社会のさまざまな領域で生成AIの活用が進む中、生成AIを活用した英語学習にも注目が集まっています。とはいえ、どうやって生成AIを英語学習に活用するのか、具体的なイメージがわかない人もいるのではないでしょうか。

AI時代のイマ知っておきたい、英会話上達に効く「AI活用術」とは?

オンラインの英会話レッスンだけでなく、AI英会話チャット機能も提供している「DMM英会話」。今回は、同サービスを提供するDMM.comのマーケティング本部 増田淳氏と、英会話事業部 企業法人チームの杉山葵氏に生成AIを活用した英語学習法やその注意点などについてお話を聞きました。

左から「DMM英会話」を提供するDMM.comの英会話事業部 企業法人チームの杉山葵氏、マーケティング本部 増田淳氏

○■文法や語法の正誤の判断と「即時性」がAIの強み

――まず、生成AIを使った英語学習法にはどのようなものがあるのでしょうか?

増田: 生成AIは、文法や語法などの「正しさ」の判断や「即時性」に強みがあります。そのため、正しい表記・表現に関する相談やアドバイスがほしいとき、表現のバリエーションを知りたいときなどに特に有用です。

具体的には、自分が書いた内容や話した内容について、正誤のチェックをしてもらう、あるいは代替表現を提案してもらうなどの使い方があります。

――生成AIを使った英語学習法は、「リーディング」「ライティング」「リスニング」「スピーキング」のうち、どの領域に向いているのでしょうか?

増田: いずれにも活用可能ですが、生成AIはインプットよりもアウトプットに活用しやすいので、特にスピーキングとライティングの練習に向いています。音声認識能力の問題もあり、現時点では発音を矯正する目的には不向きですが、「自分が話した内容が正しいかチェックする」「表現のバリエーションを増やす」といった目的なら、生成AIはスピーキングの壁打ち相手に最適です。

○■状況に即した実践的な英語表現が身に付く

DMM.comのマーケティング本部 増田淳氏

――英語学習において、特に生成AI活用に適したシチュエーションがあれば教えてください。

増田: 実際に人と英語で会話する前の予習、あるいは復習として、一人での反復練習に活用するのがおすすめです。特に、空港でのチェックインや道案内など、特定のシチュエーションを想定したロールプレイに強いですね。実践前にAIを相手に練習しておくことで、実地で使える表現を身に付けることができますし、表現の幅も広がります。

また、生成AIには「即時性」という強みがあるので、スピーキングやライティングの練習中に、正しい表現ができているかその場でチェックしたいとき、どう表現したらいいかアドバイスを求めたいときにも使えます。

――スピーキングやライティングには翻訳アプリも使われますが、翻訳アプリとの違いは?

増田: 翻訳アプリを使いこなすためには、訳しやすい日本語を書くスキルが求められます。その点、生成AIなら深く考えなくても「こんな会話の流れで、こんな風に言いたいんだけど、どんな表現が適してる?」と聞けば、いくつか表現のパターンを提示してくれます。そのときどきの状況を伝えた上でアドバイスを求められるので、翻訳アプリや辞書よりも実用的な表現を提案してくれる印象がありますね。

――生成AIを活用する際はプロンプト(ユーザーが入力する指示や質問のこと)の作成がキーになると思います。英会話に生成AIを活用するときのプロンプト作成のコツはありますか?

増田: シチュエーション、相手の職業、立場、相手との関係性などを事細かに設定しておいたほうが、よりカスタマイズされた英語表現が学べます。私は相手のキャリア、シチュエーション、自分の経歴、自分の考え方、居住地、家族構成などを入力して、それらの情報を踏まえた"私っぽい表現"を提案してもらっています。

○■AIだけで英会話は完結しない



――生成AIを英語学習に活用する上で、注意すべきことはありますか?

