新日本ビルサービスで働く技能実習生1期生となるマーマートェーさん(中)(写真・新日本ビルサービス提供)

16カ国、計180人の外国人が働いている会社があります。社名は新日本ビルサービス。埼玉を中心に千葉や東京、神奈川にて、ビルメンテナンス・商業施設運営代行・感染対策清掃などのファシリティ(清掃・設備・警備・修繕)に関する幅広いサービスを行う一方で、マルシェを通じた地域創生事業を行う会社です。

社員1475人のうち、外国人は180人。フィリピンからが最多で105人、次いでミャンマーの17人。ほかベトナム、ネパール、タイ、インドネシアなどと続きます。アジアだけでなく、アフリカや南米から30カ国以上の国籍の方々が働いていました。

10年ほど前までは、多くの中国人が在籍していました。中国人以外の外国籍の人々は、日本語能力が日常会話程度にも満たず、とくに客室清掃の際に日本語力が必要になることから、語学が弱い外国人は採用されていませんでした。

留学生を採用していたが…

しかし、2015年頃からホテルの客室清掃業務の人員不足が深刻化し、外国人の採用を模索せざるをえませんでした。そうしているうちに、英語が話せる日本人社員や日本語と英語が話せる海外人材を活用することで、日本語が話せなくても英語ができれば仕事が可能な体制を構築したところ、ベトナム人留学生や英語教師の配偶者であるフィリピン人など、多くのアルバイト生を採用することができるようになりました。

ところが、これらのアルバイト留学生は、当初は日本語が話せなかったものの、日本での滞在期間が長くなるにつれて日本語能力が向上していきます。日本語が上達すると、コンビニエンスストアや飲食店など、雇用条件のよい職への転職が増えていきました。

また転職しない場合でも、留学生特有の身軽さから遅刻や無断欠勤が増加し、人員計画が立てにくくなってきました。さらに、留学生をアルバイトとして雇用する場合、労働時間は原則として週28時間を超えると違反となります。

違反した場合は、留学生だけでなく雇用した事業者側も罰則を受ける可能性があります。それらを踏まえて社内で検討した結果、2017年頃から技能実習生の採用を始めました。

現場の責任者である新日本ビルサービス東京営業部の山岸弘忠部長は、「国籍が違うからと、外国人の従業員に対して不都合は感じたことはありません。さらに言えば、この国籍の人とこの国籍の相性が悪い、または仲が良いとか、どの国の人が向いているということもない。それは個人の個性によるものです」。

また「もちろん、国によって大きな特性はあります。例えば、中国人は金銭に敏感でスピードを重視し効率を上げる一方で、フィリピン人はスピードはないが仕事が丁寧です。国ごとに派閥ができるわけでもありません」とみています。

日本人との違い

ただし、日本人と外国人の違いを感じる場面は何度かあるそうです。


ミャンマー人技能実習生7期生と関根一成社長(右端)、山岸弘忠部長(左から5人目、写真・新日本ビルサービス)

例えば、シティホテルの清掃業務では、ゴミ箱に捨てられたものを持ち帰る例はよく見られます。これは忘れ物ではなく意図的に捨てられたものですが「捨てるのはもったいない」と考える外国人は多いようです。

また、仕事終わりに待合室で飲酒するケースもあり、日本人であれば職場ではなく別の場所に移動してから飲むのが一般的であるので、その行動には驚かされたそうです。

一方で、外国人従業員は仕事に関して協力的な部分も多く、例えば残業を喜んで行い、お金を稼ぐことに積極的であり、日本人が嫌がる仕事でも割り切って取り組むため、とても助かっているそうです。

「ビルメンテナンス情報年鑑2023」によると、一般清掃業務で最も多い年齢層は60歳以上で、全体のほぼ半数となる46.7%を占めます。今後、日本人の採用が厳しくなることはあっても逆になることは考えにくい。そのため、外国人の比率はますます上がると予想されます。

