メ〜テレのスタジオで、YouTube10万人チャンネル登録者の銀の盾と「メモ少年」と呼ばれるきっかけとなったノートを手にする篠田直哉プロデューサー 撮影:池松潤

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「メモ少年」を知っていますか? 小学生時代にロバートのおっかけを始め、共に仕事がしたいとテレビ局に就職、夢を実現させ、人気コンテンツを作って世に出し続けている篠田直哉さん。彼についてのインタビュー記事を検索すると「ロバートの追っかけ/熱狂ファン」という文字が並びますが、仕事については書かれていません。メモ少年こと篠田P(プロデューサー)がYouTubeで1,000万回再生を達成する力の源泉に焦点をあてて、彼の魅力をひもときたいと思います。

【写真】社長賞をもらう篠田P

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◆1分でわかる「メモ少年」篠田直哉P・プロフィール

1996年大阪府生まれ。小学生の頃からお笑いグループ・ロバートの熱狂的なファンで、ライブでメモを取り続けたことから「メモ少年」と呼ばれるようになる。より近づくために東京の法政大学に進み、学園祭の実行委員として3,000人以上を動員するロバートの学園祭ライブを成功させる。その後、メ〜テレ(名古屋テレビ放送)に入社し、念願のロバート・秋山氏との番組制作やメ〜テレ60周年記念番組『秋山歌謡祭』を実現。テレビ番組『激レアさんを連れてきた。』に出演したことがきっかけで、書籍『ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。〜メモ少年〜』を出版。さらに『秋山歌謡祭2024』で社長賞を受賞した。

秋元康や女優・杏も注目するZ世代のコンテンツ・クリエイターとして活躍中。テレビ局の公式SNSアカウントは番組名で発信されるのが一般的だが、メ〜テレは「メモ少年」名義でYouTubeチャンネルを展開。1,000万回再生を達成している。現在、メ〜テレ(名古屋テレビ放送)コンテンツビジネス局 副主事。28歳、独身。


メモ少年の年表 作成:池松潤

「篠田P」が『激レアさん』を経て『秋山歌謡祭』までに変化したこと

池松:注目されることも多くなって、息苦しくなってきませんか?

篠田:大丈夫ですよ。

池松:自身が登場するコンテンツがYouTubeで1000万回以上再生されているだけでなく、『激レアさんを連れてきた。』や『秋山歌謡祭』などのテレビ番組にも出演されています。私もアプリに「メモ少年」を用語登録し、Xのタイムラインをウォッチしていますが、流れてくるコメントには好意的なものが多いです。ただ、いわゆるサブツイート※のような、表には見えない形で面倒なコメントが寄せられることもあるのでは?

※サブツイート:相手の名前やアカウントに直接リプライせずに批判や誹謗中傷を行うツイートのこと。一見、誰に向けたものか分かりにくいが、特定の人には意図が伝わるステルス性のあるツイートを指す。

篠田:「お店で見ました!」というSNSでのポストなどは増えましたね。会社のみんなでご飯を食べに行ったのを発見されたり、問題があるようなシチュエーションはないので、今のところ問題は無いです。

池松:そうかぁ。少しは「クズな」スクープ事件を起こしてほしいです。(笑)

篠田:いやいや(笑)、有名になりたいとか無いので。でも期待値が、想像以上に上がってしまうのも問題ですね。

池松:篠田さんがSNSを始めたきっかけは、ロバート・博さんが唯一Twitter(現・X)を利用しており、連絡をとるためですね。博さんへのリプライのみOKという親の許可を得て、小学校5年生の10歳からTwitterを使い始め、受験や進路などを報告していたとのこと。現在では、会社のアカウントでYouTubeを運用する一方、個人としてもX、Instagram、TikTokなど様々なSNSを使いこなしている。オープンでフラットな感覚を大切にする「SNSネイティブ世代」と言えるでしょう。


撮影:編集部

「顔出し・名前出し・人生を晒してる」唯一のテレビ局員

池松:「上がってしまった期待値」を意図的に下げるのは、難しいのではないでしょうか? 世間はいい人ばかりではないし、匿名ゆえにSNSにはさまざまなコメントが飛び交うでしょうから。

