【社説】沖縄の基地負担 地位協定見直しに道筋を
米軍基地が集中する沖縄の負担をいかにして減らすか。衆院選での論戦は低調だが、安全保障政策を考える上で避けて通れない課題だ。
過重負担の要因の一つに日米地位協定がある。米兵の刑事司法手続きや軍用機の運用などについて、米軍に特権を与えるものだ。日本政府はこれまで米国に改定を求めたことがない。
2004年、沖縄国際大に米軍ヘリが墜落した事故では米軍が地位協定を盾に現場への立ち入りを拒み、警察は十分な捜査ができなかった。
米軍関係者が公務外に刑事事件を起こした疑いがあり、身柄が米側にある場合は、身柄の引き渡しは起訴後が原則となっている。
米軍機の夜間訓練などがもたらす騒音にも住民は悩まされている。地位協定により、日本側が飛行を制限できないからだ。
米軍基地内で環境汚染の疑いがあっても、速やかに立ち入り調査をすることはできない。米軍が用地を返還する際は原状回復の義務はない。不平等性は明らかだ。
石破茂首相は04年のヘリ墜落事故の時に防衛庁長官だったこともあり、地位協定改定に意欲を示していた。ただし自衛隊の米国駐留による日米同盟強化が主眼のようで、特権が温存される改定では意味がない。
今年は女性に対する米兵の性的暴行事件が次々と明るみに出た。沖縄で米兵が関係する事件や事故が多いのは、米軍基地が極端に集中し、県民の暮らしと隣り合わせであるからにほかならない。
沖縄の人々が党派を超えて米軍基地の整理・縮小を訴えても、用地の返還は遅々として進まない。
日米両政府は13年に米軍施設・区域約1048ヘクタールの返還・統合計画を公表した。10年余りで返還されたのは73・1ヘクタールで、計画全体のわずか7%程度にとどまる。
返還計画の象徴が宜野湾市の市街地にある普天間飛行場だ。1995年の米兵による女児暴行事件をきっかけに沖縄が強く求めている。
日米両政府は名護市辺野古へ移設することに合意したため、またも県内に基地が固定化される。日本政府は普天間飛行場の危険性を取り除く名目を前面に出し、新基地の建設工事を進める。
辺野古海域の埋め立ては難工事だ。費用は膨らむばかりで完成時期も見通せない。危険の除去が目的なら、日本政府は普天間飛行場の早期運用停止への理解を米側に求めるのが筋ではないか。
沖縄の過重負担の軽減は、国民全体で考えるべきテーマである。米軍の自衛隊基地使用や共同訓練の拡大で、九州も密接に関係している。
与野党ともに地位協定の改定、沖縄の基地の整理・縮小を現実に進める議論を深めてもらいたい。