神奈川県なら"みなとみらい線"が強い…「値上がり率」の算出でわかる"資産価値の上がりやすい駅"の名前
■「値上がり幅」が大きいのはどの駅か
今回のコラムは、どこの駅の値上がり幅が最も大きいかを調査した結果だ。その算定方法は、エリアは首都圏と近畿圏で、2001年以降に販売された新築物件全件を対象に、2022年以降に成約した住戸の新築時の価格との比較で、値上がり率を算出する。
「いつ買ったか?」で、値上がり率はかなり違う。直近の相場上昇は2013年の金融緩和に始まり、以降一貫して相場は上昇してきている。そのため、2013年の新築の値上がり幅が最も大きく、平均50%になる。この値上がり率は直近ほど経過期間が短いので、小さくなる傾向がある。
この傾向を排除するために、販売年の首都圏・近畿圏の平均値上がり率を引いて、その物件の超過値上がり率を算出する。つまり、その年の中では比較的値上がりした割合を「超過値上がり率」として、これを物件属性で平均して算出している。
まずは首都圏から見てみよう。値上がり幅が大きい駅は東京の中心部に集中する。原則は職住近接で、都心3区にオフィスの50%の床面積がある現実からの呪縛はリモートワークが盛んになっても変わらない。オフィスだけでなく、商業施設やエンターテイメント施設も同様に都心に集中するからだ。
■大規模再開発と新駅の効果は大きい
中でも値上がり幅が大きくなる駅は、街の変容の仕方に依存し、パターンがいくつかある。1つ目は、大規模再開発で麻布台ヒルズと直結になった六本木一丁目駅(83.7%※数字は超過値上がり率)と神谷町駅(39.5%)で、頭抜けて高い。神谷町駅が劣るのは、近くにお寺の墓地が多く、これを敬遠する人が多いため高値を追えないからだが、墓地が見えない物件なら大丈夫だ。
2つ目は、新駅である。代表例は高輪ゲートウエイ駅だが、物件が紐付いている駅はその周辺となる。品川駅(53.9%)、芝浦ふ頭(49.4%)、浜松町(46.6%)泉岳寺(36.1%)はどこも高い。これに1つ目の再開発が加わるので化けない理由がない。JRの駅直結の複合再開発は規模が大きいので、資産価値の上がり方も大きく、恵比寿ガーデンプレイスや品川グランドコモンズや汐留シオサイトなどと同等の効果が期待できる。浜松町(46.6%)でも同じことが言える。
新駅では、南北線・三田線・大江戸線の影響が大きかった。南北線・三田線は目黒駅までが2000年に開業、大江戸線も同年全線開業した。これの効果は、赤羽橋(45.2%)、麻布十番(41.5%)、東大前(40.0%)、清澄白河(35.2%)、白金台(33.6%)、白金高輪(33.4%)などになる。今やマンション供給の多い地域だが、24年前は陸の孤島だったのだから値上がり幅も大きくなる。
■「千代田区番町アドレス」の周辺駅はもれなく高くなる
3つ目はアドレスの良さだ。千代田区番町アドレスは都心の低層住宅地として随一だが、その周辺駅はもれなく高くなる。麹町(47.8%)、九段下(46.1%)、市ヶ谷(42.4%)、半蔵門(30.4%)、この4駅に囲まれた地域はファミリー人気が高く、公立小学校のレベルも段違いに高い。同じことが起きる駅では、表参道(37.8%)には南青山アドレスがあり、広尾(35.7%)には広尾と南麻布アドレスがある。
4つ目は湾岸エリアだ。それまで倉庫街だったようなところが住宅地として変貌するには、タワーマンションの圧倒的な眺望の効果無しには語ることができない。こうしたエリアは先住者が少ないことからのメリットも存在する。それが公立小学校の教育水準だ。分譲価格も家賃も都心に近いがゆえの高額な物件を買える比較的高年収な人ばかりが集まる特性から、中学受験に対する考え方や教育投資が同質化しやすい。結果的に、親の学歴と年収の高さが子どもの教育水準を規定することになる。豊洲(46.5%)、天王洲アイル(41.3%)、勝どき(39.2%)、東雲(38.3%)、辰巳(37.3%)がその代表格になる。
■山手線の外側1〜2駅は資産性が高い
5つ目は、駅近くにタワーが林立できるところだ。タワーは総じて資産性が高い。タワーとそれ以外の物件は毎年1.5%の資産性の差が生まれる。20年で平均3割も違うのだ。そんな駅は、飯田橋(52.8%)、東池袋(42.2%)、赤坂(37.1%)が代表的となる。
6つ目は山手線へのアクセスの良い住宅地である。総じて、資産性は山手線の内側の都心が高いが、山手線の外側に行っても1〜2駅のところは資産性が高い。山手線の駅は商業地が中心で住むには騒々しく、落ち着きが足らない。私鉄で外側に行き過ぎると資産性がどんどん落ちていく。その間の山手線から1〜2駅なら、アクセスが良い住宅地となり、資産性も落ちない。そんな駅は、南新宿(45.1%)、代官山(40.4%)、不動前(37.2%)、中目黒(30.0%)、幡ヶ谷(30.4%)などだ。
