実家を片付けるにあたって気をつけておくべきこととは?(写真:PIXTA)

少子高齢化の進展とともに深刻化している「空き家」の増加。関連トラブルの増加などもあり、放置への対策が喫緊の課題となっている。『週刊東洋経済』10月26日号の第1特集は「実家の終活」だ。空き家をめぐって進行している問題や活況を呈し始めた関連ビジネス、実家をめぐる諸問題の解決策を紹介している。

実家の片付けの王道は、生前にできる限り整理することだ。いざというときに困らないよう、親が元気なうちに一緒に整理を進めておきたい。

ただ、片付けに親子のトラブルはつきもの。どうすれば、もめずに整理できるのか。『実家の片づけ 親とモメない「話し方」』(青春出版社)の著者、渡部亜矢氏に押さえておくべきポイントについて聞いた。

価値観が決定的に違う


渡部氏が最初に指摘するのは、親世代と子世代では物に対する価値観が決定的に違う、ということ。「物が少ない戦後に育った親世代は、物を持つことが豊かさの象徴。不要になったら捨てるという発想自体が、そもそもない」(渡部氏)。

一方で子世代には、衣類など必要最低限度の物で生活する「ミニマリスト」的な価値観が広がっている。そのため、ひとたび片付けとなるとお互い相いれない状況になりやすい。子どもにしてみれば、せっかく片付けるのだからと、あれもこれも思い切って処分しようとしがちだが、それはトラブルのもとになる。

取っておくのか、それとも思い切って捨てるのかという決定権は必ず親に持たせよう。これは要らないだろうと、勝手に判断することだけは避けたい。

大きな家具の処分にOKをもらったとしても、油断は禁物。「業者を呼んでたんすを処分したところ、父親が大きなショックを受けて寝込んでしまったなどというケースもある」(渡部氏)からだ。

そのたんすは、父親が毎朝スーツを取り出し、出勤前に身だしなみを整えていた、とても思い入れの深い物だった。業者がたんすをバリバリと壊しながら、乱暴な扱いでトラックに押し込む様子を見て、父親は働いていた頃の思い出が汚されるような心情になったのかもしれない。

そうした親世代の繊細な気持ちに十分配慮しながら、片付けを進めるのが肝心だ。

言葉のかけ方も重要

親への配慮という面では、言葉のかけ方も重要だ。下図に親に言ってはいけない「NGワード」と「言い換え例」を示した。


渡部氏によると、物に対する価値観の違いから、子どもは「何でこんな物を取っておくの!」と、どうしてもきつい言い方になりがちだという。片付けをめぐるやり取りで、親子の立場が逆転するようになるのが、親としてはかなりつらく、口論などのトラブルにつながってしまう。

子が親をよりよく理解する機会


片付けを円滑にする最強ワードは、「ついでに〇〇しようか」と「これ、なぁに?」の2つだ。

例えば、廊下に何年も置いてある段ボール箱を見て、思わず「捨てなよ」と口にしそうになっても、否定的な言葉はぐっとのみ込もう。「これってなぁに?」と親に優しく尋ねれば、「それは〇〇さんにもらった物だよ」などと、経緯を説明してくれるはずだ。そうした会話をする中で、親としても「さすがに要らないかな」と、手放す気持ちが生まれてくることも多い。

渡部氏は、「実家の片付けとは単に物を処分したり、整理したりすることではない」と話す。

実家にある物を介して親子でコミュニケーションを取り、子が親をよりよく理解する機会と捉えるべきなのだという。片付けを通じて親の身体的、心理的な変化に気づくことができれば、介護や病気などについて早期に手を打つことにもつながってくる。



(中村 正毅 : 東洋経済 記者)