「子猫は死ぬと冷凍庫」戸建て住宅で100匹近くを飼育する繁殖業者も…“猫ブーム”の裏で続いている過酷な状況とは〉から続く

 2000年代半ばから始まった「猫ブーム」の影響により、猫の飼育数は年々増え続けている。拾ったりもらったりするのが当たり前だった時代は過ぎ、今や猫も犬と同様ペットショップで購入するようになった。

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 ここでは、朝日新聞記者の太田匡彦さんがペットビジネスの裏側で奴隷のように扱われる犬や猫たちの実態を追った『猫を救うのは誰か ペットビジネスの「奴隷」たち』(朝日文庫)より一部を抜粋。

「増産」のために劣悪な環境で猫を飼育する繁殖業者が増加する中、遺伝性疾患の蔓延を懸念する声も出ている。実はあの人気の猫種の特徴にも、疾患が隠されているというのだ――。(全4回の2回目/最初から読む)

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「折れ耳」に隠された疾患

 ペット保険大手「アニコム損害保険」の調査で、2024年まで16年連続で人気1位猫種になっているスコティッシュフォールドも、優性遺伝する遺伝性疾患を抱えている。スコティッシュフォールドは、携帯電話会社のCMに起用されたことなどで人気猫種となったわけだが、猫種名の由来であり、人気の理由にもなっている「折れ耳(fold)」が問題だ。

 実は折れ耳は、優性遺伝する骨軟骨異形成症の症状の一つ。原因遺伝子を両親から計2つ受け継いで重症化すれば、四肢に骨瘤ができ、歩く際に脚を引きずるようになったりする病気なのだ。多くの人が飼う、片親からだけ原因遺伝子を受け継ぐことで耳が折れている猫でも、年齢を重ねると四肢の関節が変形する。


「折れ耳」のスコティッシュフォールドの子猫 ©写真AC

 これらは獣医学的に、痛みが生じると考えられる状態だ。折れ耳スコティッシュの多くがあまり動きたがらなかったり、動きが遅かったりするのは、痛みのためだと推定されている。前出の大和教授はこう指摘する。

「発症した猫は、四肢や体に生涯ずっと痛みがある。スコティッシュフォールドは『猫種』と捉えるのではなく、『病気の猫』と見るべきだ。そんな猫が日本では人気ナンバーワンというのは、かなり深刻な状況と言える」

法律に抵触する繁殖

 そもそも、遺伝性疾患を抱える「病気の猫」をあえて繁殖、販売しようとする行為には大きな問題がある。2021年4月に環境省が制定した飼養管理基準省令では、「遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと」と定められている。違反した業者には、動物愛護法に基づく改善勧告や業務停止命令などが出される可能性がある。

 前述の通り、スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症は優性遺伝する疾患だから、折れ耳同士で繁殖すれば75%以上の確率で折れ耳の子猫が生まれる。折れ耳と立ち耳とで繁殖した場合でも、50%以上の確率で折れ耳が生まれる。販売されている「折れ耳の子猫」の側から見ると、両親または片親は必ず折れ耳だということになる。

 つまりペットショップの店頭に折れ耳のスコティッシュフォールドがいる時点で、飼養管理基準省令が禁じる繁殖が行われたことは明らかなのだ。動物愛護法に照らせば、折れ耳のスコティッシュフォールドの繁殖は認められていないと解するべきだろう。

 実際、国会でも問題になった。2022年5月11日に開かれた参院消費者問題特別委員会。環境省の松本啓朗・大臣官房審議官はスコティッシュフォールドの繁殖について「規制の適用のあり方を検討する」と述べ、今後、専門家や動物愛護団体、ペット関連の業界団体などから知見を集めていくことを明らかにしたのだ。福島瑞穂氏(社民)の質問に答えたものだった。

 福島氏は21年6月から施行されている飼養管理基準省令で「遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと」と定められていることなどから、「(折れ耳については)繁殖を避けることを検討すべきだ」などと質問した。

自治体、消費者、メディアの問題

 松本氏は、スコティッシュフォールドの骨軟骨異形成症は遺伝性疾患であるという報告を把握しているとしたうえで、「基準(省令)に反することは動物愛護、動物福祉の観点から考えて望ましくない。折れ耳のスコティッシュフォールドの繁殖規制の適用のあり方について獣医師関係団体、動物愛護関係団体、ペット業界団体などの知見と意見をよく聞きながら、検討していく」という考えを示した。

 ところがペットショップの店頭ではいま現在も平然と、折れ耳のスコティッシュフォールドが売られている。ペットショップの経営者たちはその繁殖が飼養管理基準省令に抵触していることを認識し、一刻も早く仕入れ、販売をやめるべきだろう。

 繁殖業者やペットショップなどを監視・指導する地方自治体が、この状態を放置していることも問題だ。店頭に折れ耳のスコティッシュフォールドがいれば、行政はその仕入れ先を確認し、繁殖業者に対して改善するよう勧告、命令すればいい。その繁殖業者が命令に従わなければ当然、業務停止命令や登録取り消しといった処分の対象になる。

 消費者もよく考える必要がある。消費者が「人気の折れ耳」に飛びつくから、業者は繁殖、販売する。もちろん、人気をあおるマスメディアの罪も重いと言わざるを得ない。

 子犬、子猫の段階で症状があらわれる遺伝性疾患はほかにもいくつかある。そうでなくても、検査方法が確立されている遺伝性疾患は、繁殖段階で発生を抑えることができるものだ。業者、行政、消費者、メディアが一体となって、この事態を解決していかなければならない。

ペットショップの店長は「同じようなのでいいですよね。取り換えます」と…ペット購入後の“健康トラブル”に直面した飼い主たちの怒り〉へ続く

(太田 匡彦/Webオリジナル(外部転載))