「東日本大震災」よりはるかに多い…「南海トラフ巨大地震」で「衝撃的な数」になると予測される死因

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家がつぶれれば机もつぶれる

南海トラフ巨大地震は、広い範囲で津波襲来が懸念されている。津波の伝搬速度は――海の水深によって異なるが――水深4000メートルならジェット機並みの時速約700キロメートル、水深500メートルなら時速約250キロメートル、水深100メートルでも時速約110キロメートルの速度でやってくる。しかし、大津波襲来の前に大揺れから命を守らなければならない。なぜならば、地震波が伝播してくる速度は津波の伝搬速度よりも数十倍速いからである。

地震波は主にP波(小さく揺れる「初期微動」)と、S波(大きく強く揺れる「主要動」)の2種類の波がある。P波は秒速約7キロメートル(時速約25200キロメートル)、S波は秒速約4キロメートル(時速約14400キロメートル)の速度で伝播してくる。その速度差などを利用し、気象庁は地震発生直後に緊急地震速報を発表して大揺れに備えるよう呼びかけている。震源の場所によっても異なるが、地震発生と共に放射状に地震波が発出され、津波よりも早く、初期微動の小さな揺れと主要動の大揺れが襲ってくる。とくに南海トラフ巨大地震の場合、激しい揺れが長時間続く可能性があり、発災直後の数秒〜数分の行動に重要な意味があり、この限られた短い時間が生死を分けると言っても過言ではない。

そして、これまで防災常識とされてきた「地震! 机の下へ」がいつも正しいとは限らない。なぜならば、家がつぶれれば机もつぶれる危険性があるからだ。とはいっても、ほかに方法がない時や安全な場所に移動する時間がない場合は机の下もありで、実際に家屋の下敷きになりながら机の下にいて助かった事例もある。つまり、地震時の行動に絶対の法則はなく、その場の状況によって臨機応変の対応が求められる。

とくに、耐震性の高い鉄筋コンクリート造りの学校やマンションであれば「地震! 机の下へ」で良いが、古い木造家屋の場合、築年によっては倒壊又は大破する可能性があるので、建物の耐震度や建築年によって地震直後の行動を考えなければならない。そして、奇跡的に助かった稀な事例を標準の行動基準とするのではなく、多角的に検証した知見・知識を踏まえ、命が助かる確率の高い安全行動を基本にすべきである。そのためにも、大揺れに自宅は耐えられるのか、その時居る場所や状況に応じ最善対応ができるよう知識と知恵が重要となる。

例えば、活断層型地震であった2024年能登半島地震では、犠牲者の8割以上が家屋倒壊や閉じ込められたことによるものと推定されている。犠牲者222人の死因を分析した石川県警によれば、「圧死・窒息」が41%、「呼吸不全」が22%、「低体温・凍死」が14%、「外傷性ショック」が13%だったという。圧死、窒息、呼吸不全だけでなく、多くが家屋倒壊に起因していると推定されている。同じ活断層型地震の1995年阪神・淡路大震災や2016年熊本地震でも、倒壊家屋の下敷きによる圧死が8割を超えていた。

他方、海溝型地震である2011年東日本大震災による犠牲者の主な死因は、警察庁の調べによると溺死が92.4%に上り、ほとんどが津波によるもので、建物の下敷きとみられる圧死は4.4%だった。東日本大震災の震央は、宮城県牡鹿半島の東南東約130キロメートルの太平洋(三陸沖)の海底(北緯38度06.2分、東経142度51.6分)、震源の深さは約24キロメートルだった。この地震により震度7が観測されたのは宮城県栗原市築館だけで、そのほか宮城県、福島県、茨城県、栃木県の4県で震度6強が観測された。私が発災1週間目に現地に入った時、M9.0にしては地震の揺れによる震害が意外と少ないように思った。とくに津波被害の多かった三陸地域では、海岸付近から流れ着いた建物の屋根瓦が落ちておらず、ガラスも割れていない住宅が多くあり、死因内訳と符合しているように感じた。

一口に地震と言っても、その都度、顔(様相)が全く違う。地震を発生させた震源断層の位置、深さ、壊れ方などによって発出・伝播される地震波が異なることによるものと考えられている。東京大学地震研究所によると、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)の揺れは、木造家屋の被害に直結する周期1〜2秒前後の応答スペクトル(Velocity Response Spectrum)が100センチメートル/秒程度以下と小さく、阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)の鷹取地点等で観測された200〜300センチメートル/秒の約半分以下であったという。断層破壊継続時間は3分ほどと、長く揺れたにもかかわらず、木造家屋が倒壊しやすい揺れ周期の成分が少なかったことにより、揺れによる建物被害が少なかったことが東日本大震災の特徴のひとつである。

しかし、同じ海溝型地震でも南海トラフ巨大地震の震源領域は東日本大震災のような海域だけでなく、広い内陸域の地下が多く含まれている。そのため、地域によってはゆっくり長く揺れる海溝型地震的揺れ方と直下型地震のような激しい揺れ方が同時又は混在して長く続く可能性がある。つまり、阪神・淡路大震災、熊本地震、能登半島地震のように耐震性の低い建物が多数倒壊し、多くの死傷者が出る危険性があるのだ。

では、地震直後にどう行動すべきかを次項で考察する。

<「地震が起きたら机の下」で、ほんとうに良いのか>の記事に続きます。

さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。

「地震が起きたら机の下」で、ほんとうに良いのか