総合的な通信品質を評価する2つの指標でKDDIが国内1位を獲得(筆者撮影)

auを展開するKDDIが、通信品質評価で大きな成果を上げた。国際的な通信品質評価機関OpenSignalの最新レポートで、KDDIは13部門でNo.1を獲得。KDDIは自身が高評価を獲得した要因を説明する記者会見を10月17日に行った。

追い風が吹いた理由として、同社は2つの要因を挙げる。1つは当初から掲げていた「デュアル5G戦略」、もう1つは2024年に入って実現した衛星干渉の緩和だ。業界最大手のNTTドコモは、なぜこの競争に出遅れたのか。KDDIの観察に基づく見解も興味深い。

5Gエリア整備のカギを握るサブ6

モバイル通信の5Gは、2020年から導入が始まった次世代の通信規格だ。5Gを含む携帯電話ネットワークを構築するうえで重要な役割を果たすのが「周波数帯」である。周波数帯は電波の周波数の範囲を指し、各携帯キャリアに占有できる周波数帯が割り当てられている。電波には一般に、周波数帯が高くなるほど大容量の通信ができる(=高速になる)が、遠くまで届きにくいという特性がある。

5Gで使用される周波数帯の中でも注目されているのが「サブ6(Sub6)」と呼ばれる周波数帯だ。サブ6は6GHz以下の周波数帯を指し、特に3.7GHz帯や4.5GHz帯が5Gのために割り当てられている。

サブ6の新周波帯は、高速・大容量な通信とエリアカバレッジのバランスが取れているため、5Gの主力帯域として各社が導入を進めている。

一方、既存の4G用の周波数帯を5Gに転用する「4G転用周波数」も5Gネットワークの構築に重要な役割を果たしている。これらの周波数帯をどのように組み合わせ、効率的にネットワークを構築するかが、各通信事業者の戦略のカギとなっている。

OpenSignalは、世界中のモバイルユーザーから収集したデータを基に、通信事業者のネットワーク品質を客観的に評価する組織として知られる。

OpenSignalの2024年10月の評価で、KDDIは「一貫した品質」と「信頼性エクスペリエンス」を含む13部門でNo.1を獲得した。これらの指標は、ユーザーの実際の利用体験に直結する重要な評価項目だ。

「一貫した品質」は、HD動画のストリーミングやグループビデオ通話、オンラインゲームなどの高度なアプリケーションを、遅延や速度低下なく利用できるかを測定する指標だ。この指標は、接続後にアプリをどの程度スムーズに使えるかを示している。

一方、「信頼性エクスペリエンス」は、4Gや5Gを含むすべてのネットワーク技術において、ユーザーが安定して接続し、必要なタスクを完了できる能力を評価する指標だ。この指標は、接続の可否や安定性、ウェブページの閲覧やアプリのダウンロードなど、ユーザーが意図したタスクを問題なく完了できるかどうかも含めて評価している。

この2つはネットワーク品質を表す総合的な指標となっている。KDDIは一貫した品質部門ではソフトバンクを僅差で上回り1位を獲得。信頼性エクスペリエンスではドコモ、ソフトバンクを抜いて首位に立った。

衛星干渉緩和の影響

KDDIの躍進の大きな要因となったのが、衛星干渉の緩和だ。サブ6帯は、従来、衛星通信との干渉を避けるため出力が制限されていた。しかし、2024年3月末に衛星事業者との調整が完了し、制限が大幅に緩和された。

KDDIの前田大輔執行役員は「制限緩和により、サブ6の基地局の出力を最大限に引き上げることが可能になった」と説明する。KDDIによれば、この結果、サブ6のエリアが約2.8倍に拡大したという。


衛星の干渉を考慮する必要がなくなった地域ではサブ6の基地局の性能をフルに発揮できるようになった(筆者撮影)

もう1つの要因は、KDDIの周波数帯運用にある。前田氏は高評価の要因を「当社のデュアル5G戦略が功を奏した結果」と説明した。

デュアル5G戦略とは、既存の4G周波数を5Gに転用する4G転用周波数と、新たに割り当てられたサブ6の周波数帯を組み合わせて使用する戦略だ。

前田氏は「既存の周波数を用いた転用周波数の5Gとその上のサブ6のデュアル5Gで展開しており、しかも業界最多のサブ6基地局数で高密度に打っている。このデュアルの5Gが今の時点で構築できているのはKDDIだけ」と付け加えた。


KDDIやソフトバンクは図の左側のアプローチ。ドコモや楽天モバイルが取る右のアプローチに比べ、エリアを高密度で設計できる(筆者撮影)

