(写真:amadank/PIXTA)

価格交渉において、交渉の当事者は売り手と買い手です。一つの交渉をどちらの立場から見るか、どちらの立場で交渉に臨むかが重要になります。言い換えれば、売りの交渉と買いの交渉は表裏一体なのです。この売り手と買い手の両方で使えるのが価格交渉術です。本稿では『なぜかうまくいく交渉術』より一部抜粋のうえ、インフレ時代に押さえておきたい価格交渉のポイントをご紹介します。

相手目線で考えることが大切

インフレの時代には、交渉の仕方も変わります。売り手としては、原材料や人件費等のコストが上昇する中、販売価格を上げないと利益が出ません。

このとき、単に値上げを要求するだけではなく、その理由をしっかり説明する必要があります。コストが上がった理由を明確にし、それが妥当であることを買い手に理解してもらうことが重要です。

一方、買い手としては、仕入価格の上昇分をただ抑えるだけではなく、その価格に見合った価値を引き出すことが求められます。同じ価格でも品質やサービスが向上するようにサプライヤーと交渉することが重要です。

価格交渉では、売り手はできるだけ高く売りたいと考え、買い手はできるだけ安く買いたいと思っています。お互いの立場を理解し、相手が何を求めているのかを考えることが重要です。

例えば、売り手が製品の品質を強調する場合、買い手はその品質が価格に見合っているかを評価します。

一方、買い手が価格の引き下げを求める場合、売り手はその要求に応じることでどのようなメリットが他に得られるかを考えます。発注数量が何倍にもなるなどのメリットがあれば検討の余地が出てくるかもしれません。

交渉において、売り手は買い手のニーズを理解し、買い手は売り手の価値を理解することで、双方にとって有益な合意を見つけることができます。

また、売り手と買い手の立場を理解するためには、相手の立場に立って自分を見つめ直すことも重要です。自分が相手にどう見えるかを考えることで、交渉の戦略をより効果的に立てることができます。

このように、売りと買いの交渉は表裏一体であり、相手目線でどうすれば相手が納得するかを考えることが交渉を成功させるポイントになります。価格交渉を成功させるには、このような視点の転換と相互理解が欠かせません。

やみくもな値上げ要求は禁物

価格交渉には特別な魔法の杖があるわけではありません。重要なのは、特別なテクニックではなく、基本をしっかり押さえて取り組むことです。焦ってやみくもに値上げを要求することは禁物です。余裕を持つことが大切です。

まずは、相手の状況を理解することから始めましょう。次に、相手目線で、工夫を凝らした提案をすることです。値上げの理由を具体的に説明し、相手が納得できるようなデータや根拠を示すことが重要です。

そして、価格がどのように決まるのか、基本に立ち返りましょう。様々な条件が組み合わさった結果、価格は1番最後に決定されるものです。この本質を理解したうえで、正しい順序で価格交渉を進めていきましょう。

今の世の中は、あっという間に変わっていきます。したがって、交渉を成功させるためには、相手の情報を常に最新にアップデートすることが不可欠です。

特に価格交渉において、相手がどのようなプロセスを経て進めていくのか、最近の傾向や変化などをウォッチしましょう。例えば、同業他社が値上げをしたタイミングで自社も同様の交渉を行うことが重要です。

もし、他社の値上げが終わっている段階で、後から値上げをお願いすると、相手から「もっと早く言ってくれれば……」という反応が返ってくるかもしれません。そのため、相手企業のみならず同業他社の動きなど、周辺の最新情報にもアンテナを張っておく必要があるのです。

相手企業の業績にも注意を払う

また、相手企業の業績にも注意を払いましょう。業績が悪化している場合は、値上げの交渉は難航するかもしれません。逆に、好調なときは、値上げを受け入れてもらえる可能性が高くなります。

さらに、相手企業との取引関係が一方的ではなく、買いと売りの両方がある場合、最大限それを活用したいものです。


例えば、購買部が相手企業からの値上げ要求を受け入れた場合、その情報を共有した営業部は、「弊社の購買部が、御社の値上げ要請をかなり受け入れたと聞いています。全社的なお付き合いを考慮いただき、今回の弊社の値上げも認めてもらえませんか」と交渉するのです。購買部門と営業部門の部門間での意見交換や情報共有を積極的に行うことで、交渉を成功させるための基盤をつくることができます。

相手のニーズや市場環境の変化も常に把握しておきましょう。相手企業のライバルや顧客の動向、決裁ルートの変更など、これらの情報を常に最新のものにアップデートすることで、交渉においてより有利な立場を築くことができます。

また、相手企業がどのようなルールで値上げを受け入れるのかを確認することも重要です。これにより、交渉の際に相手のルールに沿った提案を行うことができ、交渉を有利に進めることができます。このように、価格交渉のタイミングやルールも事前に確認しておくことが大切です。

(生駒 正明 : 株式会社ビジネス交渉戦略研究所代表取締役)