ホームドア撤去で前進「JR羽田空港新線」工事の今
JR田町駅付近を走る山手線。後ろに羽田空港アクセス路線の1つ、東京モノレールが見える(記者撮影)
都市部の鉄道を中心に普及が進むホームドア。東京圏ではJR東日本が2031年度末ごろまでに主要路線330駅に設置する方針で、2024年度は計26駅・55番線に整備するとしている。
そんな中、一部ではあるがホームドアを「撤去」する駅がある。田町駅の山手線外回り(品川・渋谷方面)3番線だ。同ホームでは10月24日の初電から、後ろ寄りの3両分、9〜11号車にあたる部分のホームドアの稼働を停止。JR東日本首都圏本部によると同月26日以降、月内に撤去するという。
田町駅と羽田アクセス線、どう関係?
駅に貼られた「お知らせ」のポスターには「11月以降にホーム拡幅工事を予定」との文言があり、これがホームドアを撤去する理由だ。だが、この工事は単にホームの幅を広げるのではない。2031年度の開業を目指す「羽田空港アクセス線(仮称)」整備の一環だ。
【写真と図でわかる】JR羽田空港アクセス線はどこを通る?東海道本線とつながる田町駅付近や休止中の貨物線「大汐線」の現在の様子も
羽田空港アクセス線は、羽田空港と湾岸部にある東京貨物ターミナル付近を結ぶ約5kmの「アクセス新線」を建設し、既存の線路と接続するなどして都心部各地と羽田空港を直結する計画。東京駅方面と結ぶ「東山手ルート」、新宿駅方面と結ぶ「西山手ルート」、新木場駅方面の「臨海部ルート」の3ルートを整備する予定で、現在はアクセス新線と東山手ルートの工事が進んでいる。
東山手ルートは、田町駅付近で東海道本線と1998年以来休止中の貨物線「大汐線」を接続し、東京貨物ターミナル付近でアクセス新線に乗り入れて東京駅方面と羽田空港を直結する。開業すれば東京駅と羽田空港間が約18分でダイレクトに結ばれるほか、宇都宮線・高崎線・常磐線方面からの所要時間短縮や乗り換え解消なども期待される。
休止中の貨物線「大汐線」。羽田空港アクセス線の東山手ルートは同線を活用する(記者撮影)
同ルートとアクセス新線は2023年6月に起工式を行い、本格的な工事に着手。現在は「工事の支障となる地上設備などの移転や撤去工事を行っている」(JR東日本)ほか、東京貨物ターミナル付近で保守基地線の整備を進めているという。また、アクセス新線の空港島内のトンネルは国土交通省が空港整備事業として建設することになっており、こちらも2023年12月に着手した。
羽田空港アクセス線は田町駅には停まらず、山手線に乗り入れるわけでもない。では、なぜ同線の工事が山手線外回りホームに関係するのかといえば、同駅付近で東海道本線と大汐線を接続する線路を整備するためだ。両線は現状ではつながっていないため、同駅の東京寄りで東海道本線から分岐して地下トンネルに入り、大汐線につながる新たな線路を建設する。この際に必要となるのが、山手線外回りを含む線路の移設だ。
線路を移設してスペース確保
田町駅付近は西側から順に京浜東北線北行(大宮方面)、山手線内回り・外回り、京浜東北線南行(大船方面)、東海道本線上り・下りの計6線、そして東海道新幹線が並んでいる。
新たな線路は東海道本線の上り線と下り線の間に設けるが、現状ではスペースがない。一方、同駅の東京駅寄りには山手線の電車が折り返しなどのために使う「引上げ線」と呼ばれる線路が内回りと外回りの間に1本あった。
田町駅付近の東海道本線を走る常磐線特急列車。手前の線路は東海道新幹線(記者撮影)
そこで、工事ではこの引上げ線を撤去したうえで、山手線外回りと京浜東北線南行、そして東海道本線上りの線路をそれぞれ西側に移設し、新たに敷設する線路のためのスペースを確保する。この際に山手線外回りの「線路の形状変更がある」(首都圏本部)ため、影響がある部分のホームドアを一時的に撤去するわけだ。
JR東日本によると、山手線の引上げ線は2024年1月までに撤去を完了した。今後実施することになる、各線の線路を移設する切り換え作業については「具体的な回数や方法、時期などは現在検討中」という。山手線外回りホームの拡幅についても「改修の時期は未定」(首都圏本部)だ。
ただ、撤去したホームドアは2026年春ごろに再設置される予定で、それまでには線路の切り換えが済んでいると考えられる。
羽田空港アクセス線の工事に伴って3両分を撤去する田町駅の山手線外回りホームドア(写真:JR東日本提供)
国が整備する空港島内の区間も工事が進んでいる。同区間は約2.4kmで、アクセス新線のトンネルのほか、空港の第1旅客ターミナルと第2旅客ターミナルの間を通る道路の地下に羽田空港新駅(仮称)を建設する。同駅は長さ約310mのホーム1面2線を設ける計画だ。
国交省関東地方整備局東京空港整備事務所によると、現在はシールドトンネルの掘削に向け、工事用機械や資材の搬入などを行う「立坑」整備のための作業を進めている。また、空港駅を建設する部分では道路を通行止めにする必要があるため、代わりに仮設の道路を造る「切り回し」を行っているという。
直通運転を求める声も
各地で工事が進展する中、羽田空港アクセス線への直通列車実現を求める動きも出ている。
栃木県栃木市・鹿沼市・日光市の自治体や議会、商工関係団体などは10月7日、「東京都心・羽田空港直通電車推進期成同盟会」を立ち上げた。3市が位置する東武日光線の沿線から「地域振興や観光発展のために直通電車を実現するのが目的」(栃木市総合政策課政策総務係)だ。今後は東武鉄道とJRに対して要望活動を行っていく方針という。
北関東方面から羽田空港アクセス線への直通については、2016年に国の交通政策審議会がまとめた東京圏の鉄道網整備についての答申にも「久喜駅での東武伊勢崎線と東北本線の相互直通運転化等の工夫により、さらに広域からの空港アクセス利便性の向上に資する取組についても検討が行われることを期待」との文言が盛り込まれている。今後、他地域でも直通を求める声が上がる可能性はありそうだ。
田町駅付近の「雑魚場架道橋」を走る山手線と京浜東北線の電車。この付近では明治期の鉄道遺構「高輪築堤」の石積が見つかった(記者撮影)
各地で進展はしているものの、これまで一般利用者の目にはなかなか触れることのなかった羽田空港アクセス線の工事。田町駅の山手線ホームドア撤去は、2031年の開業に向け、整備が目に見える形で本格化しつつあることを示している。
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(小佐野 景寿 : 東洋経済 記者)