世界最大の輸送機として知られたアントノフAn-225「ムリヤ」。いま、これを上回る規模の輸送機を、アメリカの航空宇宙企業が開発中です。用途は民用ですが、軍事物資の輸送に応用することも視野に入れています。

風力発電タービンブレードの輸送用として

 世界最大の輸送機といえば、アントノフAn-225「ムリヤ」が知られています。もともと旧ソ連の再使用型宇宙往還機「ブラン」運搬用に設計され、1機のみ完成して1988(昭和63)年12月21日に初飛行しました。ペイロード(積載可能な重量)最大250tは他の追随を許さない能力でした。


世界最大の輸送機だったアントノフAn-225「ムリヤ」(画像:Transport Pixels[CC BY-SA])。

 2011(平成23)年3月の東日本大震災発災時には、救援物資や福島第一原発事故に対応するコンクリートポンプ車を輸送してくるなど日本にも縁のある飛行機でした。しかし、2022年2月にロシア軍の攻撃で破壊されてしまいました。現在運用されている最大の輸送機は、An-225のベースともなったAn-124「ルスラン」です。

 ところが2024年現在、An-124やAn-225よりも大きな輸送機が開発されています。それがアメリカのコロラド州に拠点を置く航空宇宙企業「ラディア」が開発中の「ウィンドランナー」です。

 この輸送機は全長108mという規模で、An-225の全長84mを超えて世界最長の輸送機になります。An-225は宇宙機「ブラン」輸送用でしたが、「ウィンドランナー」は風力発電タービンブレード輸送用に設計されています。

 ラディアは陸上風力発電システム事業を行っており、約100mのタービンブレードを持つ高効率の風力発電システム「ギガウィンド」を開発しています。大型のタービンブレードは分解できず、通常輸送インフラでの輸送は非常に困難です。そこで専用輸送機を開発したというわけです。

F-16戦闘機を6機も積める!?

 ギガウィンドのコンセプトは風力発電所に滑走路を併設し、ラディアのサプライチェーンを「ウィンドランナー」による空路で直接結ぼうというもの。「ウィンドランナー」の最大の特徴は積載容量です。7702立方メートルという容積は、An-225の1300立方メートル、An-124の1160立方メートル、さらにはボーイング747-400の610立方メートルを大幅に上回っています。

 ただし、ペイロードに関しては72.57tであり、An-124の150tより劣ります。これは、風力発電用のタービンブレードが非常に大きいにもかかわらず、軽量な物体であることが影響しています。

 ラディアはこの輸送機を設計するにあたり、重量ではなく「容積の移動」を重視するとの新たな視点を打ち出しました。このアプローチによって、従来の重量物輸送機との差別化を図ることができるとしています。


長さ100mの風力発電用ブレードがすっぽり収まる。「ウィンドランナー」とは風力発電システムを支えるという意味がある(画像:ラディア)。

 さらに、ラディアはこの輸送機の軍事用途にも目を向けています。現在、軍用の大型輸送機の新規生産は滞っているため、「ウィンドランナー」の容量を活かし、軍事物資の輸送にも応用できると目論んでいるのです。

「ウィンドランナー」の貨物室は、最大6機のF-16戦闘機を一度に輸送できる能力があります。つまり4機の「ウィンドランナー」で1個飛行隊分の機体を移動させられるのです。An-225はF-16を4機積載することができましたが、主翼と尾翼を取り外す必要がありました。「ウィンドランナー」ならば分解する必要はありませんので、輸送効率の向上とコスト削減が期待されます。

翼幅がA380よりも小さいのはなぜ?

「ウィンドランナー」はその全長にもかかわらず、翼幅はエアバスA380よりもわずかに小さい80mに設計されています。そのため、多くの既存空港や格納庫を利用でき、新たなインフラ整備の必要がないことも利点とされています。

 さらに、最小滑走路長は1800mと比較的短く、簡易舗装滑走路でも使えます。これは風力発電所に付属する簡易的な空港設備で運用することを念頭に置いているからです。

 しかし、アメリカ大陸での風力発電ブレード輸送に特化した設計のため、最大航続距離は2000kmしかありません。An-124が1万5000km、短いといわれた日本のC-1でも最大2400kmあります。機体の容量から燃料タンクの増設は可能でしょうが、その分のペイロードは減ってしまうというジレンマがあります。

 また軍用輸送機としては戦車のような「密度の高い」装備品の輸送には向きません。アメリカ陸軍のM1A2主力戦車は全長9.83m、全幅3.7mですが、重さは約70tあるので1両しか載せられません。全長が半分の53mである、アメリカ空軍のC-17輸送機と同じです。


既存大型輸送機との比較。左が「ウィンドランナー」、中がAn-124、右がB-747-400。機首貨物扉開口部も際立って広い(画像:ラディア)。

 こうして見ると一長一短な「ウィンドランナー」ですが、初めは宇宙機輸送用だったAn-225も日本を含む世界中で活躍し、戦火で破壊されると惜しむ声が多く上がりました。ちなみに愛称「ムリヤ」はウクライナ語で「ドリーム、夢、希望」を意味します。

 ラディアは、現在の大型貨物輸送機の不足を背景に、軍事部門や商業部門においても需要があると見込んでいます。重量ではなく容積の移動を重視するという新たなアプローチは、今後の物流市場や軍事輸送の形を変える可能性を秘めているかもしれません。