これからの人生100年時代、大人も子どもも「心身健やかに過ごす」大切な要素とは(写真:プラナ/PIXTA)

「小中学生の50.3%が近視となっている」と文部科学省が衝撃的な発表をしたのは今年7月のことである。子どもの近視は1日2時間の屋外活動によって抑制効果があるのに、わずかこの2年の間に約1割の子どもが新たに近視となったことに警鐘を鳴らすのが眼科医の窪田良氏だ。

『近視は病気です』(東洋経済新報社)の著者・窪田良氏と、非認知能力育児のパイオニアであるボーク重子氏が「子どもの近視抑制」をはじめとする子どもの心身の土台作りをテーマに対談する第3回は、人生100年時代をどう心身健やかに過ごすかについて語り合う。

健康寿命を延ばすのに役立つ習慣

窪田:台湾では国の施策として、子どもが在校中に1日2時間屋外にいられるようにしています。ある程度強制力を働かせた結果、子どもの近視率を減少させることに成功しました。


日本ではそこまで学校に強制力を持たせるのは難しいと思います。ですが、前回ボークさんのお話を伺い、周りの大人が好奇心を持って外に出ることが、近視を抑制する子どもの屋外時間を確保できる鍵となると感じました。

ボーク:ありがとうございます。さまざまな眼疾患発症を倍増させる近視は、子どもの環境を工夫することで抑制できるというのも、もっと世間に広まってもらいたいですね。

窪田:そうですね。医師の立場からも、これからの人生100年時代、いかに健康寿命を延ばすかが重要だと考えています。そのためには、健全な心と丈夫な身体が必要です。

ボーク:健全な心という視点でいうと、私は大人も非認知能力を高めることが大切だと考えています。非認知能力は大人になってからも自分で鍛えることが可能です。

私自身も、娘を生んだときは「娘には私のような大人になってもらいたくない」と真っ先に思うくらい自己肯定感が低い状態でした。ですが、子育てを通じて、親である私自身の非認知能力も鍛えられました。自己肯定感や好奇心、主体性や回復力などの非認知能力を鍛えることで、毎日を最高にワクワクしながら生きていけるようになりました。

窪田:ボークさんが日々楽しく過ごされているのは、対談相手の私にも伝わってきます。

ボーク:ありがとうございます。自分が楽しんでいる様子は相手にも伝染するんですよね。人生100年時代を楽しむにはいかに好奇心を持てるか。これにかかっていると思っています。

窪田:子どもが好奇心を持てるようになるのも、周りの大人がまずは好奇心を持つ。それを見本として子どもに見せるということですね。

屋外に出ることと親の接し方で子は伸びる

ボーク:そうですね。窪田先生が目の健康のために屋外へ出ることを推奨されているのが素晴らしいと感じたのは、子どもの好奇心を引き出す種も屋外にたくさんあるからです。


外に出ると、空に雲が流れている、道に蟻が歩いている、街路樹に花が咲いている。屋内の景色は変化があまりないものですが、屋外は同じ場所にいても見える景色が秒単位で変わります。

窪田:小さい子は「飛行機はどうして飛べるの?」「蟻んこはどうして穴に住むの?」と大人を質問攻めして可愛らしいですよね。

ボーク:それがまさに今の日本の教育に求められている「問いを立てる力」です。何でここにあるの?なんで触っちゃいけないの?と、湧き出た疑問をスルーさせない、不思議に思うこと自体が立派な能力です。

窪田:その子どもの問いに、大人もできるだけ反応してあげて能力を伸ばしてあげたいですね。その問いに対する正解を知らなくとも。

ボーク:そうですね、親も正解を知らなくていいと思います。子どもと一緒に考えようというスタンスで、大人も一緒に不思議がるぐらいがいいのかもしれません。

自分の考えを主張するのは悪ではない

窪田:以前、私が子どもたちに対して「白の反対は?」と聞いたら、「ろし」と答えた子がいました。確かに白を反対から読んだら「ろし」。

周りにいた子たちはその回答にあっけに取られていましたが、私が「君の答えはユニークだね!天才だね!」と褒めたところ、黒以外の回答もありなんだと納得した雰囲気になりました。

ボーク:それは最高ですね!