■リゾート地で資産性があるのは軽井沢と葉山だけ
都区部には資産性が上がる理由にヴァリエーションがあるが、その他のエリアは1点集中型になりやすい。神奈川県では横浜駅周辺に集中する。特にみなとみらい線の新高島(90.0%)、みなとみらい(78.0%)、馬車道(28.7%)、日本大通り(25.7%)が高く、横浜の1駅前の京急線の神奈川(34.6%)、京浜東北線の東神奈川(27.5%)の海側が強い。根岸線も桜木町(29.2%)、関内(24.7%)、石川町(21.7%)までが20%を超える。例外は、逗子・葉山駅(29.7%)で、私が知る限りリゾート地で資産性があるのは誰もが羨む立地の軽井沢と葉山だけだ。
埼玉県では20%を超える駅はなく、最高で浦和(11.1%)となる。千葉県で10%を超えるのは、保育園の送迎ステーションがある流山おおたかの森(17.2%)で、ファミリー世帯の人気が突出している。南船橋(12.1%)は大型商業施設ららぽーとがあり、生活利便性が高い。その意味で、京葉線新駅の「幕張豊砂駅」(23年3月18日開業)は今後期待できることになる。
都下では、吉祥寺(12.4%)だけだが、駅前の商業施設の多さと井の頭公園があるために住宅地は駅から遠く、物件数は少ないのが玉にキズだ。
■近畿圏では「京都市中京区」のエリアが強い
近畿圏にも資産性がある駅は多い。特に集中するエリアは京都市中京区で、京都河原町(69.5%)、京都市役所前(55.8%)、四条(46.4%)、烏丸御池(33.7%)、二条城前(29.2%)などがトップランクになる。ここから京都駅寄りに、五条(32.0%)があり、これと並行して京阪線の清水五条(21.8%)、神宮丸太町(29.8%)、東西線の東山(58.6%)も高い。
例外は京都駅の南側で唯一入った東海道線の長岡京(21.8%)だが、物件数は多くはない。京都市は高さ規制のため、タワーは立たない。そんな中でこの資産性は立地が良ければセカンドハウスとしても欲しい人が全国にたくさんいる証拠である。
■「高さ規制」は街の成長を止め人口吸引力を失う
大阪市の中心部も資産性は高い。その中心はやはり梅田(39.0%)だ。御堂筋線なら、新大阪方面の中津(28.7%)でもいいし、谷町線の中崎町(30.4%)、天神橋筋六丁目(20.5%)でもいい。四つ橋線で肥後橋(33.8%)、西大橋(31.7%)からなんば(33.3%)に南下してもいい。堺筋線では、北浜(26.5%)に物件が多い。この他、大阪環状線で、福島(29.5%)、野田(25.1%)、森ノ宮(21.0%)が20%を超える。こうした駅で、駅近のタワー物件なら固い投資ということになる。
兵庫県では、1位は芦屋(30.8%)、2位はみなと元町(26.2%)、3位が西宮北口(20.0%)となる。神戸市も高さ規制がかけられるようになっている。マンションの資産性としては期待しにくい都市となったということだ。高さ規制は既存住民には聞こえはいいが、街の成長を止めるだけで、人口を吸引する力を失ってしまう。街は現状にこだわるか、未来志向になるかで発展性が決まると言っても過言ではない。東京で同様のことをしたのは世田谷区だが、今後の急速な高齢化を憂うことになろう。
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沖 有人(おき・ゆうじん)
スタイルアクト代表
1988年、慶應義塾大学経済学部卒業後、監査法人系・不動産系のコンサルティング会社を経て、1998年に現スタイルアクトを設立。住宅分野において、マーケティング・統計・ITの3分野を統合し、日本最大級の不動産ビッグデータを駆使した調査・コンサルティング・事業構築を得意としている。設立当初から運営している分譲マンション価格情報サイト「住まいサーフィン」(https://www.sumai-surfin.com/)の会員数は、現在30万人を超える。中でも、自宅投資の基礎などを沖自ら解説している「沖レク動画」は人気コンテンツとなっている。『マンションは10年で買い替えなさい』(朝日新書)、『タワーマンション節税! 相続対策は東京の不動産でやりなさい』(朝日新書)など著書多数。
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(スタイルアクト代表 沖 有人)