若葉竜也の稀有な役者力!今泉力哉監督とのタッグで、隣人のようなナチュラルさを見せた映画「街の上で」
今年4月期に放送され、ギャラクシー賞の月間賞に輝くなど好評を博したドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」。その中でとりわけ注目を集めたのが、主人公のミヤビを一途に思う三瓶先生を演じた若葉竜也だ。すでに映画ファンには知られた存在でありながら、若葉が民放ドラマに出演するのは珍しかったこともあり、SNS上では「若葉竜也が世間に見つかってしまった」という声も上がっていた。
「アンメット」以降、彼の出演作を後追いしているという人も多いかもしれないが、まるで隣人のような感覚を覚えるほど、若葉のナチュラルな演技を味わえる作品としておすすめしたいのが、群像劇の名手・今泉力哉監督による映画「街の上で」だ。
10月5日(土)に日本映画専門チャンネルにて放送される本作は、今泉監督が変容する"文化の街"下北沢を舞台に絡み合う恋愛模様を紡いだ作品。映像化作品も多い漫画家の大橋裕之と今泉監督が脚本を手掛けた。
若葉が演じたのは、古着屋で働く荒川青。恋人の雪(穂志もえか)に浮気された上にフラれた青は、いまだに彼女のことが忘れられない。そんな彼のもとに、美大に通う映画監督・町子(萩原みのり)から自主映画への出演依頼が舞い込む。
「葛城事件」(2016年)や「台風家族」(2019年)、「あの頃。」(2021年)など数々の映画で鮮やかな存在感を発揮していた若葉が、映画初主演を果たした作品としても見逃せない。今泉監督と若葉は、若葉が好きな相手にぶんぶん振り回されるナカハラ役を好演した「愛がなんだ」(2019年)をはじめタッグを重ねており、「アンメット」にもカフェの店員役として今泉監督が登場していることからも、彼らが信頼を築きながらいい交流を重ねていることがわかる。
若葉演じる青は、映画冒頭からさっそく雪に「別れたい」とド直球な言葉でフラれてしまう。「誰?相手は俺の知っている人?」と追求する青は、「許してくれなくていい」という雪に「え?」と困惑。しまいには浮気をした方から「別れてほしい」と切り出されてしまうのだが、怒りと嫉妬、驚きと戸惑い、落胆などあらゆるものがないまぜになった青の心の動きを、若葉は絶妙な表情で体現している。
古着屋の店先に座る佇まい、客とのやり取りも「こういう店員さんいる」というリアリティたっぷり。どこか抜けているけれど、人の好さがにじむ青が過ごす日々を見届けたくなる。若葉のすごいところは、こういった"生っぽさ"をキャラクターに注いでしまうところ。稀有な役者力で、誰もが「身近にいるかもしれない」と、自分と同じ地平を生きている人だと感じるようなキャラクターを誕生させている。
青と雪だけではなく、劇中に登場するキャラクターたちは普通に日常を送っているように見えながらも、胸の内では恋に悩み、孤独を抱えている。体温まで伝わるような生々しい会話劇から、正義や善悪で割り切れない人のココロを、ユーモアを交えながら浮き彫りにしていくなど、今泉監督作品の真骨頂を味わえる。
青が通う古書店の店主の田辺を演じるのは、月9ドラマ「海のはじまり」でも鮮やかな印象を残している古川琴音。笑顔を弾けさせつつ、不思議な空気を醸し出す特別な魅力で、田辺の本心までのぞいてみたくなる。
また雪を演じる穂志は、エミー賞で史上最多18冠に輝いた「SHOGUN 将軍」で世界にその名を轟かせており、惜しまれつつ芸能界を引退した萩原、話題作への出演が相次ぐ中田青渚、成田凌も重要な役どころで出演を果たすなど、どこまでも今泉監督が信頼を寄せたいい役者が顔を揃えている。初公開から3年が経つ今年も再上映されるなど、映画ファンから支持を集め続けていることも大いに納得だ。
文=成田おり枝
放送情報【スカパー!】
街の上で
放送日時:2024年10月5日(土)21:25〜 ほか
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります