投資初心者が投資先を見極めるために必要なことの1つが「そもそも論」で考えること(画像:metamorworks/PIXTA)

新NISAがはじまり、株式投資を始めたあるいはこれから始めるという人もいるでしょう。投資初心者が投資先を見極めるために必要なことの1つが「そもそも論」で考えること。1冊で2000ページにも及ぶ『会社四季報』を27年間で108冊全ページ読破する渡部清二さんの新著『投資をそろそろはじめたい。』より一部抜粋、再構成してお届けします。

「どうやって稼いでいるのか」を想像する

「タバコ屋に飛び込め」

これは私が野村證券に入社したときに先輩からよく投げかけられた言葉です。もちろん、「タバコを吸え」という意味ではありません。

最近は少なくなりましたが、街のタバコ屋さんを見かけたことはありませんか? 人一人しか入れないほどの小さなスペースでタバコを売っているお店のことで、私が野村證券に入社した1990年にはところどころに残っていました。

タバコの値段は、当時1箱200円ぐらいで、2024年現在でも代表的な紙巻きタバコで1箱(20本入り)580円ですから、大きな売上高が得られるとは思えません。そのような繁盛していない様子のお店がどうやって成り立っているのか、「そもそもを考えろ」という教えなのです。

これは、タバコ屋さんに限った話ではありません。

いつ行ってもお客さんが少ない喫茶店や贅沢な空間使いをしている銀座の寿司屋さんなど、「どうやってビジネスが成り立っているんだろう?」と疑問がわく瞬間はたくさんあります。

これらのケースでよくある答えとしては、そのテナントのビルのオーナーだったり、または企業経営者が趣味程度でタバコ屋さんや喫茶店を営んでいたりすることが挙げられます。本業が別にあって、そこでしっかりと稼いでいるので、趣味のお店にあまり採算を求めていなかったりするのです。

本業は何か、何で稼いでいるのか。これは投資の世界で銘柄を分析するためには欠かせない視点になりますので、ぜひ日頃からトレーニングしてみてください。

「金を生む牛」を見つけろ

こうしたビジネスの本質を捉えるためにぜひ覚えていただきたい概念があります。それが「キャッシュカウ(cash cow)」です。直訳すると、「金を生む牛」となり、乳牛が牛乳を出し続けるようにお金を生み出し続ける仕組みを指します。日本語では、「金のなる木」という表現もありますね。

先のタバコ屋さんや喫茶店などは、まさに別の事業がキャッシュカウになっているのです。このキャッシュカウは、探せば日常の中でたくさん見つかります。

例えば、特急電車に乗って観光地に行くとしましょう。

特に平日は、座席が全然埋まっていないガラガラの特急電車に乗ったことがある方もいるかもしれません。このケースでは、通勤電車がキャッシュカウとなって、ガラガラの特急電車をまかなっている構図になります。

また、本業の鉄道事業以外でもキャッシュカウがあるのかもしれません。

最近は少なくなりましたが、携帯電話の安売りも同じです。端末販売の一時的な売上高でお金を回収するのではなく、その後ずっと続く通信料でお金を回収する仕組みで、このケースでは通信料がキャッシュカウになっています。

プリンターも同じですね。プリンター自体は手軽に買える金額で売られていますが、トナーを頻繁に購入する必要があります。トナーがキャッシュカウになっているのです。

こうしたキャッシュカウが確立されている企業は、安定した収入がありますから株式投資の際にもとても有望な銘柄になります。

「証券化モデル」への応用も

キャッシュカウは、「安定現金収入」のような発想です。これが見つかると、ビジネスで「証券化モデル」と呼ばれるものへの応用も利きます。

例えば、賃貸オフィスや賃貸マンション、物流倉庫は、その家賃が安定的な現金収入になります。他にもホテル、介護施設なども宿泊料や入居料が安定的な現金収入となります。これらのビルやマンション、施設を小口化して投資家に販売し、投資家がそれらによる現金収入を持分に応じて配当として受け取る仕組みを「証券化」といいます。

そしてこのような不動産を証券化したものを「REIT(リート)」と呼び、他にも有料道路も証券化できます。


倫理的にいいか悪いかは別として、製薬会社のビジネスもそのようになっていることがあります。世の中には完治することのない「難病」がいくつも存在します。

私は重度の潰瘍性大腸炎を罹患した経験があります。安倍晋三元首相が第一次内閣を辞するきっかけになったことでも知られている難病です。この病気は、難病指定で完治薬がありません。長年付き合いのある主治医の先生が、こうおっしゃっていました。

「潰瘍性大腸炎の薬は、さまざまな製薬会社がこぞって開発しているんです。なぜかわかりますか? それはこの病気が完治しないからこそ、薬を飲み続けなければならず、将来的にもずっと売れるからです」 病気は完治せず、症状を抑える薬を作り続けていれば、ずっと患者が買うのです。つまりこれもキャッシュカウなのです。

(渡部 清二 : 複眼経済塾 塾長)