高校野手のドラフト有力株、モイセエフ・ニキータの将来像は? 柳田、吉田になれるポテンシャル プロでは守備強化が課題か

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左の長距離ヒッターとしては高校ナンバー1。モイセエフの将来性を買っての上位指名もあるだろう(C)産経新聞社

 今年の高校生野手でナンバーワンの評価を得ているのは石塚裕惺(花咲徳栄)と見られるが、選手としてのタイプは全く異なるものの、打者としての将来性で上回る可能性を秘めているのがモイセエフ・ニキータ(豊川)だ。

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 昨年秋の東海大会では4試合で16打数10安打の大活躍でチームの優勝に大きく貢献。明治神宮大会でも高々と打ち上げるホームランを放って見せた。迎えた今年春の選抜高校野球でもチームは1回戦で敗れ、モイセエフ自身も阿南光のエース吉岡暖の前に3三振を喫したものの、最終打席で新基準バットでの甲子園第1号を放ち、さすがの長打力を見せている。左のスラッガーという意味では高校生でトップの評価となりそうだ。

 最初にモイセエフのプレーを現地で見たのは昨年秋の東海大会だったが、イメージが重なる選手としてまず思い浮かんだのが柳田悠岐(ソフトバンク)だ。身長は181cmと柳田ほどの上背があるわけではないが、全身を使って豪快に振ることができ、その思い切りの良さとヘッドスピードは際立っていた。

 特にインパクトが強かったのが冒頭でも触れた昨年秋の明治神宮大会でのホームランだ。打った瞬間は高く上がり過ぎたかと思った打球がなかなか落ちてくることがなく、そのままライトフェンスを越えたのだ。

 春の選抜でもファーストのファウルゾーンへ高々と上がるフライを打ちあげているが、その滞空時間は6.21秒を記録しており、これは高校生ではなかなか見ない数字である。ちなみにあまりに高く上がった打球に戸惑ったのか、阿南光の一塁手はこれを落球してファウルとなっている。

 柳田も決して会心の当たりではない高々と上がったフライが、そのままスタンドインするようなホームランも多い。打ち損じがホームランになるのが真のホームランバッターと言われることもあるが、モイセエフもそのようなタイプの選手になれるポテンシャルは十分に秘めていると言えるだろう。

 もう1人、少しスイングの形は違うものの、選手としてのイメージとして目指せるタイプとして挙げたいのが吉田正尚(レッドソックス)だ。

 モイセエフは強烈なスイングが目立つが、追い込まれてからは変化球を上手く拾ってヒットにするなど、対応力の高さも備えている。選抜の後に行われた春の県大会でも厳しいマークにあいながらも4試合で13打数9安打と7割近い打率を残した。

 吉田も高校時代からヘッドスピードの速さは際立っていたが、それに加えて芯でとらえる技術の高さを持っており、大学、プロでもさらに磨きをかけて球界を代表する打者となっている。柳田ももちろん対応力の高い選手だが、打撃の巧さという意味では吉田の方がモイセエフが目指すスタイルとしては合っているのではないだろうか。

 柳田、吉田という引き合いに出した選手を見ると、モイセエフへの期待が高いことがよく分かると思うが、それでもドラフト1位候補という声が聞こえてこないのもまた事実だ。

 その要因として考えられるのが打つ以外のプレーである。外野の守備は球際の強さはあるものの、守備範囲や肩の強さはそこまで目立つものがなく、脚力についてもドラフト候補としては際立ったものはない。プロでセンターを守れるのかという点はスカウト陣からも懸念点として挙げられる部分である。足と肩もプロでも上位のレベルにあった柳田と比べると外野手としての能力は少し疑問が残る印象は否めない。

 ただ打者としての将来性の高さは疑いようがないレベルにあり、守備と走塁に関してもここからレベルアップすることも期待できる。また柳田、吉田の2人は大学で大きく成長した選手であり、高校生の時点ではモイセエフの方が上回っていることは間違いない。将来の中軸候補が欲しい球団は上位で指名する可能性も高いだろう。

[文:西尾典文]

【著者プロフィール】

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。