会にも差が生じている。
石破茂首相や立憲民主党の野田佳彦代表は「親ガチャという言葉を根絶したい」「死語にしよう」と語る。
親ガチャは「子どもは親を選べない」「どのような親の下に生まれるかで人生が決まってしまう」という意味で、流行語になった。何が出てくるか分からないカプセル玩具の販売機「ガチャガチャ」に由来する。
子どもの教育格差是正は、与野党が一致して取り組めるテーマだ。子どもや保護者が希望を持てるよう道筋を付けてもらいたい。
学歴は生涯賃金に格差をもたらす。無償化で高等教育を受ける機会を広げることは、所得格差の世代連鎖に歯止めをかける意義もあろう。