(※写真はイメージです/PIXTA)

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サッカーは集団競技の側面の強いスポーツです。よく比較対象になる野球も集団競技ですが、基本的にはターン制で攻撃と守備をチーム間で交代しプレイすることから、サッカーほど直接的なコミュニケーションの機会は少ないです。このことは、チーム内の会話を英語ではなく日本語の通訳を介して行なう、大谷選手のプレイスタイルを考えれば理解しやすいでしょう。このように同じ選手でも、サッカーと野球とで求められる「コミュニケーション能力」「英語力」が変わってきます。本記事では、英語コーチング・スクールを営む三木雄信氏が、その英語力の違いについて考察します。

サッカー日本代表FIFAランキング16位に躍進!

2026年北中米ワールドカップのアジア最終予選9月シリーズで、日本代表は9月5日には中国代表に7-0と圧勝、続いて10日にはバーレーン代表にも5-0と快勝したことは記憶に新しいところです。これらの試合の結果、2024年9月19日に発表されたFIFAランキングは、日本は2ランクアップし、16位となりました。

この9月シリーズの日本代表選手27人のうち21人が現在海外でプレーしており、海外でプレーして日本に戻ってきた中山雄太選手と長友佑都選手と合わせると、23人は海外組または海外経験者となっています。日本のサッカーが国際化とともに世界の強豪国と伍するレベルに達しつつあると言える状況と思います。

ちなみに、この中の菅原由勢選手(サウサンプトン)、守田英正選手(スポルティング)、谷晃生選手(町田)、中山選手(FC町田ゼルビア)は筆者が運営する英語コーチングのトライズが英語学習をサポートさせていただいた選手です。

大谷翔平選手で分かる野球とサッカーの本質的違い

そもそもサッカーは集団競技の側面の強いスポーツです。

よく比較対象になる野球も集団競技ですが、基本的にはターン制で攻撃と守備をチーム間で交代してプレイをします。また、一つ一つのアクションの多くは一人で完結しています。ピッチャーは一人でマウンドに立って投げますし、打者は一人でバッターボックスに立って打ちます。選手間で連携は守備での送球がほとんどと言って良いでしょう。

一方、サッカーは、そもそもターン制ではなく、攻撃と守備は常に入れ替わり続けます。また、選手間のパスやヘディングでの連携が連続して試合が成立します。つまり、野球より集団競技の側面が強いのです。

このことは現在、アメリカのメジャーリーグ活躍している大谷翔平選手を考えれば明確にわかります。

大谷選手は、ご存知の通り基本的にはチーム内での会話もマスコミへの会見やインタビューも英語でなく日本語で通訳を介して行なっています(実は、英語で日常会話がかなりできると言われていますが)。

サッカー選手も海外で活躍するには英語は必要

これに対して現在の日本代表の海外組選手は英語、もしくはプレイしている国の言語が話せます。

例えば、バーレーン戦の後では、久保建英選手がスペイン語と英語で海外のマスコミのインタビューに答えていました。また冨安健洋選手も英語で海外マスコミからのインタビューに応じていました。この点でやはり野球とサッカーの本質の違いが表れていると言えると思います。

私は、9月シリーズでの日本代表だった中山選手にお話を伺ったことがあります。所属していたオランダのチーム(PECズヴォレ)の「ディベート形式のミーティング」で英語でのコミュニケーションの重要さを感じたそうです。

中山選手によると、「オランダのサッカーチームのミーティングでは、選手は監督の話をただ聞くだけではなく、意見を積極的に述べる必要がある」とのこと。自身が英語を話せず、議論に入っていけない状況に「チームの一員になり切れていないのでは」と葛藤を感じていたそうです。

また、菅原選手も「喋ってコミュニケーションをとって、例えば生活のことやいろんなプライベートのことを話すことで、もっと仲を深めなきゃいけない」と感じたことがあったそうです。

世界の名将はマルチリンガル

このような野球とサッカーの違いが現れているもう一つの側面としてサッカーの監督の語学力もあります。

将として知られるペップ・グアルディオラは、2008年にバルセロナの監督に就任。初年度でチャンピオンズリーグ、ラ・リーガ、コパ・デル・レイの3冠を達成。その後、バイエルン・ミュンヘンでも国内タイトルを連覇。2016年からマンチェスター・シティを率い、プレミアリーグで複数回優勝、2023年にはチャンピオンズリーグ優勝を果たした。彼は、英語・スペイン語、イタリア語、ドイツ語を駆使することで知られています。

また、2023年からバイエルン・ミュンヘンの監督を務めているトーマス・トゥヘルは、マインツで監督キャリアを開始し、パリ・サンジェルマンではリーグ優勝とチャンピオンズリーグ準優勝を達成。2021年にチェルシーを率いてチャンピオンズリーグ優勝を果たしています。彼も英語・スペイン語・フランス語、ドイツ語を話すのです。

このようなサッカーの名監督は様々な国から集まった様々な言語を話す選手とピッチサイドで額を突き合わせて、直接指示を出しています。やはり通訳を介してでは伝わりきれない要素があるからと考えられます。このことからもサッカー名監督の要件としてマルチリンガルであることと言えるでしょう。

9月シリーズの立役者は長谷部誠

実は、9月シリーズでのサッカー日本代表に起きた変化の一つに長谷部誠のコーチングスタッフ就任があると私は思っています。いうまでもなく、ドイツのヴォルフスブルク、フランクフルトで活躍。ブンデスリーガ優勝を経験し、日本代表としてもキャプテンを務め、ワールドカップに3大会出場の名選手です。

長谷部は英語に加えてドイツ語を流暢に話すことが知られています。彼はフランクフルトで指導者を目指し2024年9月からフランクフルトII(U-21)のアシスタントコーチに就任しています。同時にサッカー日本代表のコーチングスタッフにも就任。

こうした日本代表の選手だけでないさらなる国際化によって、海外組のサッカーの戦術の共通理解と浸透がサッカー日本代表の原動力になっているのです。

サッカー日本代表は、11日午前3時(日本時間)サウジアラビアと対戦します。期待したいと思います。

三木 雄信

英語コーチングスクール「TORAIZ」代表

1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部経営学科卒。三菱地所(株)を経てソフトバンク(株)に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏のもと、多くの米国IT企業とのジョイントベンチャーのプロジェクト、「ナスダック・ジャパン設立」「日本債券信用銀行(現・あおぞら銀行)買収」「ソフトバンクの通信事業参入」などのプロジェクトで、プロジェクト・マネージャーを務める。

トライズ株式会社代表、2015年に英語コーチング「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変え、グローバルな活躍ができる人材の育成を目指している。

著書に、『世界のトップを10秒で納得させる資料の法則』(東洋経済新報社)、『孫社長のむちゃぶりをすべて解決してきたすごいPDCA』(ダイヤモンド社)、『【新書版】海外経験ゼロでも仕事が忙しくても「英語は1年」でマスターできる』『ムダな努力を一切しない最速独学術』(ともにPHP研究所)ほか多数。