米Metaは9月25日(現地時間)、年次カンファレンス「Meta Connect 2024」において、「Orion」というARグラスのプロトタイプを披露した。簡単に着脱できるメガネ型でありながら、スタンドアロン型のヘッドセットで体験するような高度なMR(複合現実)を実現している。



コンピューティング能力を持ったスマートグラスは、モバイルの将来を切り開く可能性として大きな期待を集めている。しかし、既存のフェイスコンピュータ(face computers)はどれも、メガネというには大きくて重く、低いディスプレイ解像度、狭い視野角(FOV)、遅延や発熱といった課題を抱えている。



Metaは、Orionを「研究用のプロトタイプではない」と強調している。2019年に同社(当時Facebook)がOculus Connectで「We are building AR glasses(ARグラスを開発している)」と発表してから5年。Metaは製品プロトタイプの1つとしてOrionを公開した。



キーノートでは、社外の人々がOrionを試した際の反応を映像で紹介した。クリアな表示や快適なレスポンスに驚きの声が上がり、NVIDIAのCEO、ジェンスン・ファン氏は「ヘッドトラッキングは良好で、明るさやカラーコントラストも良い。視野角(FOV)も素晴らしい」と評価している。

NVIDIA CEO、ジェンスン・ファン氏

Orionは、ARグラス、ポケットサイズのコンピューティングパック、ワイヤレスEMGリストバンドの3つから成り、PCに接続する必要はない。コンピューティングパックを携帯することで、自由に動き回れる。



100グラム以下の軽量なARグラスを実現するために、チップとディスプレイをカスタム設計した。レンズに軽量で耐久性が高く超高屈折率の炭化ケイ素(SiC)を採用。光学グレードのSiCレンズの可能性を追求してきた結果、迷光効果を抑え、ARグラスのフォームファクタでは最も広い約70度の視野角を実現した。フレーム内にマイクロLEDプロジェクターを搭載しており、レンズの導波管を介してグラフィックスを投影する。



自然な操作を実現するために、EMG(表面筋電位)信号を読み取るリストバンドを開発した。手のわずかな動きの違いを検出でき、これに視線トラッキング、ハンドトラッキング、音声コントロールを組み合わせて、スワイプ、クリック(選択)、スクロールなどを簡単に行える操作システムを構築した。マウスがGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)によるパソコン操作を実用的なものにし、タッチディスプレイによってスマートフォンのマルチタッチ操作が可能になったように、EMGリストバンドがARグラスに対するパラダイムシフトになるとしている。



ARグラスは、物理的な世界をキャンバスとして、スマートフォンの画面の限界にとらわれないデジタル体験を可能にする。マルチモーダルなAIが統合されることで、AIの目や耳となり、AIがユーザーの周りの世界を感知してさまざまなサポートを提供できるようになる。



しかし、この世代のOrionが消費者向け製品になることはない。The Vergeによると、光学グレードのSiCレンズの製造は非常に困難で、製造コストが1台あたり1万ドル(約145万円)にもなる。このプロトタイプは社内開発とデモのために作られたものである。

すでに次のバージョンが開発されており、フォームファクタのさらなる小型化、解像度と輝度の向上、そして量産化を目指した取り組みが進められている。ザッカーバーグ氏はキーノートで、数年後にはそれがMetaの最初のコンシューマー向けフルホログラフィックARグラスにつながる見通しを示した。