所沢に誕生「エミテラス」に"普通"の声が続出の訳
2024年9月24日、所沢に「エミテラス所沢」が誕生した。なかなか勝手のいい施設だが、一方で「回転型資産」になるかはなんとも言えない印象がある(著者撮影)
2024年9月24日、所沢に「エミテラス所沢」が誕生した。西武リアルティソリューションズと住友商事がタッグを組んで誕生した商業施設で、所沢駅周辺で進む再開発事業の一環として建てられたものだ。
西武リアルティは、ここ最近、自社の不動産ビジネスを「保有型から回転型」へと転換すると発表している。自社が保有する不動産で再開発を行い、その土地の価値を上げて売却。その利益でまた別の土地を購入し……と土地を回転させることで利益を上げる方法だ。同社はこの方法で、赤坂プリンスホテル跡地に建てた「東京ガーデンテラス紀尾井町」の売却も目論んでいる。
「赤プリ」の跡地に建設され、2016年に開業した複合施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」。西武グループの中でも、もっとも事業用資産の価値がある物件だが、売却の予定となっている(記者撮影)
その「回転型ビジネス」参入を発表してからはじめての大型商業施設が、今回の「エミテラス所沢」である。この再開発によって同地の地価を上げ、最終的には売却する方針だ。
では「エミテラス所沢」、地価を上げるポテンシャルを持っているのだろうか? 実際に行って確かめてみた。
ウリは店舗数の多さ、駅からも近い
エミテラス所沢は、西武線所沢駅西口から歩いて4分のところにある。改札前から続く歩行者用デッキを進んでいけるから便利だ。
途中、西武所沢「ワルツ」の中も通るのだが、まさに「西武」に包まれた街だと実感する。
西武所沢「ワルツ」の外観(著者撮影)
外観はスッキリしていて、いわゆる「ショッピングモール」という感じ。お馴染みの店の看板がずらりと並ぶ。
中に入ってみよう。さすが、開業したばかりなこともあって中はとてもきれい。人もたくさんいる。
きれいだし、人も多く、今のところは混雑しているようだ(著者撮影)
館内を歩いて気づくのは、店の多さだ。テナントは142店舗を構え、しかもそのうち94店舗は所沢市初出店。22店舗は埼玉県初出店でもある。
尖った店から普段使いの店までバランスのいいフードコート
中でも異彩を放つのが1階のフードコード「こもれびフードホール」。1000席を完備した巨大なフードコートだ。
こもれびフードホール(著者撮影)
ベトナムで人気のフォー店「フォーティントーキョー」や、小籠包で有名な「ダパイダン105」など、まだ日本でも数が少なく、引きの強いテナントが軒を連ねる。実際、これらの店舗は平日だというのに大行列で、テナント誘致には成功したようだ。
日本で4店舗目の「フォーティン トーキョー」に、(著者撮影)
大行列のダパイダン105。尖った、珍しい店もいろいろとある(著者撮影)
ただ、このフードコートの魅力は、そうした「尖った」店舗だけにあるのではない。そのほかにも、丸亀製麺やフレッシュネスバーガー、サーティワンなど、お馴染みのテナントが並んでいて、全体的にバランスがいいことにある。
フードコート内は広々としており、店のチョイスもなかなかいい感じだ(著者撮影)
この施設のスローガンの一つは「ベッドタウンからリビングタウンへ」だというが、まさに「リビング」、住むことに重点が置かれているのだ。
ザ・ショッピングモールな「エミテラス所沢」
テナントの多様さはフードコード以外でも感じられる。
いわゆる、「あったらいいなあ」と思うテナントが大体あるのだ。
店が続く(著者撮影)
ユニクロやスポーツデポ、ジュンク堂書店にノジマ……と、だいたいここに来れば生活に必要なものが揃ってしまう。
また、カプセルトイショップである「#C-pla」、ポップアップショップのスペース(私が訪れたときは人気ゲーム「マインクラフト」のショップになっていた)、ヨギボーショップなど、近年の商業施設にみられる定番のショップも入っており、テナントのバランスは非常にいいといえるだろう。
