大阪王将が川崎でひっそり始めた「新型店」の実態
川崎市宮前区にオープンした新モデル店の「大阪王将 鷺沼駅前通り店」。3連休中日の20時ごろ。店頭にはテイクアウトの待ちを含め人がたくさん(筆者撮影)
創業55年を迎える大阪王将(イートアンドホールディングス)は、9月13日、「大阪王将 鷺沼駅前通り店」をオープンした。全国に約350店舗を展開する「大阪王将」だが、何やら従来の店舗とはひと味ちがう「新モデル店」だというので、早速行ってみた。
店の最寄りは東急田園都市線で急行の停まる鷺沼駅。住所で言うと川崎市宮前区だ。駅からはすぐで、繁華街が広がる南口とは逆の静かな住宅が立ち並ぶ北口側、駅から徒歩5分ほどの場所に、ひっそりと店を構えている。
外に人があふれかえる盛況ぶり
行ったのは3連休の中日の20時過ぎ。店の前はウェイティングの人であふれていた。店頭に置かれた名簿に名前を書いて待ったが前にはすでに3組待ち。幸いなことに1人の筆者はカウンターが空いたようで比較的すぐ通された。
この新モデル店の特徴の1つは「ハーフサイズ」メニューを充実させていることだという。
【画像13枚】「ハーフサイズが充実」「値段も全然割高じゃない!」…。大阪王将が川崎で始めた「新モデル店」がかなりいい感じ
「大阪王将 鷺沼駅前通り店」のメニュー端末。「ハーフサイズ」メニューが充実している(筆者撮影)
卓上に置かれたメニュー端末を開くと「ハーフサイズ」というカテゴリがある。通常、「大阪王将」のギョウザは一皿6個だが、「ハーフサイズ」のギョウザは3個。ほか、ホイコーロや豚肉と木耳の玉子炒め、肉野菜炒めなど、多くの料理のハーフサイズが用意されていた。
「大阪王将 鷺沼駅前通り店」のメニュー表では、「ハーフサイズ」を大きく打ち出している(プレスリリースより)
既存店の一部でも小ポーションの商品を提供しているが、同店ではメニュー表に大きく「ハーフサイズ」の存在を打ち出しているのが特徴だ。
こちらは「大阪王将 東松原店」のメニュー端末。新モデル店よりも前から一部店舗では「ちょうどええサイズ」と称して小ポーション展開を行っていた(筆者撮影)
3連休中日とあり、店内は8割ほどが家族連れ。お父さんとお母さん、そして小さい子ども、おのおのが好きな料理やドリンクを楽しんでいる。お父さんはビールとつまみ、お母さんは子どもと分け合いながらいくつかの料理をハーフサイズでちょっとずつ楽しみ、子どもはハーフサイズの炒飯を頬張る姿が見受けられた。
1人客に有難い「ハーフポーション」
仕事終わりに1人で訪れた筆者は、ギョウザと酢豚、それぞれのハーフサイズを注文。生ビールにも「小」があったので注文するとワイングラスに注がれたビールが提供された。
途中で「美酢サワー」を追加し、最後は中華そばのハーフサイズで締めた。
通常店舗では1人でフード3種類を注文するのは分量的に厳しいと思うので有難い。平日に訪れたら同じように1人で晩酌する仕事帰りのお客も多いのではないだろうか。
ハーフサイズのギョウザは一皿3個(筆者撮影)
生ビールの小。ワイングラスで提供(筆者撮影)
ハーフサイズの中華そば(筆者撮影)
「大阪王将 鷺沼駅前通り店」のプレスリリースによると、新モデル店の狙いは、時代の変化を鑑みて多様な利用シーンに対応するため、こうした「ハーフサイズ」の商品を充実させていることだという。
大阪王将では「おなかいっぱい」の定義が変化していると感じており、そのアンサーがこの新モデル店ということだ。具体的には、ガッツリとした茶色い料理だけでなく、多種類を少量ずつ楽しみたい、また、健康を意識して野菜をとりたいというニーズを意識しているそうだ。
コロナ禍を経て「小皿」の居酒屋が人気に
普段、筆者は居酒屋やバル業態をメインに取材を続けているが、居酒屋では「小皿」でポーションを抑えて料理を出すことが1つのトレンドになっている。
コロナ禍によって大人数の飲み会が減り、1人飲みや、2人くらいで飲むシーンが格段に増えた。もし一皿のポーションが大きいと少人数で訪れた場合、楽しめる品数が限られてしまう。
そこで、控えめな量の小皿料理を用意して、たくさんの種類の料理を楽しむことで満足してもらうというものだ。
特に中華料理や韓国料理などアジア圏の料理は、もともと大皿でドンと出して大人数で分け合うのが文化だった。しかし、それだと多くの種類が楽しめない。
そこで、料理を小皿にアレンジし、1人や2人で来ても多種類を少量ずつ楽しめる中華や韓国料理の酒場が都心を中心に登場し、繁盛している。
事例としては、自由が丘の立ち飲み中華酒場「立ち呑み中華 起率礼(きりつれい)」や、学芸大学の韓国立ち飲み酒場「韓国スタンド@(アットマーク)」などが挙げられる。