篠田:もともと僕自身「追っかけ」や「ストーカー」といった低い位置からスタートしたのですが、「実はそんなに悪い奴じゃないんだな」と思われたのか、期待値は上がる一方でした。そもそも、皆さんの期待値を超えるような人間ではありません。ですから「上がりすぎた好感度を下げる」方法については、現時点で思いつきませんね。

池松:YouTubeチャンネルだけでなく、テレビ番組にも出演し、自らの名前や過去の人生までも公にしている。そうしたテレビ局員は、現在では篠田さんだけです。テレビとYouTubeの両方で成功している方々※は、すでにテレビ局を離れています。しかし、篠田さんの行動力と仕事に対する真摯な姿勢が、多くの人々から高く評価されているのは事実であり、それが現在の活躍につながっているのでしょう。

元テレビ東京の佐久間宣行さんや高橋弘樹さんたちは、テレビでもYouTubeでも大ヒットコンテンツを作った後、円満退社してフリーになり「顔出し・名前出し」して個人としての活動を続け成功していますね。テレビとYouTubeの両方で成功した後に「会社員としてのキャリアプラン」を描くことがいかに難しいかが伺えます。

T.M.Revolutionの西川貴教さんは『秋山歌謡祭2024』に番組ゲストとして出演し、その後自身のイベント『イナズマロックフェス※』に篠田さんとロバートの秋山さんを『秋山歌謡祭』として招待している。これは単なるYouTuberとのコラボを超えた、『秋山歌謡祭2024』の番組出演に対するアーティストとしての「愛ある返礼」と言えるのではないでしょうか。

※「イナズマロックフェス」:滋賀県初の大型野外フェスで今年で15年目を迎える。滋賀ふるさと観光大使でもある西川貴教さんが主催し毎年9月ごろ開催されるイベント。https://inazumarock.com/2024/

篠田:本当にありがたいです。先日、別のイベントで西川さんにお会いしたとき、「秋山歌謡祭として出てもらいたいから、よろしくね」と直接お声がけいただいて、すごく嬉しかったです。ものすごく愛を感じました。

池松:でも、そうするとますます有名になって、遠い存在になってしまうのではないですか?

篠田:そういう対象ではないので、もし自著※をテレビ局に持ってきて頂いたら、サインして感謝の気持ちを伝えたいと思っています。


※「ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。〜メモ少年〜」(東京ニュース通信社)2022年6月25日発売

そもそも根本的には、出たくないタイプ。

池松:そんなに表に出ていると、周りから「出たがり」って言われたりしませんか?

篠田:ありますね。「出たがり」と思われているという認識はあります。

池松:僕は篠田さんが本来そういうタイプではないと感じているのですが、どのように説明しているのですか?

篠田:「陰キャ」というか、暗いタイプだったので、『表に出ることで社内で企画が通りやすくなったり、番組のPRがしやすくなるので出るようになりました』と説明しています。これがどれだけ説得力があるか分かりませんが、「本当は出たくない」という気持ちを、社内にはまだきちんと伝えられていないのかもしれません。

池松:「スキ!」を仕事にするためには、「本当の自分」と「本意ではない自分」の両方が必要で、この葛藤は、多くのビジネスパーソンが抱える共通の課題ではないかと思います。ここで特筆すべきは、篠田さんが「何者かになりたい」という承認欲求に駆られているわけではないという点です。篠田さんは「SNSで自分を語り、認知度を高めたい」と考える人とは一線を画しています。だからこそ、今回の対談インタビューを実現したいと思ったのです。


仕事場で 撮影:池松潤

篠田Pの「スキ!になれる能力」

池松:篠田さんは「テレビの番組をつくる人」なので「コンテンツを作る難しさ」について聞きたいと思います。社歴が6年になりますが、中堅の若手から見てどうですか?テレビって。

篠田:テレビって、どこかに言い訳できる構造があるのではないかと感じます。例えば、良い番組内容だったけど視聴率はイマイチだったとか、裏の番組の視聴率が良かったからとか。いろんな状況があるのですが、言い訳がしやすいのではないかと。たとえば局内では「番組を作る部署(制作)」と「番組を宣伝する部署(宣伝)」「番組のスケジュールを決める部署(編成)」などが分かれて存在しています。これは、どのテレビ局も同じだと思いますが、組織で分業しているゆえに、テレビの現場って言い訳しやすい構造なのかもしれません。

池松:なるほど。むかしはYouTubeやSNSが無かったからで、情報発信できるのはテレビ局やマスコミしか無いのですからね。SNSネイティブだと、仕事の仕方も変わりますね。

篠田:そうかもしれません。それに、そもそも僕は「演者(タレントさん)にフォーカスをあてた番組」を作るのがスキなのです。

池松:『秋山歌謡祭』はそのものですね。

篠田:新人研修でも同じような話しをしているのですが「演者(タレントさん)ファーストの番組作り」を大事にしています。

池松:ちなみにそれは「なに愛?」なのでしょうか?

