「ツカミ」で笑いを取りにいこうとする人の盲点
(写真:/PIXTA)
テレビの世界では、説明を嫌う文化があります。なぜなら、「説明が長く続くと、チャンネルを替えられる」からです。つまり、「説明は面白くない」「好きじゃない」と多くの人は思っているということです。では、なぜ説明はつまらないと思われるのでしょうか?
それは、感情が動かないからです。人は感情の変化を求める生き物です。説明にも、感情が動く要素が含まれていなければ聞いてもらえません。それだけに、「いかに説明を楽しく、聞きたいものにするか」というテーマと向き合ってきたのが、テレビの伝え方なのです。アナウンサーとして20年以上テレビやラジオの世界で仕事をしてきた石田一洋さんの著書『あなたの話はきちんと伝わっていますか?』から、伝わる説明のコツをご紹介します。
聞き手の興味をひく方法
説明の要点を短く表現した「リード」を入れることで、聞き手にその後の説明を聞いてもらいやすくなることをお伝えしました。ここでは、さらに説明に入り込んでもらうためのポイントをご紹介します。
その1つが「キーワード化」です。これは、聞き手の興味をひくきっかけとなる「キーワード」を入れる作業です。
話すときに人の興味をひくためには、「ツカミ」が重要と聞いたことがあると思いますが、実は「リード」と「キーワード」を合わせるとツカミになるのです。
なぜ、リードで要点をまとめているにもかかわらず、キーワードを入れる必要があるのでしょうか。
それは、印象的なキーワードは忘れずに覚えてもらえるからです。リードでは大事なことを伝えたり、全体像を伝えたりすることで聞き手に聞く態勢をつくってもらえますが、15秒で説明の全てを記憶に残してもらうのはなかなか難しいものです。そこで、キーワードだけでも明確に覚えてもらうようにするのです。
キーワードとは、話の要点を押さえた言葉
キーワードというと、インパクトのある強い言葉をイメージしてしまうものです。
しかし、キーワードは話の要点を押さえている言葉でなければ効果がありません。
全体の話を聞き終えた段階で、最初のキーワードがなぜ冒頭で語られたのか、腑に落ちている状態をつくらなければならないのです。
キーワードの目指すべき姿は、要点を一言で表す象徴的な言葉です。キーワードを考えるコツは、「これから説明しようとしていることを一言で言うなら?」と自分に問いかけてみることです。このとき、具体的なイメージが思い浮かぶワードに変換できるとベストです。
場合によっては、その一言だけで説明の8割が伝わることもあります。
私が新人アナウンサーのころに聞いて、いまでも覚えているキーワードがあります。
それは、先輩アナウンサーが教えてくれた「説明はサンドイッチ」という一言です。
「石田、説明はサンドイッチって覚えておくといいよ。説明するときは結論から入って、結論で締める。だから、結論で中身を挟んでサンドイッチにするとうまく伝わるんだよ。そして、中身の具は理由だといいな」
私には「サンドイッチ」というキーワードが強く印象に残り、パンの部分が結論、中身の具が理由というイメージが一瞬で頭の中に浮かびました。
サンドイッチという言葉だけで、いまでもこの話が思い出せるようになっています。
もしもこれが、「説明っていうのは、結論から入って、次に理由を説明する。そして、終わりにもう一度結論を言うようにすればうまく伝わるんだ」と言われても、あまり頭には残らなかったかもしれません。
キーワードは数字でもいい
キーワードは数字だけで構成することもできます。ソフトバンクグループの孫正義会長は、決算発表会で数字を使って聞き手の興味をつかんでいたことがありました。
「567」という数字が書かれたスライドを用意して、聞き手に疑問を抱かせた後に、次の内容を説明したのです。
「携帯事業に参入して5年で『営業利益が約5倍に』『携帯電話の基地局が約6倍に』『携帯電話の顧客数が約7割増加』しました」
孫さんは、この内容を最初に数字だけを示すことで表現したのです。「567」という数字は誰でも一瞬で覚えることができます。そして、数字が先に頭に入れば、後は該当する項目は何だっただろうか、と考えるだけで内容を思い出せるので、効果は絶大というわけです。
ちなみに、私もアナウンススクールのレッスンで「7秒」と書かれたスライドを使うことがあります。7秒という数字は、人の第一印象が形成されるまでのおおよその時間です。
最初に「人の第一印象は一瞬で決まります」と言うよりも、「7秒」という具体的な数字を見せるほうがより大きなインパクトとなります。
また、数字で表現することで、時間の短さも感じやすくなります。そのため、先ほどと同じように、「人の第一印象は一瞬で決まります」と言うよりも、「7秒でみなさんの人生が決まります」と伝えるほうが、スクールに参加している人に興味を持ってもらうことができるのです。
その上で、「面接では、部屋に入って最初の挨拶をするまでに10秒くらいかかります。そこまでの姿勢や表情を意識しないと、印象は悪くなってしまいます」と伝えると、参加者のみなさんの入室時の姿勢や表情、第一声の張りが一発で変わります。
ツカミに笑いは不要
お笑いの世界で、舞台に登場してから最初の笑いを取りにいくことを「ツカミ」といいます。そのため、「ツカミ」=笑わせること、というイメージがあるかもしれません。
このようなイメージから、「ツカミは難しい」「笑いのセンスがないと無理」と考える人もいます。
しかし、そもそも会話や説明において、ツカミで笑いを取る必要はありません。
目的は、あくまで聞き手の興味・関心の目をこちらに向けることです。笑わせるよりも、聞き手が興味のある一言を言うほうがツカミになります。
特に、聞き手との間にあまり信頼関係ができていない場合は、笑いでツカミを取りにいかないほうがいいです。
下手をするとその後の話を聞いてもらえなくなったり、聞き手の気持ちが冷めてしまったりする可能性があります。これまでにお伝えした、「リード」と「キーワード」さえ押さえておけば、自然とツカめている状況が出来上がりますので、それほど難しく考えなくて大丈夫です。
(石田 一洋 : 関西テレビ放送アナウンサー)