窪田良氏(撮影:梅谷修司)

窪田:自分の考えを主張するのが悪ではないと、周りの大人が示してあげられるといいのでしょうね。

私が日本の小学校に通っていたときに通信簿によく書かれたのは「授業中にしゃべりすぎ」。あまりよい評価をされませんでした。ですが、父の転勤でアメリカの小学校に転校すると、授業中質問すればするほど評価が上がるシステムでした。授業が楽しくなって勉強が大好きになり、今に至ります。

教育環境も大きく変わり、今は「これが正解」が必ずしもない時代。子どもと一緒に親も自分の好奇心の芽を育てると、毎日が楽しくなれますね。

ボーク:そうですね。非認知能力は主体的行動によってもっとも効果的に育まれていくので、好奇心を発揮しやすい屋外は宝の山といえます。疑問に思ったことに対して、「これは何だろう、調べてみよう」となれば探究心に、調べる過程でやり抜く力、調べて見つけられなくても、「また別のことを調べよう」となれば柔軟性につながります。

学校でなくとも、家庭で十分非認知能力を育むことができるのです。

窪田:近視研究が盛んなオーストラリアで行われた研究では、屋外活動は大人の近視抑制にも効果があると報告されました。大人も子どもも1日2時間屋外に出て、心身の健康寿命を延ばしていただきたいです。

ボーク:20世紀は、机上の勉強をやればやるだけ点数が伸びて成績が上がる環境でした。それでよい学校に入学でき、よい会社に就職できた。ですが、20年くらい前から終身雇用も社会保障も破綻してきています。生きるのが大変になった……そんな印象を持つ人も多いと思います。

大人も子どもも生きるのが大変な時代だが…

実は大人だけでなく、今の子どもたちも大変です。学校だけでなく習い事にも頻繁に通う環境、先生方といった大人との人間関係、クラスメイトという同世代との人間関係……子どもの人生も結構過酷です。

窪田:子どもの近視有病率も、コロナ禍で生活様式が変わったため急増しました。子どもたちの人間関係も、一緒に身体を使って遊ぶことが減ってより難しくなったのかもしれませんね。


ボーク重子氏(本人提供)

ボーク:そうですね。自分が納得できない言葉や傷つく言葉を周りから投げかけられると、大人であっても自己肯定感が下がりますよね。このようなときは、クリティカシンキングが役立ちます。

まず「自分は本当に言われた通りなのだろうか」と自問します。次に「自分はどう思うのか」を考えます。そして「いや、そんなことはない。自分は大事な存在だ」と思うことができたら、自分の心を守ることができると思いませんか。

これも大人が「本当にそうなのだろうか?」と好奇心を持って自問する姿を子どもに見せることから始められます。大人の姿を見て子どもが真似ることで身につけられます。

窪田:先が見えない世の中ではありますが、私たち大人が日々幸せを感じて生活し、その姿を子どもに見せることも大事ですね。そのためにも屋外に出て好奇心を育てる、人生100年時代に大切な要素となりそうです。

私たち親も、「目のために外で2時間遊んでいらっしゃい」と子どもに押し付けるのではなく、大人が「今日は何に出会えるのだろう」とワクワクした気持ちで外出したら子どもも一緒についてくる。それってとても素敵なことだと思えるのです。そんな流れが理想ですね。

次回は、眼科医としてよく相談される子どものスマホとの付き合い方について、ボークさんと一緒に考えていきたいと思います。

(次回記事はこちら)

(構成:石原聖子)

(窪田 良 : 医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO)
(ボーク 重子 : ICF会員ライフコーチ/Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表)