業界内ではデジタル変革(DX)も進んでおり、ロボットによる自動清掃が増えています。新日本ビルサービス社は、ビルメンテナンス業界の中でもトップクラスのDX化を進めており、100台以上のロボット掃除機が20以上の現場で活躍しています。

しかし、高級ホテルのベッドメイクやトイレ清掃など、どうしても機械では代用できない作業も残っています。そのため、日本人従業員の確保が厳しくもあり、今後もますます外国人に頼らざるをえない状況になっています。

新日本ビルサービスの関根一成社長は、「DX化と外国人材が将来に向けての重要なポイントになる」と指摘します。

「仕事を受けて持続可能な現場運営を実現するためには、人材確保が重要でとくに外国人(グローバル人材)比率を上げることが不可欠です。

それには日本人と同等の待遇を提供するのはもちろん、外国人に選ばれ、定着する会社であることが大切です。そのカギとなるのは外国人管理者の育成であり、グローバル人材の夢に応えられる会社であることです」と断言します。

外国人が成長を実感できる環境づくり

 すなわち、できるだけ母国語でもコミュニケーションを取れるようにし、グローバル人材が働きやすく、成長を実感できる環境を整えることが重要だと判断しています。


ミャンマーから技能実習生として来日したサベイウーさん。現在は就労ビザを取得し、60名が働く現場の副所長として働く(写真・新日本ビルサービス提供)

そういった取り組みを続けてきたため、当社では外国人材も育ってきています。

2018年にミャンマーから技能実習生として来日したサベイウーさんは、3年間の技能実習を終え、2021年に特定技能に切り替え、2024年には技術・人文知識・国際業務の就労ビザに切り替えました。現在、60名が働く現場の副所長として、日本人従業員への指導や仕事の割り当てを行いながら総合的な業務管理を担当し、着実にキャリアをアップさせています。

彼女は2017年にミャンマーで日本語学習を「あいうえお」からスタートし、日常的場面で使用される日本語をある程度理解する能力があるという日本語能力試験N3レベルの日本語力で2018年に来日しました。

来日後も働きながら日本語学習を継続し、2023年には日本人でも合格が容易ではないとされる日本語能力試験N1を取得しました。来日当初から同僚からの評価も非常に高く、人一倍責任感を持って仕事に取り組んでいたそうです。

また顧客からも頼りにされており、コロナ禍で現場の業務依頼が減少する中、「彼女らの日頃の努力と笑顔に救われた」とのクライアント側の評価が高く、コロナ中も彼女の現場では、仕事の依頼が継続されていました。

サベイウーさんは、就労ビザを手配してくれた行政書士に個人的に日本語で手書きのお礼状を送りました。その内容は便箋に日本語でびっしりと3枚にわたり、就労ビザの手配をしてくれたお礼だけでなく、これからの自分の人生に向けての覚悟が綴られていたそうです。

サベイウーさんと一緒に来日したミャンマーからの技能実習生1期生であるマーマートェーさんは2023年、社員やクライアントが集まるパーティーで流暢な日本語で発表し、来場者らを驚かせました。彼女も技能実習生から特定技能に切り替えて活躍しており、現在は現場の所長を務めています。

また、2期生となるナンゲービーさんは都内のホテル現場の所長代理です。彼女たちを含め、これまでミャンマーから来日した技能実習生のうち10人が特定技能に切り替えて活躍しています。


技能実習生2期生でミャンマーから来たナンゲービーさん(写真・新日本ビルサービス提供)

これまで当社では、フィリピン人、ベトナム人、ネパール人らも正社員として登用されている人材がいます。

日本では、技術・人文知識・国際業務などの就労ビザを持つ外国人は「優秀な人材」、特定技能ビザを持つ外国人は「その専門分野の技術を持っている」と自動的に見なされがちです。

