尻尾を攻撃や自切で失っても再生できるトカゲや、手足が切断されても再生できるサンショウウオなど、一部の動物は欠損した体の一部を再生させることができます。四肢を再生させる仕組みはどのようなものか、なぜ人間はそのような再生ができないのかについて、YouTubeチャンネルのTED-Edがアニメーションで解説しています。

How do animals regrow their limbs? And why can't humans do it? - Jessica Whited - YouTube

高い再生能力を持つ生き物としては、「ウーパールーパー」として知られるメキシコサンショウウオが有名です。ウーパールーパーは手足を切断されても時間がたてば骨・関節・筋肉の配列までまったく元通りに再生されるという、驚異の再生能力を持っています。



ウーパールーパーは再生医療の鍵として研究対象になることも多いですが、メキシコでは開発による生息地の破壊や水質汚染などによって生息数が激減しています。そのため、ウーパールーパーが自力で数を増やせるように保護することが、再生医療の研究に重要なポイントとも言われています。

人間が手足を切断されても再生できるようになるには「ウーパールーパー」を救うことがカギとなる - GIGAZINE



by Ruben Undheim

ウーパールーパーの再生能力についてはわかっていないことも多くありますが、ハーバード大学で再生生物の研究をするジェシカ・ホワイトド氏によると、すべての脊椎動物が手足を形成するプロセスに理解の鍵があるそうです。例えば哺乳類は、肢芽と呼ばれる小さな突起状の手足の初期構造を、子宮の中で形成し始めます。この肢芽には、幹細胞から発生して体を構成する最終分化細胞へと分化する前駆細胞がたくさん詰まっており、そこから筋肉や軟骨、じん帯などを形成していきます。やがて小さな突起だったものは大きくなり、ふっくらとした赤ちゃんの手足になります。



オオサンショウウオの場合、同じようなことが成体でも起きています。オオサンショウウオが手を失った場合、周囲の皮膚細胞が傷の表面全体に素早く浸透し、「創傷表皮」と呼ばれる新しい層を作ります。創傷表皮が作られると、傷口から全身に信号が送信され、一部の細胞が現在位置している組織の特徴を失う脱分化を起こします。



隣接した細胞から脱分化した幹細胞が傷跡まで集められます。人間や多くの脊椎動物は、幹細胞を増殖させる能力を早期に共に失うため、仮に傷跡に集めることができたとしても、傷口をふさぐ程度の能力しかありません。一方で、オオサンショウウオは成体でも幹細胞を増殖させることができるため、傷口まで集めた幹細胞は元の組織に発展させるために十分な数になります。



また、過去の研究では、「四肢の再生において、人間にはないと思われる比較的数多くの遺伝子がウーパールーパーには見られる」ことも判明しています。これらの遺伝子を特定することで、再生能力をより深く理解して医療にも適用できる可能性が考えられています。

人は切断された四肢を再生する能力を覚醒させることができる、という可能性がウーパールーパーの研究から示されつつある - GIGAZINE



by Tambako The Jaguar

傷口まで集めた幹細胞は、「芽体」という新たな胚性細胞のグループになります。芽体の外見や構造は肢芽に近いですが、芽体は全身の細胞をリサイクルして形成しているという点が特徴的です。



傷口に集まった何千ものリサイクルした細胞は、筋肉や骨、皮、神経組織などの役割に分けられていきます。幹細胞がそれらの組織に変化していくことで、元の手足を再生できるという仕組みだと考えられています。



なぜオオサンショウウオの幹細胞は増殖能力が劣化しないのか、傷口の周囲から集められた細胞はどのように変化していくのか、再生段階の細胞はどうなっているのかなど、まだ研究では完全に理解されていません。そのため、四肢を再生させる前の細胞や、再生させている途中の細胞の変化などの研究が進んでいます。



また、細胞がどのようにして「この部分が欠損した」と理解して、元の手足を再現できる形で再成長のプロセスに入るのかというのも重要な謎であるそうです。一説では、芽体細胞は位置記憶の一種を持っており、「ここの細胞ならこれだけ必要」「ここの細胞はこれだけ成長させる」ということを識別できると考えられているとのこと。



再生プロセスの研究に重要なのは、オオサンショウウオだけではありません。鹿は皮膚の傷を再生できる能力は人間と変わりませんが、角は毎年生え替わり、立派な角を復活させます。また、トゲマウスの尻尾の皮膚は非常に剥がれやすい性質がありますが、剥がれた皮は短期間で再生します。人間も、皮膚が軽くえぐれてしまうような傷ならば、ほとんど元どおりになる治癒能力を持っています。動物固有の独特な生物学的メカニズムに基づく再生能力を理解する事で、医療や生物に関する研究が進むほか、近い再生能力を持つ共通の祖先の存在も発見される可能性が期待されています。