【検証オーストラリア戦】「慎重」がゆえに表れた”3バックの盲点” 焦りも見えた引き分けはW杯本番への大きな学びに
伊東のスピードは驚異的だが、単調な攻撃で豪州ゴールを脅かすのは難しかった(C)Getty Images
中国に7−0、バーレーンに5−0、強豪サウジアラビアをアウェーで2−0で撃破し、3連勝。あれは何だったんだろう。
90分を通してシュート1本、コーナーキック0本と、ほとんど攻撃ができなかったオーストラリアを日本は圧倒的に押し込んだが、鉄壁の守備を前にゴールを割れず、前半を0−0で折り返す。日本が前半にゴールを奪えなかったのは久方ぶり、1月のアジアカップ・グループステージのイラク戦まで遡る。
【動画】キレキレのドリブルで豪州ディフェンスを翻弄!中村敬斗が引き寄せた貴重な同点弾のシーン
すると後半13分、まさかのオウンゴールで失点。日本は焦っていた。その後はこれまでの試合では無かったような強引な競り合いとファウル、イージーミスが散見され、がむしゃらにゴールを目指していた。監督解任直後のオーストラリアに、ここまで苦しめられようとは。中村敬斗による同点ゴールの誘発がなければ、6万人の観客の帰り道は相当に重い足取りになっていただろう。
オウンゴール2つで、1−1。何たる泥仕合。だが、これがワールドカップ最終予選。やっと始まったか、という思いだ。
試合後の記者会見で、4日前のサウジアラビア戦からターンオーバー(選手の入れ替え)をしなかった理由を問われた森保監督。その回答として、確認事項を減らし、前の試合からの積み上げを重視したことに加え、最終予選ということで「慎重にやらせていただいた」と語った。連係面に不安を抱えたくなかったようだ。
この「慎重」という言葉には語気の強さがあり、筆者は印象に残った。おそらく、この試合のキーワードだったのではないか。
両チームの布陣は、日本の3−4−2−1に対し、オーストラリアも3−4−2−1。鏡合わせの立ち位置、俗に言うミラーゲームである。
キックオフ直後、日本がボールを持つと、オーストラリアは3枚の前線が日本の3バックにプレスをかけて追い込んできた。そこで、次の場面では守田英正が最終ラインに下り、4枚回しに変形して1枚の優位を作り、相手のハイプレスをけん制した。それ以降、オーストラリアは5−2−3のハイプレスをやめ、5−4−1でミドルブロックを形成している。これを崩すことが、試合を通じての日本の課題になった。
日本は攻撃時に3−2−5となり、自慢の5トップが攻撃を仕掛けるが、オーストラリアは5バックなので数的優位はない。また、コンパクトに保った5−4−1の中盤4枚がすかさず挟み込みに来るため、スペースもない。この中盤4枚を剥がし、5トップにボールを入れられるかが、ビルドアップの鍵だ。
しかし、前半はこれを実践出来なかった。3バックの両脇にいる町田浩樹と板倉滉は、最後尾から配球するだけで、相手の両サイドハーフを引きつけたり、横に立ったり背後を窺ったりと、中盤4枚を剥がすアクションをしない。
日本の3バックは、1トップのミッチェル・デューク1枚にけん制されている状態だった。これでは相手のブロックを剥がせないし、攻撃の枚数も不足する。その上、守田が最終ラインに下がると、ますます中盤を攻略する人がいなくなる。後ろからの加勢なし、中央の攻略も無ければ、後は大外からドリブルで突破するしかないが、オーストラリアは割り切って縦を空けておき、クロスを跳ね返すことに集中した。
結果、日本のビルドアップは効果が薄く、前半のチャンスはショートカウンター、ロングボール、初見のサインプレーに限られた。そこで首尾良く先制できれば、全く違う試合になっただろうが、そう甘い試合ではなく、日本はオーストラリアが仕組んだ膠着の沼へ引きずり込まれることになった。
状況を打破する手段として、森保監督は4バック変更も選択肢として持っていたそうだが、実行しなかった。3バックを解体すれば、オーストラリアのロングボールに対する抗力が弱まり、板倉、谷口、町田の3人で連係を取ってきた守備のやり方も変わってしまう。それはリスクが大きい。最終予選では受け入れたくないリスクだと、「慎重」を語る森保監督は判断したのではないか。
これは3バックシステムの盲点でもある。
3バックは自陣中央を3人のCBが固め、攻撃ではペナルティーエリアの幅に1トップと2シャドーなど、攻守で重要なスペースに3人を安定して揃えられる。逆に両サイドはウイングハーフ1人ずつにお任せ。初期配置でピッチ上の要のスペースを抑えており、担当も明確なので試合は安定するが、逆に膠着したとき、安定性の高さ故に動きづらいのがデメリットだ。4バックから3バックより、3バックから4バックのほうが変更しづらい。「慎重」にやりたいなら尚更だ。
ただ、何も修正をしなかったわけではない。
後半はボランチの守田と田中の1枚を左サイドへ出し、攻撃時は左サイドバック化して、三笘薫や南野拓実、途中からは中村敬斗の攻撃をサポートさせた。これは効果的だった。前半よりも深くオーストラリアを押し込み、実際に中村の突破から同点ゴールを生むきっかけにもなった。
守備の3バック機能を維持しつつ、サイドに対する中盤のサポートを増やす。相手が前半開始直後のようにハイプレスに来たら、4枚回しで優位を作ることもできる。「慎重に」試合を動かすために、これが森保ジャパンのベスト回答だった。
一方でプレッシングは、前半に実践したような、敵陣で一発のパスを出させてから囲い込むハイブロックの守備から、後半は相手GKまでプレッシャーをかけるハイプレスに変わった。相手GKにのらりくらりとボールを持たせたくなかったのだろうが、この修正は試合をオープンにし、日本の選手は疲労が増し、結果的にシンプルなロングボールを起点にオーストラリアの先制点を誘発することになった。
ボランチの左サイドバック化は功を奏したが、ハイプレス変更は微妙なところ、と個人的には感じた。
この試合の論点は多い。非常に学びがある、大事な試合だったと思う。
オーストラリアはシュート1本、コーナーキック0本。こんな試合を落としたくない。日本のほうが圧倒的に押し込んでいるのに、泥沼に引きずり込まれたまま、終わるなんて。そう思っていた矢先、後半13分にオウンゴールで失点した。
これじゃ、コスタリカ戦じゃないか!
筆者は試合中に、カタールW杯の苦い記憶が蘇っていた。当時は後半36分の失点で、追いつく時間が足りずに0−1で敗れたが、今回は追いつく時間とホームの大声援があり、どうにか1−1に持ち込んだ。
だが、のらりくらりと膠着状態に持ち込まれ、前半0−0から、後半に虎の子の1点で逃げ切りを図られる展開は、コスタリカ戦を思い出すしかなかった。
このまま森保ジャパンが好調を維持すれば、最終予選の残る試合、さらに2026年のワールドカップでも同様の試合があるかもしれない。出場国数が48に増えた場合、日本の同グループにランキングの格下が1〜2チーム入ってくる可能性がある。そのチームが考える日本対策は、おそらく今回のオーストラリア、あるいは2年前のコスタリカのような戦い方なのだろう。
これは大きな学びになる。オーストラリアに感謝したい。また、そう余裕を持って言えるのは、中村が同点ゴールを誘発してくれたおかげなので、中村にも感謝。
[文・清水英斗]