iPhone 16 Plusのピンクと16のウルトラマリン(筆者撮影)

今年はスタンダードモデルの当たり年かもしれないと感じた。

ご存知、iPhoneには「スタンダードモデル」と「Pro」モデルがある。

今年もその点は変わらない。iPhone 16とiPhone 16 Plus、iPhone 16 ProとiPhone 16 Pro Maxのラインがあるわけだが、価格の問題もあり、多くの人はスタンダードモデルのほうが気になるのではないか。

現在、筆者の手元には全モデルの評価機があるが、今年は特に「スタンダードモデルの当たり年」という印象を持っている。

実機で確かめていこう。

Proとスタンダードの差が縮まった

前出のように、スタンダードモデルには「16」と「16 Plus」がある。両者の違いはほぼサイズだけと考えていい。iPhone 16のほうを中心に紹介するが、機能的な違いはほとんどない。



左がiPhone 16 Plus、右が16(筆者撮影)



iPhone 16(左)と16 Pro(右)を比較すると、画面の縁はProのほうが少し狭い(筆者撮影)

今回のiPhoneの特徴は、スタンダードモデルとProモデルの差が比較的小さくなったことだ。

アップルは過去、新機能・新しいユーザーインターフェイスを導入する際、Proモデルから先行導入する傾向にあった。2022年発売のiPhone 14世代では「ダイナミックアイランド」をiPhone 14 Proシリーズから導入し、2023年発売のiPhone 15世代では「アクションボタン」をiPhone 15 Proシリーズのみへ導入した。

全モデルに「カメラコントロール」を追加

今年も新しい操作体系として「カメラコントロール」が登場。しかし、Proシリーズだけではなく、iPhone 16シリーズでも採用されたのだ。


iPhone 16 Plusのカメラコントロールボタン(筆者撮影)

AIの推論処理を効率化する「Neural Engine」も強化されているが、スマホ性能の評価ツール「Geekbench」の測定結果を見ると、iPhone 16搭載の「A18」とiPhone 16 Pro搭載の「A18 Pro」で大きな差はない。また、メインメモリーの搭載量も同じ8GBだ(下図)。


Geekbench 6でのCPUベンチマーク。今年のモデルは赤枠内(筆者撮影)


Geekbench AIでAI推論処理をチェック。今年モデル(赤枠内)は、ほぼ同じ性能(筆者撮影)

GPUを含めたプロセッサーの性能自体はiPhone 16 Proのほうが優れているし、カメラ性能も違う。デザインの好みもあるだろう。そうした部分では今年も「Pro」を選ぶ理由はある。

だが、今年のiPhoneで新しくなった部分の多くはiPhone 16にも備わっているのは間違いなく、そういう意味で、例年以上にスタンダードモデルの価値が高いと言えそうだ。

iPhone 16の大きな変化は、本来はアップルのAI機能である「Apple Intelligence」にある。しかし現状、日本語は2025年から提供開始とされている。すなわち、現状では最大の価値がまだ使えないという話でもある。

Apple Intelligence自体はiPhone 15 Proシリーズでも利用可能であり、こちらでも機能・使い勝手に大きな違いはないという。

iPhone 16を選ぶならApple Intelligenceを意識しておくべきだが、iPhone 16自体に備わった機能自体を評価して選ぶべきかとも思う。

注目のUI「カメラコントロール」

そうなると、やはり目立つのは「カメラコントロール」の存在だ。


カメラコントロールでは右上のようなUIが表示される(筆者撮影)

カメラコントロールは、スマホのカメラアプリを呼び出し、シャッターを切るためのボタンだ。ただ、そうしたボタンを備えたスマホはほかにもある。

カメラコントロールは、より複雑な機能を備えているのだ。


カメラコントロールからさまざまな撮影コントロールが行える(筆者撮影)

単に“押す”ボタンではない。ボタンとして動く距離は小さく、「押し込んだ感覚」は振動とセットで、ある種の錯覚で表現されている。

カメラでお馴染み「半押し」(カメラコントロールではLight Pressなので「軽押し」に近い)や「ダブルタップ」、左右への「スライド」といった複数の機能を搭載している。

