通信制という選択肢は子どもたちにとってより自由な、より充実した学びの機会となります(写真:8x10/PIXTA)

少子化の今、生徒数が伸び続けている福岡の私立柳川高校。

「絶校長先生」を自称すること古賀賢校長は、学校存続の危機から学校組織、教員、生徒をどう変えていったのでしょうか。その方法や経験を3回にわたって紹介します。

(本稿は『学校を楽しくすれば日本が変わる 「常識」をひっくり返した「絶校長」の教育改革』から一部を抜粋・再構成したものです)

通信制という選択肢の意味

現在、柳川高校には「普通科」「商業科」「国際科」「情報科」の4つの科があり、「普通科特進コース」「普通科進学コース」「商業科総合ビジネスコース」「国際科I.C.C.コース」「情報科マイクロソフトコース」の5つのコースがあります。

ここに、新たに通信制課程「シリウス」が加わりました。

通信で学ぶと言うと、いまだに不登校の子どもたち、朝晩が逆転して学校に行けない怠け癖がついた子どもたちが中心という、ネガティブなイメージが残っています。でも、私はもう10年近く前からいずれ全日制と通信制の間で、学び方の逆転が起きると考えていました。

N高等学校が先駆者として成果を出していますが、時間や場所の制約がなくなる通信制という選択肢は子どもたちにとってより自由な、より充実した学びの機会となります。

多くの大人はコロナ禍を通じて、オンラインで仕事をすることの可能性を実感しました。在宅勤務、リモートワークに多くのメリットがあることを理解したはずです。通信制での勉強は自分のペースで取り組める自由度が高いので、学習意欲が高い人、勉強が得意な子により適した仕組みだと思います。

1限目から6限目まで学校が決めた授業を教室に行って受ける時間がもったいない。

この先、自分がやっていきたいことがはっきりしているから、その準備に多くの時間を使いたい。

すでにビジネスの世界で成果を出しつつあるから、通信制で高卒の資格だけ取りたい。

そんなふうに目的意識のはっきりしている子どもたちも魅力に感じてくれる通信制課程と、新たなプロジェクトをつくっていきます。

学内で起業経験を

さらなる次の一手として準備を進めているのが、起業家育成のためのスタートアッププロジェクトです。

すでに柳川高校では大正製薬の協力のもと、リポビタンDのオリジナルラベルデザインのコンペを開き、実際に商品を学内や地域のコンビニなどで発売するといったビジネスを学ぶ試みを行なっています。

こうした実践をさらに広げ、学内での起業、地域での起業を経験しながら、将来的に起業家として活躍できるような学びの場をつくっていきます。

柳川高校の始まりは柳河商業。

「子どもたちがしっかり生き、商売ができる人になるように」と始まった学校です。

起業家育成はある意味、原点回帰。そして、原点という切り口で考えると、さまざまな事情から全日制とは違う学び方を求める子どもたちが集まる通信制課程の新設は、祖父の「全員受け入れて育てる気概を持って学校運営をしていこう!」という信念と結びついています。

グローバル学園、スマート学園、宇宙修学旅行、通信制課程、起業家育成。一見、目立つために突拍子もないことを仕掛けているように思われてしまうかもしれませんが、根底には創立の精神が息づいているのです。

キャッチフレーズは、「はじまりは!  柳川高校。」

今、柳川高校のホームページやパンフレットを見たとき、最初に目が行く場所にこんなキャッチフレーズが躍っています。「はじまりは! 柳川高校。」

このキャッチフレーズは「これから10年使われる言葉を考えよう」とコピーライターや広告代理店の方々とミーティングを重ね、重ね、重ね……締め切りが近づく最後の最後、明け方の4時くらいに自宅の寝室で寝っ転がっていた私が思いつきました。

「はじまりは!」には、柳川高校に集う人たち全員にとって「柳川高校が始まりの場所になって欲しい。そうしていきたい」という思いが詰まっています。

例えば……

■ 宇宙になんかまったく興味のなかった新入生が「宇宙修学旅行」と聞いて、「なにそれ、行けるの!?」と気持ちを動かす


■ 「メタバース? なにそれ?」と怪訝(けげん)な顔をしていた保護者の方が、子どもたちから授業の話を聞いて、「見てみたい、やってみたい」と思い始める

■ 海外旅行に行くことを考えたこともなかった生徒が、留学生と話すうち、この子の育った街に行ってみたい!とパスポートを取得する

そんな「はじまりは」もあれば、こんな「はじまりは」もあって欲しい。

■ 中学までは数学が嫌いだったけど、高校に入って出会った先生の教え方がおもしろくて、「数学悪くないかも?」と思い始めている

■ 絶校長が朝礼で失敗談をどんどん話すから、大人になっても失敗していいんだなって気が楽になった

■ 学校の中にジムがあって、筋トレの楽しさに気づいた!

いろんな意味での「はじまりは」がある場所。

そういう柳川高校であり続けること。

感受性のアンテナの張り方が変わる学校でありたい

絶校長が突拍子もないことを始める姿を見せて、子どもたちが「あ、こんなこともやっていいんだ!」と感じてもらうこと。集う人たちの感受性のアンテナの張り方が変わってくる学校でありたい。

そんなことを考えての学校改革の取り組みは、次の数字を見てもいい方向に向かっていると実感しています。

令和元年度は全校生徒が757人、定員数1290人に対して757人で、いわゆる充足率は58.7% 令和2年度は全校生徒が833人で充足率が64.6% 令和3年度は全校生徒が927人で充足率が71.9% 令和4年度は全校生徒が1084人で充足率が84% 令和5年度は全校生徒が1178人で91.3% 令和6年度は全校生徒が1210人で93.8%

令和6年度の新入生は定員を超えました。教職員の方々のがんばりがあって、地域でのイメージが変わり、国内外から子どもたちが集まってきてくれるようになりました。

それが今の柳川高校です。

(古賀 賢 : 柳商学園 柳川高等学校 理事長・校長)