なぜ日本アニメがフィリピンで実写化されたのか 映画「ボルテスV レガシー」放送禁止乗り越え愛された作品
ロボットアニメ全盛期といわれたのが「機動戦士ガンダム」(1979~)の影響もあり1980年前後。とはいえ忘れてはいけないのが革新的だった合体ロボットアニメであり、「ゲッターロボ」(1974~)は、3機の戦闘メカが合体して一つのロボットになる行程が斬新で話題になった。その流れを汲んだ合体ロボットアニメが、5機合体の「超電磁ロボ コン・バトラーV」(1976~)であり、同じ長浜忠夫監督による「超電磁マシーン ボルテスV」(1977~)だ。
そのうちのひとつ「超電磁マシーン ボルテスV」の実写版となるフィリピン映画「ボルテスVレガシー」が日本では10月18日(金)に公開。ちなみに「ボルテスV」は日本でアニメがテレビ放送されてすぐに海外展開となり、フィリピンでは1978年に放送がスタートした。このアニメは、ある調査からフィリピンの94%に知られているほどの知名度を誇る。理由は放送当時の日本アニメの斬新さもあったが、その時期のフィリピンはマルコス政権真っ只中で、独裁政権から特権階級が贅沢三昧、多くの住民が貧困に喘いでいたこともあり、「ボルテスV」のテーマにも共感したと言われている。
アニメ「ボルテスV」は、地球を侵略しようと攻撃する敵プリンス・ハイネル達の星(ボアザン星)が、角のある者だけが貴族となり、角のないものを支配する階級制で成り立っており、その差別に地球のヒーロー「ボルテスV」が斬り込んでいくストーリーにもなっている。その点が彼らの心に火を着けたのは想像に難くない。しかも当時のマルコス政権は、本作が悪影響を及ぼすと言い「ボルテスV」の放送禁止を決定。後の革命によりアキノ政権へと交代となって「ボルテスV」の再放送が始まった。その結果、更に世代を超えてヒットを記録。主題歌は、物語とフィリピンのピープルパワー革命とのリンクから、フィリピンの第2の国歌と言われるほど愛されており、アニメファンだった製作陣により遂に実写化されたのだ。
しかも実写映画「ボルテスV レガシー」のキャストはフィリピン人俳優なので名前は違えども、アニメキャラクターに風貌を似せている。特に美形の悪役プリンス・ハイネルがモデルのプリンス・ザルトスの再現度には息を呑むほどだ。それだけでなく、秘密基地・ビッグファルコンもアニメと同じ、ボルテスチームの出動シーンの様子もカット割も含め再現度が高い。また合体シーンで日本語の主題歌が流れる展開も同じなのだ。それもそのはず、監督であるマークA.レイエスVも無類の「ボルテスV」ファン。CGを駆使した圧巻の戦闘シーン、チームの危機を描くドラマティックな展開。どれも懐かしいものの愛が詰まっていたのは、フィリピンの人々の格別な想いが込められているからだろう。その理由に、この実写版は映画1本、テレビシリーズ90話として制作されたのだから。往年の日本人ファンも納得の出来栄えだ。
(映画コメンテイター・伊藤さとり)