この2店は立ち飲みながらも本格的な料理が楽しめ、一皿のポーションが少ないので1人で訪れても様々なメニューが頼めて満足度が高い。立ち飲みであるから品質に対して価格も抑えられているのも人気の秘密だ。
自由が丘の立ち飲み中華酒場「起率礼」。中華の名店出身シェフの本格料理が立ち飲みでカジュアルに楽しめる(筆者撮影)
学芸大学の韓国立ち飲み酒場「韓国スタンド@」。韓国宮廷料理人から受け継いだ本格的な料理を小皿で楽しめる(筆者撮影)
感染対策から始まった「個々盛り」もいまだ好評
コロナ禍の居酒屋では、感染対策のために料理を店側であらかじめ1人1皿ずつ盛り分けて提供する「個々盛り」も流行った。
すでにコロナ禍の影響は一時期よりは落ちついてきているが、この個々盛りの習慣はいまだ根付いている。感染が気になるからというよりも、1人1皿の方がお客にとって面倒な取り分けが必要なく、特別感があると喜ばれている。
というのも、現在は食材原価の高騰により飲食店は値上げに迫られているが、値上げするには何らかの付加価値を付けなくてはならない。単に商品の内容は変わらないけど「原価が上がったから値上げします」だとお客が離れていってしまうのである。
そこで、ひと手間かけて盛り分けをしたり、量は少なくても小皿で多種類が楽しめたりすることは、原価をかけずに付加価値をアップできる手法ということで注目され、取り入れる店が増えている。
「ハイカロリーこそ正義」は時代遅れ?
大阪王将が言う「おなかいっぱい」の定義が変わったというのは、近年筆者も強く感じていることだ。
ひと昔は、量は多ければ多いほどよい、カロリーも高いほどよい、食べ応えのあるガッツリしたものが至高であり、ヘルシーなものは味気ない、満足できない、という風潮があった。それこそもともと大阪王将が提供していたような、茶色いガッツリな町中華的料理がフィットしていた。
しかし現在はニーズも多様化。健康や体型、栄養面を気にする人が増えた。美味しいことは前提として、食事の際に「身体にいいか」という観点が発生し、むしろカロリーが低いことが歓迎される場面も多くなった。
必ずしも満腹になる必要がないと考えられるようになり、もし満腹になるにせよ、ガッツリとした肉や揚げ物、炭水化物で腹を満たすのではなく、野菜やたんぱく質を多く含む食品で満たしたいという人も増えたのではないだろうか。
そのニーズに対し、大阪王将は今回ガッツリの中にも野菜を取り入れたメニューも意識したという。今回筆者が注文した酢豚などがそのようで、色鮮やかなピーマンやパプリカ、レンコンがゴロゴロ入っていた。
「大阪王将 鷺沼駅前通り店」で注文したハーフサイズの酢豚(筆者撮影)
また居酒屋の事例を持ち出すと、最近の居酒屋では「野菜料理」に注目がにわかに集まっている。
例えば、旬の野菜を使ったおばんざい盛り合わせはかなりいろんな店で見る。野菜ならお腹にたまらないので、他にもたくさんの種類のおつまみが楽しめることがポイントだ。野菜を多用してるので見た目も色とりどりで美しく仕上がり、「ヘルシーなので罪悪感がない」とも好評を得ている。
こうした複数の野菜のおばんざいを盛り合わせたメニューは、近年、都心を中心に多くの居酒屋で見かける(筆者撮影)
これはお客の飲食店に行く目的がますます「腹を満たすこと」ではなくなっていることを示している。お客は「外食でしかできない体験」を求めて居酒屋に来ており、腹を満たすことは二の次三の次。
「大阪王将」はもともと食事業態の色が強いので居酒屋ほどではないにしろ、それでも時代の変化とともに「外食ならではの体験」を求められるようになっているのではないだろうか。単に満腹になりたいだけなら内食や中食の方がよほど安上がりなのだから。
たくさんの種類を少しずつ楽しめる食事を家庭で用意しようとすると、かなりの手間がかかる。外食には家庭では味わえない体験が求められているからこそ、この「少量多種」が体験としてウケている。
そして、ガッツリハイカロリーなもので腹を満たすのではなく、野菜を取り入れた健康的な料理でお腹いっぱいになりたいというニーズが強まっている。こうしたライフスタイルや趣味嗜好の変化によって生まれた大阪王将の新モデル店。大手チェーンのこの挑戦が受け入れられるのか、気になるところだ。
そこまで割高でないのもポイントだ
通常の餃子6ヶが330円なのに対し、ハーフサイズ(3ヶ)は190円。半分の量で57.5%と、そこまで割高ではないのもポイントだ(画像は公式サイトより/加工は編集部)
ホイコーローも通常サイズが840円なのに対し、ハーフサイズは430円。ほぼ半額の値段設定となっている(画像は公式サイトより/加工は編集部)
(大関 まなみ : フードスタジアム編集長/飲食トレンドを発信する人)