篠田:そうですね。「演者への愛」かもしれません。やはり、演者(タレントさん)はコンテンツの最終的な見え方や責任を負っています。たとえば、『秋山歌謡祭』なら、ロバート・秋山さんがそれを担っています。しかし、その企画を最初に持ち込んだのは自分ですから、「それはおまえの企画だろ」ということなのです。だから、私もその責任をきちんと背負わなければならない。だからこそ、出演するタレントさんへの愛が何よりも重要だと考えています。

池松:さらに深堀りすると、その愛は仕事論的には「なに愛?」になるのでしょうか?

篠田:そうですね。「コンテンツ愛」かもしれません。

池松:しっくりきました!話している瞬間、今日一番のイイ顔をしていましたね。(笑)

篠田:自分が作った番組やYouTubeコンテンツがもし失敗したら自分の責任ですし、それを「××さんがダメだったから上手くいかなかった」とは言いたくないのです。だから、自分が担当する番組に関しては、出演する演者(タレントさん)や、ゲストのことを1回とことん「スキ!」になって調べます。

池松:その向き合い方は、すごく素敵です。

本を出し、社長賞まで取った篠田Pの「コンテンツ愛」とは

池松:「制作」と「番組の宣伝」は「別物」と考えられることが多いですが、この認識は実際の状況に合わなくなってきていると思います。しかし商習慣が変わらなければ時代にあったコンテンツを生み出し続けるのは難しくないでしょうか?しかし多くのビジネスの場においても、環境の構造変化が認識されていないことが少なくありません。テレビ業界も同様の課題を抱えているのではないでしょうか?

篠田:それは…具体的にはどういったことでしょうか。

池松:篠田さんは、まるで英語のネイティブスピーカーが自然に言語を使いこなすように、SNSでの発信方法を理解していると感じます。そのため「テレビ番組を作ること」と「YouTubeコンテンツを作ること」の両方を違和感なく行えている。しかし組織構造や働き方はそう簡単に変わらないものです。そこでお伺いしたいのですが、SNSに慣れていない社内の方々に対して、この違いをどのように説明されているのでしょうか?

篠田:もうそれは「自分で全部つくる」※ しかないですね。これは会社員としてはダメかもしれませんが。

※番組制作から番組をPRするYouTubeやそのサムネイル(表紙の画像)までつくること。

池松:それですと、凄い作業量になりますし、現実的に大変だと思いますが。

篠田:先ほどお話ししましたが、テレビ局はどこも同じで「番組をつくる部署」と「番組のPRする部署」などが分かれていますから。

池松:しかし、例えば『秋山歌謡祭』を見ると、制作と番組の宣伝は切り離せないように思えます。「良い番組を作れば自然とバズる」という考え方は、昭和時代の『良い商品さえ作れば売れる』という古い製造業の思考と似ていますね。

篠田:もう少し説明を加えると、出演するタレントさんに対して『どこまで踏み込んでYouTubeコンテンツを作っても大丈夫か?』という判断は、実際に番組を制作している現場である僕たちが一番理解しています。そこを別の人に任せてしまうと、忖度してしまったり、内容が丸くなってしまう場合が起こりがちです。だからその2つは分けずに作った方が効率的だと思います。


撮影:池松潤

池松:なるほど。その大変さは「作業量」だけでなく、仕事の内容や本質が変わっていることを意味するのではないでしょうか?