ジュンク堂書店に、(著者撮影)
カプセルトイショップの#C-plaに、(著者撮影)
ポップアップストアも(著者撮影)
特に、キッズ向け用品を扱う店舗が多いのも魅力の一つ。3階フロアの一角には「おかしのまちおか」や「アカチャンホンポ」、「ニキティキコレクション」など、ベビー用品、キッズ用品、あるいは子どもが好きな店が集中的に集まっていて、ファミリー層にとっては便利だろう。実際、この施設では「ファミリー層」と「アクティブシニア層」をメインターゲットとしているから、こうしたテナント構成になるのだろう。
アカチャンホンポでは、ベビーカーを押すファミリー層も目立った(著者撮影)
また、日用品売り場だけではなく、ゲームセンターやシネコンなどのエンタメ施設も入っており、全体としてバランスがいい。特にシネコンは1800席規模で12スクリーン、最新機器を揃えているため、所沢外からの需要も見込めるだろう。
シネコンのT・ジョイエミテラス所沢(著者撮影)
このように、全体としてテナントパワーが優れており、「よくできたショッピングモール」という印象を持った。
エミテラス所沢は「価値」を生み出せるか?
しかし、この施設で土地の不動産価値が上がるのかと言われると、正直、なんとも不明瞭だと思ってしまった。というのも、今の話を聞いてお気づきの方もいるかもしれないが、ここ、「至って普通のショッピングモール」だからだ。
現状でのエミテラスの利点は、その大部分がテナントパワーに頼っている。しかし、例えば所沢の他の場所に似たテナントが出店すれば、別にエミテラスに行かなくてもよくなってしまう。
実際、ネットのレビューなどをみると、「映画館は嬉しいし、フードコートもいいけど、他は普通かな」といったものも散見される。特に所沢は、他に多くの商業施設があり、街全体として見たときには、すでに多くのテナントがひしめている状況である。
同じ系列だが、駅にはグランエミオ所沢があっていろいろなテナントが入っている(著者撮影)
あるいは、より視野を広げれば、所沢に近い国道沿いに似たようなショッピングモールが乱立すれば、必然的にその価値は下がってしまう。
たとえば、16号線沿線は若年層の流入が多いエリアで、さまざまなショッピングモールが並んでいる。「エミテラス所沢」は主に駅を交通手段として用いる人向けに作られている施設だが、所沢周辺にも多くいる自家乗用車を持っている世帯であれば、そちらの郊外のショッピングモールに流れてしまうかもしれない。
こうなると、「エミテラス所沢だからこそ」の魅力を作っていく必要があるのだが、まだまだその「場所」としての魅力には乏しいのではないか、と感じてしまう。
エミテラスの「テラス」は、共同で同施設の開発に携わる住友商事が押し出す「テラスの思想」に影響を受けている。テラスのように開かれた空間を作ることが目指されているのだ。
そう考えると、エミテラスでは、こうした「テラス」要素をもっと押し出してもいいのではないか? というよりも、むしろそこを押し出さなければ、さまざまな商業施設のある所沢で「価値」を訴求できないのではないかと感じる。
1階には芝生広場などもある(著者撮影)
少し残念な空間の使い方
実際、エミテラスもテナント以外の空間としての魅力をたくさん用意してはいる。
4階の「そらくもダイニング」などは、レストランに囲まれた区画にベンチやテーブルがたくさん置いてあり、子どものための遊び場もあっていい雰囲気。その他にも座れる場所はそこそこ用意されている。
(著者撮影)
しかし、それらのポテンシャルが最大限活かされていないように感じるのだ。
例えば、施設の中央にある「センターコート」はその一例だ。国内の商業施設では最大規模だという大型ビジョンが全面に掲げられ、その前の空間ではイベントなどが開けるようになっている。実際、オープニングイベントでもこのビジョンを用いて「デジダル打上げ花火セレモニー」が開かれた。
施設の中央にどデカいスペースが(著者撮影)
しかし、この空間、イベントが行われていないときは、「無の空間」である。特にそこで何があるというわけでもなく、ただただ人がいない空間になっている。