写真を撮るとき被写体に集中しやすいほうがいい。そのため、一眼カメラなどは操作系を「シャッター周り」に寄せている。

スマホは画面をタップして操作するのが基本だが、もう少し「被写体とシャッター」に集中する操作が望ましいとアップルは考えたのだろう。

タッチセンサーによる「スライド」操作があるので、一般的なシャッターボタンとはかなり操作感が異なる。なので、最初は正直、戸惑った。シャッターを切る分には問題ないのだが、メニューを切り替える「軽く2回タップする」操作にも、左右に滑らせる操作にも“慣れ”が必要だ。

だが、コツをつかむと戸惑いは無くなった。

ズームや露出変更などを行う場合には、指を左右に滑らせるのだが、「じわじわと動かす」操作と「サッと滑らせる」操作では意味するところが異なってくる。

サッと滑らせると一定のところまで動き、じわじわ動かすと細かく調整できるのだ。

例えばズームの場合だと、サッと滑らせると「0.5倍」「2倍」などの光学ズームが効くキリのいいところへ動き、その中間で止めたい時にはじわじわ動かす。タッチパッド的な操作ではなく、あくまで「スライド」だと思うと理解しやすい。

現状、一眼カメラなどでいう「半押しによるフォーカス・AEの固定」機能は搭載されていない。しかし、年内にはアップデートで搭載されるという。最初から欲しかった機能ではあるが、これが組み込まれるともっと使いやすくなりそうだ。

ただ、この「スライド操作」のため、注意したいことがある。それは、“保護ケース”選びだ。

iPhone 16用ケースの中にはカメラコントロール部に「穴を開けた」ものが多い。これでも操作はできるのだが、穴の形状によっては操作感が変わってくる。iPhone 16発売前から出荷されているものを2つほど購入して使ってみたが、「穴」だとちょっと使いづらいと感じた。


上の2つがサードパーティー製の、一番下がアップル製のiPhone 16 Pro Max用のケース(筆者撮影)

アップル純正のケースは穴をあけず、カメラコントロールの部分にサファイアグラスが埋め込まれていて、スライド操作をダイレクトに伝えるようになっている。こういう形式のもののほうがおすすめだ。

カメラのさらなる進化点

iPhoneには以前から写真の色味を変える「フォトグラフスタイル」という機能があるのだが、この機能が大幅に進化した。

これまでは撮影時に色味を変えるもので、撮影後の変更ができなかった。また、色味を細かくカスタマイズもできなかった。

新しいフォトグラフスタイルでは、色味を細かく自分で変更可能になっただけでなく、「色味を撮影後に自由に変える」ことも可能だ。要するに写真の色味を変えても、データ自体は変わらないわけだ。


フォトグラフスタイルでは色味の変更自由度が大きく上がった(筆者撮影)

また、動画についても、撮影後に「声の聞こえ方」「ノイズの聞こえ方」を変える「オーディオミックス」という機能が使えるようになった。マイクを装着して収録したように声だけを残したり、周囲の音を含め「自分の前から聞こえる」ように加工もできる。こちらも「非破壊編集」なので、いくらでも再修正が行える。ただ、加工すると声に人工的なノイズが乗ることも多いので、過信は禁物だ。


オーディオミックスの変更画面(筆者撮影)

「空間ビデオ」「空間フォト」も撮影可

カメラの配置が変わったため、映像を立体的に残す「空間ビデオ」「空間フォト」の撮影も可能になった。これも従来はiPhone 15 Proでしか撮影できなかった機能だ。


iPhone 16ではカメラが縦に並ぶようになったので空間ビデオ・空間フォトの撮影が可能に(筆者撮影)

立体で見るにはApple Vision Proのほか、XREAL Airなどのサングラス型ディスプレイといった周辺機器が必要になる。よってハードルも高いのだが、「思い出をリッチに残す」機能を備えた機器が身近になることはプラスと言える。

Apple Intelligenceが注目を集めているが、iPhone 16は意外なほど「カメラを楽しむ」機能が充実している。画質も向上しているのだが、それ以上に操作感の変化などが好ましい。


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(西田 宗千佳 : フリージャーナリスト)