篠田:例えば『ネット記事でどう取り上げてもらうか?』という視点から逆算する必要があります。『YouTube視聴回数をどう増やすか?』や『SNSでバズらせるにはどうするか?』、そのために『番組収録時にどんな写真や映像を押さえておくべきか?』といったように全体の流れは繋がっています。だから、すべてを出口から逆算して考える必要があるのです。不必要なものは容赦なく削り、収録を大胆に調整しても必要な素材を確保する必要があります。流動的な状況に合わせて柔軟な対処が必要です。これを一貫して実践できるテレビ局は、ほとんど無いのが現状ではないでしょうか。

池松:なるほど。それは篠田さんのバリューですね。しかし「オレYouTubeわかんないから番組宣伝用に作っておいてよ」なんて、その部分だけを切り離して仕事を振られても困りますよね。テレビ番組の素材からYouTube用のコンテンツをただ切り出しても、「バズるコンテンツ」にはなりません。番組の目的に応じて、YouTubeコンテンツとして効果的な映像や写真などの「素材」が何かを逆算して、番組を収録する必要がありますね。

篠田:ええ、そうです。そこだけ仕事を切り出されても難しいですね。そのようなことは1回しかありませんでしたが、台本の段階からYouTubeのサムネイル作成まで一貫して取り組めるのが理想です。だからすべての番組で実現するのは現実的に難しいです。また、これはテレビ業界でよくあることなのですが、番組制作で手一杯になってしまい、「テレビ番組を作る」ことと「YouTubeコンテンツを作る」ことが分離してしまうため、結果として効果が出ないケースが多いように感じます。

池松:1人で全てを手がけるからこそ、物事が上手く進むし、どこまで踏み込んで良いかも自分でコントロールできる。だからこそ、タレントさんに対しても責任を持つことができるわけですね。

篠田:『秋山歌謡祭』を通して痛感しました。そうしなければコンテンツはバズりませんし、まず知ってもらえなければ、テレビ番組も見てもらえません。だからこそ、自分の手がける番組には、たくさんの熱量と時間を注いでいます。

池松:これは、シゴトを仕事として考えたらできません。しっかりした「コンテンツへの愛」が無ければできませんね。

テレビ局にはプロデューサーとディレクターが存在しますが、プロデューサーは、テレビ番組全体の統括責任者であり、予算管理や番組全体の演出をマネジメントする役割を担う。言わば、番組制作における最上位の責任者です。一方、ディレクターは、番組制作の現場で演出を担当し、美術や照明などの技術スタッフに具体的な指示を出す現場責任者。篠田さんはプロデューサーでありながら、ディレクターの役割も一部担当してるということですね。

さらに、従来のテレビ局では「番組を宣伝する部署(宣伝)」の仕事であるYouTubeコンテンツ制作も手掛けています。これは、SNSが存在しなかった時代から考えると、新しい時代のプロデューサー像と言えます。

そうでなければYouTube1000万回再生という数字は出ませんね。数字は嘘をつかない。すごいです。

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※サムネイル

動画の内容を1枚の画像で表現したもので、YouTubeホーム画面や関連動画、検索結果などに表示されます。サムネイルは、視聴者に動画の内容を瞬時に伝える役割を果たし、再生数に大きな影響を与える非常に重要な要素です。また、再生数や最後まで見たかを示す視聴完了率は、YouTube側に把握されており、これによりリコメンド(推奨)コンテンツとして表示される頻度も左右されます。そのためサムネイルの工夫は最も重要なものです。

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◆前編を振り返って

4月のある日、YouTubeショート動画に『秋山歌謡祭』がタイムラインに流れてきて、その魅力に引き込まれた私は、「メモ少年」とはどんな人なのだろう?という興味から、6月に東京から長崎まで足を運びました。実際にお会いした篠田さんは、想像以上にナイスガイだったのです。実は篠田さんにお会いするのは今回が2度目。クラウドファンディングのリターンとして行われた長崎総合科学大学でのメモ少年の講義に参加したのでした。あの日がなければこの企画は実現しなかったでしょう。改めて、松岡教授と講義企画の松岡様に感謝いたします。いやぁ長崎まで行って本当に良かったです。

今回の企画の鍵は、「メモ少年を最初に面接した方」へのインタビュー。この企画に賛同し協力してくださった広報・佐藤幸子様のお力添えがなければ、この記事は成立しませんでした。そして、今回の記事では「ロバート」についての話題は一切登場しません。HAF(ハード秋山ファン)の皆様には申し訳ありませんが、写真の中には『秋山歌謡祭2024』のミニPOPも写り込んでいますので、ぜひ探してみてください。さらに楽しくなるはずです。

後編では、メモ少年を採用した人事部長へのインタビューを通じて、彼の「知られざる魔法」に迫ります。どうぞお楽しみに!