【久坂部 羊】いるだけで妻のストレスになる「粗大ゴミ夫」「マンスプレイニング夫」…「定年後は妻とのんびり」と甘い夢を抱く高齢男性が知っておきたい「厳しい現実」

写真拡大 (全3枚)

日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。特に人生の後半、長生きをすればするほど、さまざまな困難が待ち受けています。

長生きとはすなわち老いることで、老いれば身体は弱り、能力は低下し、外見も衰えます。社会的にも経済的にも不遇になりがちで、病気の心配、介護の心配、さらには死の恐怖も迫ってきます。

そのため、最近ではうつ状態に陥る高齢者が増えており、せっかく長生きをしているのに、鬱々とした余生を送っている人が少なくありません。

実にもったいないことだと思います。

では、その状態を改善するには、どうすればいいのでしょうか。

医師・作家の久坂部羊さんが人生における「悩み」について解説します。

*本記事は、久坂部羊『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。

夫源病・帰宅拒否症

ある知人の夫婦は、夫が団塊の世代で、大手企業の取締役まで出世しましたが、夫婦仲は必ずしも良好ではありません。優秀な夫が、何かにつけ妻に自分と同じ努力を求めるからです。奥さんはそれを求めすぎと抵抗し、夫は努力せんヤツはダメ人間と批判します。奥さんはイライラして、「この人のせいでホンマ、気分悪いわ」と、会食の席などでよくこぼします。

夫の言動が原因で妻がストレスを感じ、心身に不調をきたす状態を「夫源病」というそうです。定年退職して、家にいる時間が増えた夫が引き起こすケースが多く、まさに中高年の終盤に当てはまります。イライラ、頭痛、吐き気、耳鳴り、血圧上昇に血糖値上昇、不眠や情緒不安定などが症状です。

夫が厳しすぎるだけでなく、妻の外出に「俺も行く」と同行したがる夫や、第二章で採り上げた「マンスプレイニング夫」、家でゴロゴロしていることが多い「粗大ゴミ夫」なども原因となるようです。夫がそばにいるだけでストレスになる妻もいるようで、定年後は妻とのんびりすごそうなどと、甘い夢を抱いている男性は要注意です。

精神の健康を阻害するのは夫ばかりではありません。家に居場所がなく、妻の冷たい態度や暴言、過干渉などで家に帰る気が起こらず、仕事が終わっても会社に居残っていたり、飲み屋のはしごでなかなか家に帰ろうとしなかったりする夫は、「帰宅拒否症」といわれます(女性の場合は、夫のいる家に帰るのがいやだという意味で夫源病とも考えられます)。

帰宅拒否症になると、ギリギリまで職場に居残った挙げ句、深夜喫茶で夜を明かしたり、カプセルホテルに泊まったり、ひどい場合は家出状態からホームレスになることもあるようです。

夫源病の妻も帰宅拒否症の夫も、結婚当初は互いに惹かれ合って結婚したはずです。いつからその関係が崩れるのか。ポイント・オブ・ノーリターンは気づかないうちに通り過ぎるのが怖いです。

さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6〜7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。

じつは「65歳以上高齢者」の「6〜7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」