前田氏は続けて「転用周波数の5Gがベースにあるので、サブ6を高密度に打つことができる」と述べ、この戦略が高品質な5Gエリアの効率的な構築につながったことを強調した。

興味深いのは、業界最大手のNTTドコモが、なぜこの競争で出遅れたように見えるのかという点だ。KDDIの観察によれば、その理由は5Gネットワークの構築アプローチの違いにあるという。

KDDIの西村朋浩エリア企画室長は「ドコモさんはサブ6から5Gエリアを展開されているように見える」と述べている。これに対し、KDDIとソフトバンクは4G転用周波数を先行させる戦略を取ったという。

西村氏は「サブ6のみでエリアをカバーしようとすると、どうしても薄く広くなってしまい、速度低下や品質劣化につながる可能性がある」と分析する。一方、KDDIの戦略では4G転用周波数で基盤を作り、その上にサブ6を効率的に展開できるため、より高品質なエリア構築ができたというのだ。


KDDIはサブ6周波数帯の基地局数で他社をリードする(筆者撮影)

通信品質向上がもたらす体験の変化

通信品質の向上は、ユーザーの日常的なスマートフォン利用にどのような変化をもたらすのか。KDDIは特に動画視聴とオンラインゲームの体験向上を強調している。

サブ6の展開が進んだことで、20Mbps以上の通信速度を確保できるエリアが95%まで拡大した。外出先でも高画質な動画の読み込みが早くなり、動画ストリーミングサービスを利用しやすくなるということだ。

オンラインゲームなどで重要となる通信の応答速度(レイテンシー)も改善されている。KDDIの説明では、30ミリ秒以下のレイテンシーを確保できるエリアが92%に達したという。


Web閲覧では差が出づらいが、動画再生やゲームで通信品質の差を感じられる(筆者撮影)

KDDIはこれらの改善効果を、実機によるデモンストレーションで示した。動画のダウンロード時間の短縮や、ソーシャルSNSのゲームのキャラクターの動きがよりスムーズになる様子が確認できた。

今後、Massive MIMO(マッシブマイモ)と呼ばれる技術の導入や、保有する2つのSub6ブロックを同時に利用できる小型装置の展開を計画しているとKDDIは説明している。

MIMOは、Multiple-Input Multiple-Output(多入力多出力)の略で、多数のアンテナを使用して同時に複数の通信を行う技術。従来の基地局よりも格段に多くのアンテナを使用することで、通信容量の増大と通信品質の向上を実現する。甲子園球場での実験では、Massive MIMOの導入により通信速度が約1.6倍に向上した。


KDDIが保有する2つの周波数帯を利用できる新型Massive MIMO装置。6月のKDDI記者説明会にて展示されていたもの(筆者撮影)

また、KDDIが保有する2つのサブ6ブロックを同時に利用できる新たな装置の開発も進んでいる。サムスン電子製のMassive MIMO装置で、限られたスペースでより高速な通信が可能になると期待される。前田氏は「来年度以降、さらに高速なネットワークをお届けしたい」と話す。

一方で、こうした通信品質の向上をユーザーに実感してもらうことの難しさも課題として挙げられた。前田氏は「つながることが当たり前になっている中で、品質向上をどう伝えていくかは課題」と認めている。

スマホと衛星の直接通信でさらなる拡大

KDDIは、衛星とスマホが直接通信する技術の実用化に取り組んでいる。前田氏は「衛星とスマホの直接通信の実証実験をいよいよ開始する」と述べ、年内にもサービス開始を目指していることを明らかにした。

この技術は、高速・大容量の通信を提供するものではないが、KDDIはこれを山岳地帯や離島、災害時の通信手段として活用することを計画している。具体的には、圏外エリアでのテキストメッセージの送受信や、緊急時の位置情報の共有などが可能になる。


Starlink衛星とスマホの直接通信の実現も間近に控える(筆者撮影)

KDDIはアメリカの衛星通信会社Starlink(スターリンク)と提携し、この新しい通信サービスの開発を進めている。前田氏は「アメリカからの免許が発行され、日本でも実験局免許が下りた。制度整備についても総務省に多大なご協力をいただいており、年内に進む見込みだ」と説明した。

戦略的な5G展開と衛星干渉緩和の追い風により、国内通信品質で首位に立ったKDDI。Massive MIMOや衛星直接通信など次なる技術革新も視野に入れ、さらなる通信品質の向上を目指している。「つながって当たり前」の時代において、利用者が実感できる通信品質の向上をいかに実現していくか――同社の取り組みは、モバイル通信の新たなステージを切り拓こうとしている。

(石井 徹 : モバイル・ITライター)