増田: 文法や語法の正しさはある程度担保されているものの、感情を伝えるコミュニケーションや文化背景を踏まえたやり取りには注意が必要です。例えば、言葉では「あんたなんか嫌い」と言いつつ、実は「好き」と伝えるコミュニケーションがありますが、生成AIにはこうしたニュアンスは理解できません。

生成AIはシチュエーションに応じた表現の提案もある程度できますが、プロンプトで状況や話者同士の関係性などを指定することが前提です。そうでないと標準的な表現が提案されるので、TPOに合った表現になっていない可能性があります。人は場の雰囲気や相手との関係性などを瞬時に判断し、言い回しを調整しますが、AIにはそれができないので、ミスコミュニケーションが起こるリスクはありますね。

また、生成AIを使った英語学習は一人での反復練習には適していますが、実際に生身の人間と話すと必ずイレギュラーなやり取りが発生します。AIで英会話のトレーニングをしていると、型にはまったやり取りは身に付いても、そうでない会話には対応しきれません。

――どんなにAIで練習を積んだとしても、英語が話せるようになるには、生身の人間を相手にした実践が欠かせないということですね。

増田: その通りです。英語はあくまでもコミュニケーションツールであり、英会話には言語スキルとコミュニケーションのスキルの両方が必要です。AIは言語スキル向上のトレーニングには適していますが、コミュニケーションスキルは人が相手でないと磨かれません。

英語学習はAIだけでは完結できないので、人を相手に英会話のトレーニングをする前提で、AIの活用方法を考えたほうがいいと思います。

○■AI×リアルコミュニケーションで効率よく英語が身に付く

――生成AIを活用しながら、生きた英語を効率よく学ぶにはどうしたらいいのでしょうか?

増田: 生成AIと生身の人間が相手の英会話レッスンなどを併用することです。本来、英語を学び始めてから、英語を使って会話できるようになるまでには膨大な学習が必要ですが、AIに助けてもらうことで、その道のりを短縮できます。

英会話レッスンをアウトプットの場と位置付けて、AIはレッスンの予習・復習として活用するのがいいでしょう。AIが相手なら、ミスを恐れず、緊張することなく話せるので、練習にはもってこいです。

おおよそではありますが、予習・復習で7〜8割、アウトプット2〜3割のバランスを意識して学習サイクルを回していくと上達が早いのではないでしょうか。失敗してもいいから、まずは臆せず話してみることが英会話を楽しむ秘訣(ひけつ)です。

――ちなみに、AIにはない"生身の人間と英語で会話する魅力"は何でしょうか?

杉山: 生身の人間の発言には、その人の経験や人柄が表れます。感情のやり取りやその人ならではの発言、リアクションは、AIにはない面白さですね。

私自身、英会話レッスン冒頭の自己紹介の5分間で、講師と好きなユーチューバーの話で盛り上がったことがあります。英会話レッスンで生身の人とのコミュニケーションを楽しみつつ、AIを活用しながら表現の幅を広げていけば、相乗効果が生まれるのではないでしょうか。

DMM.comの英会話事業部 企業法人チームの杉山葵氏

○■AIは人の欲を刺激する? 活用が進んだ先は…

――生成AIの活用によって英語学習のあり方は今後どう変わっていくとお考えですか?

増田: AIを活用して気軽に英語が学べるようになることで、英語学習の裾野(すその)が広がると考えています。英語が話せない人がAIの助けがあることで会話できるようになる、英語を話すために必要だった準備や学習の期間がAI活用によって短縮できる、など効率も上がっていくでしょう。

英語を身につけたい人はもちろん、過去に英語学習をあきらめてしまった人など、AIをうまく取り入れることで話すことへのハードルが下がり、より会話の楽しみを得られやすくなるはずです。

また、一部でAI活用の加速で「DMM英会話」のようなサービスが衰退すると言われていますが、私たちはそうは考えていません。むしろ、AI活用で英語学習の裾野が広がるので、それによって英会話マーケット全体が盛り上がることを期待しています。

AIを使った英語学習は効率的ではありますが、味気なさは否めないので、AIを相手にトレーニングしていると「人と話したい」という欲がわいてきます。それが人間の性なので、どんなにAI活用が進んでも、生身の人間が相手の英会話学校や英会話サービスがなくなることはないと考えています。



春奈 はるな 和歌山出身、上智大学外国語学部英語学科卒。信念は「人生は自分でつくれる」。2度の会社員経験を経て、現在はフリーランスのライター・広報として活動中。旅行やECをはじめとした幅広いジャンルの記事を執筆している。旅をこよなく愛し、アジア・ヨーロッパを中心に渡航歴は約60ヵ国。特に「旧市街」や「歴史地区」とよばれる古い街並みに目がない。ブログ「トラベルホリック〜旅と仕事と人生と〜」も運営中。 この著者の記事一覧はこちら