一方で、技能実習生は「日本語が不十分で問題を起しやすい」というイメージが一般的です。しかし、これらの区分はあくまでビザの種類に過ぎず、実際の人材の質の指標ではありません。

個人の資質は日本語だけではない

これまで留学生ら多くの外国人と接してきた、前出の山岸弘忠部長は「個人の資質はあくまで人材・個人次第」と述べています。

技能実習生は制度上、決められた現場で基本的な作業を行うことが中心で、企業側にとっては利用が限定的かもしれません。しかし、人材によっては基礎を学び企業を理解できるという機会があり、一部批判もあるものの、企業としては安定した人材を3年間は確保できます。

一方で、特定技能者はさまざまな現場での作業や管理職への登用が可能で、適材適所への配置が行えますが、よい待遇や仕事環境を求めて他業種や企業への転職が可能です。そのため、「地方や中小企業、人気のない職種には不利」とも言われています。

前出のサベイウーさんのように、優秀な技能実習生を採用して基礎から管理者へと育て上げる取り組みは、技能実習制度と特定技能制度の両方を活用した理想的な外国人材の活用例と言えます。

これまで技能実習制度としての活用は最大5年間に限られ、育てた人材が活躍できるようになっても帰国しなければならないという制約がありました。しかし、2019年4月に新設された特定技能制度では、技能実習生として3年間を修了すれば、同じ職種であれば特定技能生へとビザの資格切り替えが可能で、5年間の就労が認められます。

基準を満たせばさらに5年の延長も可能です。日本政府の方針も、昨今の人手不足の中で優秀な外国人には長く日本に滞在してもらう方針に変わってきています。

優秀な外国人材は、同じ仕事をやり続けるよりも、キャリアアップの機会がある企業を求めるのが一般的です。

技能実習生からキャリアアップした先輩がいると、技能実習生らは単に基礎的な仕事をするだけでなく、将来的に管理者となる道があることを知り、仕事に対するモチベーションが高まり、さらなる成長を目指し、長く働くことを希望することにつながります。

また、キャリアアップの可能性があることは、新たに外国人材を採用する際にも魅力となり、より優秀な人材がその企業に応募してくるようになります。そういった機会がある環境は、企業と外国人、双方にメリットがある仕組みとなりえます。
 
ただ、こういった現実もあります。現場仕事を技能実習生に任せ、その管理を日本語も堪能な同じ国籍の高度人材に委ねるという考えを持つ企業も少なくありません。しかし、世界に比べれば身分格差が小さいと言われる日本社会と比べて、海外では日本人には理解しにくい身分差別が多く存在します。

例えばミャンマーでは、大卒と高卒以下の間、さらに同じ大卒でも工科大学卒と総合大学卒との間に顕著な身分差があります。高度人材のビザを持つミャンマー人と技能実習生のビザを持つミャンマー人の間には、一緒に食事をしないといった社会的距離を示すケースもしばしば見られるほどです。

高度人材が技能実習生を見下すような上から目線の態度をとることもあります。このような身分格差は、本来の目的である「管理」に必ずしも適していないことが少なくありません。

また、転職が自由な高度人材は優秀なほど引き手が多く、多くがお金を稼ぎに来日していることもあり、企業への思い入れが薄い場合、待遇を優先する傾向があり、とくに都会や大企業への志向が強まることが見られています。

叩き上げ人材を育てること

こうした点も考えると、技能実習生から叩き上げで育った人材は、転職が自由なビザを取得した後でも、自らの意思で企業を選ぶなど帰属意識が高いため、組織の中核を担う人材となりえます。

企業にとって、技能実習生から管理者までの道のりは遠く感じるかもしれません。しかし、これこそ一番の近道ではないかとも感じます。

ここまで外国人採用について書いてきましたが、日本人に選ばれ、定着する会社、そして日本人の管理者を育成には一定の時間とコストがかかるのは、実は外国人も日本人も同じことなのではないでしょうか。

(西垣 充 : ジェイサット(J-SAT)代表)