口腔がん

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監修歯科医師:
遠藤 眞次(歯科医師)

長崎大学歯学部を卒業後、東京と群馬の歯科医院で分院長を歴任。臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う。「Dentcation」の代表を務める。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、歯科審美学会やデジタル歯科学会等で精力的に発表を行っている。

口腔がんの概要

口腔がんは、口腔内に発生する悪性腫瘍の総称です。
具体的には、舌、歯茎、口蓋、口腔底、頬粘膜などの口腔内の組織に発生します。
口腔がんは、口腔粘膜の扁平上皮細胞から発生することが多く、これを扁平上皮癌と呼びます。

その他、上皮以外の上皮下の軟部組織や唾液腺などから発生した悪性腫瘍も含みます。
口腔がんは、早期に発見されて治療が行われれば良好な予後が期待できますが、進行した場合は治療が困難になり、予後が悪化して死に至ることもあります。

口腔がんの原因

タバコの喫煙

タバコの煙には多くの発がん物質が含まれており、口腔内の細胞を傷つけ、がんの発生リスクを高めます。

アルコールの過剰摂取

アルコールも口腔がんのリスクを高める要因です。

口腔内の慢性的な刺激

きちんと合っていない義歯や鋭利な歯のエッジなどが口腔内の組織を慢性的に刺激することで、がんの発生リスクが増加します。

不適切な口腔衛生

口腔内が不衛生である場合、細菌感染や炎症を引き起こし、がんのリスクを高めると考えられていますが、現時点では不明確な点もあります。

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染

特定のHPVタイプは口腔がんのリスクを高めることが知られています。

口腔がんの前兆や初期症状について

口腔がんの症状は初期には軽微で見逃されがちですが、進行するにつれて明確な兆候が現れます。
また、口腔がんの初期症状は、ほかの良性の口腔内疾患(例:口内炎、潰瘍など)と区別がつきにくい場合があります。
以下に、口腔がんの具体的な症状を詳しく説明しますが、症状が軽くても、長期間続く場合、歯科医または医師の診察を受けることが重要です。

口腔内の白斑や赤斑

口腔内の粘膜に白い部分・斑点や赤い部分・斑点が現れることがあります。
赤斑は白斑よりもがんに進行する可能性が高いとされています。

口内の痛みや違和感

持続的な痛みや不快感がある場合、特に痛みが増していく場合は注意が必要です。
唇や舌、頬の内側などにしみる感覚が現れることもあります

口腔内の潰瘍や傷

治らない潰瘍や傷がある場合、がんの可能性があります。
特に長期間続く場合は注意が必要です。
これらの潰瘍は痛みを伴うこともありますが、痛みを感じないこともあります。

口腔内のしこりや腫れ

口腔内や唇、頬の内側、舌、歯茎などにしこりや腫れが感じられることがあります。
触ると硬く感じることが多いです。

口臭

がんの進行に伴い、強い口臭が生じることがあります。
これは組織の壊死や細菌感染によるものです。

顎や首のしこり

がんがリンパ節に転移した場合、首や顎にしこりが感じられることがあります。
通常痛みはありませんが、ときに痛みを伴うことがあります。

口腔がんの場所による種類と症状の違い

舌がん

舌にしこりや潰瘍が現れ、痛みを伴うことがあります。
舌の動きが制限されることもあります。

歯茎(歯肉)がん

歯茎にしこりや腫れが現れ、出血することがあります。
歯のぐらつきや歯が抜け落ちることもあります。

口腔底がん

口腔底(舌の下)にしこりや潰瘍が現れ、嚥下痛などを引き起こします。

頬粘膜がん

頬の内側にしこりや潰瘍が現れます。
口腔内に発生する悪性腫瘍の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、口腔外科、歯科です。
口腔内に発生する悪性腫瘍であり、口腔外科や歯科での診断と治療が必要です。

口腔がんの検査・診断

口腔がんの検査・診断には以下の方法が用いられます。
がんの進行度や患者さんの状態によって適切な方法が異なるため、医師と相談しながら治療計画を立てることが大切です。

視診と触診

歯科医や口腔外科医による口腔内および頸部の視診と触診が基本です。
これにより、異常な腫れやしこり、色の変化を確認します。
自分自身での観察も有用なため、いつもと違う変化に気づいたときは注意が必要です。

生検

疑わしい部位から一部の組織を採取し、顕微鏡を用いた病理検査でがん細胞の有無を確認します。
生検は確定診断に不可欠です。

X線撮影

口腔内の骨や歯の状態を確認し、腫瘍の位置関係を確認します。

CT検査

がんの広がりや転移の有無を詳細に確認できます。

MRI

軟部組織の状態を詳しく見ることができ、がんの広がりを評価するのに有用です。

PET-CT検査

がんの活動性や全身への転移を調べるために使用されます。

血液検査

腫瘍マーカーや全身状態を把握するために行われることがあります。

口腔がんの治療

口腔がんの治療には、がんのある場所や進行度、患者さんの全身状態などを考慮して、以下の方法が検討されます。

【手術】部分切除

がんが小さい場合、周囲の正常組織を含めてがんのある部分だけを小さく切除します。
切除することで治癒を目指します。
口腔は食事や発語などに重要な機能があるため、なるべく小さな切除が望ましいと考えられます。

【手術】広範囲切除

がんが大きい場合や周囲に広がっている場合、広範囲にわたる組織を切除することがあります。
切除する部分として、骨や舌の一部を含むこともあります。
その後の機能や外観を回復するために、再建手術が行われることがあります。その際、皮膚や骨、筋肉の移植が含まれます。

放射線治療

外部から放射線を照射し、がん細胞を破壊する外部放射線療法と放射性物質を直接がんのある組織に埋め込んで治療する内部放射線療法があります。
手術前後や、手術が困難な場合に用いられます。

化学療法

抗がん剤を用いてがん細胞を攻撃します。
単独で用いることもあれば、手術や放射線療法と併用することもあります。

分子標的療法

腫瘍に発現している特定の分子(タンパク質)を標的とした薬物療法です。
分子レベルでがん細胞を攻撃するため、また、正常の組織での発現が少ないため、副作用が少なく効果的な治療が期待されます。

免疫療法

患者さん自身の免疫力を高めてがん細胞を攻撃する治療法です。
近年、免疫チェックポイント阻害剤などが注目されています。

口腔がんになりやすい人・予防の方法

口腔がんになりやすい人

喫煙者

特に長期間にわたるヘビースモーカーはリスクが高まります。

過度の飲酒者

アルコールの過剰摂取がリスクを増大させます。

HPV感染者

特定のHPVタイプに感染している人。

予防の方法

口腔がんの早期発見・早期治療が予後を大きく改善するため、自己チェックと定期的な診察が重要です。

禁煙

タバコを吸わないことが最も重要な予防策です。

飲酒の節制

アルコールの摂取量を適度に保つことも予防として重要です。

口腔衛生の徹底

定期的な歯磨きとデンタルフロスの使用、歯科検診を受けることも予防につながります。

定期的な検診

特にリスク要因(喫煙、飲酒、HPV感染など)がある場合、早期発見・早期治療のために、定期的に歯科医や口腔外科医の検診を受けることが推奨されています。


参考文献

国立がん研究センターがん情報サービス口腔がん
口腔外科悪性腫瘍口腔領域の悪性腫瘍(口腔がん)