椅子やテーブルも少し置かれているのだが、圧倒的に「何もなさ」が、上回ってしまっており、非常にもったいなく感じる。大型ディスプレイを用いていろいろと遊ぶこともできるようなのだが、遊んでいる人は少なかった。
このスペースは吹き抜けになっているが、なおさら空洞感が出てしまう(著者撮影)
私は、こうした「何もない」空間を否定するわけではない。むしろ、テナントで敷き詰めがちな商業施設の中で、こうした「余白」をつくることは重要だと思う。とかく「意味」を求められがちな現代の都市において、「何もしなくてもいい自由」が担保される空間だからだ。
でも、それは「ただ何もない」のとは違う。重要なのは、それによってさまざまな人が集う自由で「居心地のよい」場所を作ることだ。そうでなければ、ただの寂しい空間になってしまう。
椅子やテーブルはちらほら置いてあるが……(著者撮影)
例えば大阪に誕生した「うめきた公園」も、何もない空間がひろがっている。広大な芝生がメインの空間だ。
けれども、そこでは芝生が敷き詰められていることで人々が寝っ転がったりできるし、あるいは椅子の無料の貸し出しがあったりして、人々がそこで気持ちよく滞留できる工夫がある。何より、うめきた公園は全体の風景のデザインにこだわっていて、人々が居心地のいい空間を作る工夫がなされている。
芝生で寝そべる人々。外国の公園みたいだ(筆者撮影)
公園と商業施設では、その開発のスキームが大きく違うから比較するのは酷かもしれないが、我々消費者から見れば、どちらも同じ空間だ。その意味で、エミテラス所沢はこうした「滞留」スペースとしての価値を向上させたほうがいいのではないかと感じるのだ。
エミテラス所沢にはゆったりした椅子やテーブルがあるスペースも。「あ、こういうの助かる」と思う人は少なくないはずなので、こうした部分を強調したほうがいい気がした(著者撮影)
4階にある「そらくもひろば」でも似たことを感じた。そこは屋上公園のようになっており、遊具などがあって子どもが遊べる広場になっている。しかし、どこか窮屈な感じも否めず、もっと工夫すれば、より子どもたちが伸び伸び遊べる自由な空間になるのに……という感覚を持ってしまった。
空は見えて気持ちいい……が、少し狭いかも?(著者撮影)
「テラス」的な開かれた空間への意図は感じなくはないが、どこかその目的が中途半端になってしまっていると思うのだ。
さまざまな商業施設が増え、テナントもたくさんある現在、「エミテラス所沢だからこそ」の場所としての価値を作っていかなければ、施設の価値は向上していかないだろう。
こうした空間も不自然に空いてしまった空間も気になるところ。もう少し工夫ができるのではないか?(著者撮影)
むろん、ビジネス的な観点で言えば、短期での収益回収性を見込んでテナントで敷き詰めたくなる気持ちは理解できる。
しかし、さまざまな商業施設が増えている現在、長期的な視点で見れば、人々が集う場所としての空間価値を訴求したほうが結果的にその場所の価値も向上していくのではないか。
コミュニティのハブとなるような商業施設を作っていってほしい
……と、やや辛口になってしまったが、そもそも現在の商業施設で「テナントパワー」以外の価値として「場所の価値」を訴求できている施設はどれほどあるだろうか?
基本的には各施設が、「いいテナント」を持ってくる勝負のようになっていて、施設としての価値を本当に押し出している施設は少ない。
しかし、商業施設が飽和しつつある現在、より、人々が集い、コミュニティのハブになるような場所を作っていくほうが、ビジネス的にも筋がいいのではないか。その意味で、今回指摘したことはエミテラスだけでなく、すべての施設に言えることである。
まだエミテラスはオープンしたばかりだから、いろいろな部分を調整中である。所沢の新しい「顔」の一つとして、その価値を伸ばしていけるのか、見守りたい。
(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)