完封勝利に導いたJ1ジュビロ磐田GK川島永嗣「代表がやっているプレーが、うちのチームや日本サッカーの指針であるべき」と質の高い攻守で柏を撃破
[J1第30節柏レイソル0-2ジュビロ磐田、14日、千葉・三協フロンテア柏スタジアム]
磐田は2-0で柏に完封勝利し、公式戦20試合ぶりのクリーンシートを達成した。これまで苦戦が続いてきたサックスブルーのイレブンだったが、この日は正確にパスを紡ぐようにボールを保持しながら多彩な攻撃で残留争いのライバルを圧倒。まるで日本代表を彷彿させるような鮮やかな戦いを見せた。
日本代表、長谷部コーチに刺激を受けた守護神
中断期間のトレーニングを経て勝利した磐田。川島はその間に行われていた日本代表の試合を引き合いに出して、依然として降格圏に沈む磐田に高い目標設定を促した。
「代表がやっているプレーが、うちのチームや日本サッカーの指針であるべきだと思う。僕を含めて、代表のスピード感やデュエルを見た選手たちには、もっと高いレベルを目指してほしいです」とイレブンに呼びかけた。
中国代表戦に7-0、バーレーン戦には5-0とアジアでは敵なしのサムライブルーを指針に設定して戦った川島。この日は的確なコーチングで距離感を修正しながらイレブンを鼓舞。これまで見せることができなかった質の高い攻撃でサポーターを沸かせた。
今回からサムライブルーに入閣した長谷部誠コーチ(ドイツ1部フランクフルトのセカンドチームコーチ)とは長年日の丸を背負ってともに戦ってきた。長谷部のコーチ就任もモチベーションの向上につながったという。
「(長谷部の存在は)刺激にはなりますね。ただ、ボール回しには入らない方がいいんじゃないかな。コーチらしくメモとかしておいた方がいい」と笑いを誘った。
18位に沈んでいる磐田にとっては、降格圏脱出に向けて弾みのつく勝利だ。前半5分に奪った貴重な先制弾以降、相手のプレスに臆さずボールを保持し続けた選手たちを、横内昭展(あきのぶ)監督は称賛した。
「これまでは前半のうちに先制されることが多かったが、きょうは耐え忍んで先制できた。前半が課題だった中で、柏に対しても怖がらずにボールを回せました」
前節までは奪ったボールを大事にできず、すぐさま相手に奪い返されていた磐田だが、この試合では落ち着いて相手のプレスをはがせていた。11人が足を止めずに正しいポジションを取り続けた結果、16位の柏に対して自信を持ってプレーできていた。この日、キャプテンマークを巻いたDF松原后は川島の存在が大きかったと明かした。
「永嗣さんが後ろから見ていて気づいたところを僕に伝えてくれていました。たとえば、奎汰(DF高畑奎汰・けいた)のポジショニングをもっと中に取らせるとか、相手のロングボールが増えてきた時間帯はセカンドボールを拾うために、中盤の距離感を修正した方がいいとか。攻守の面で永嗣さんが気づいた改善点を僕がチームに共有していました」
試合中に何度も松原とコミュニケーションを交わしていた背番号1。元日本代表の守護神は積極的にボール回しに関わるタイプではないが、誰よりも大きな声で味方に指示を送り続けた。
すると前半26分、自陣でボールを奪った磐田は落ち着いてタメをつくり、左サイドでフリーになっていた松原にパスを送った。キャプテンのアーリークロスはそのまま右サイドに流れたが、走り込んでいたMF松本昌也がダイレクトで中に折り返すと、それを拾ったMF中村駿がペナルティーエリア内まで侵入。左足で放ったシュートはゴール中央に決まった。
磐田の2点目はピッチをダイナミックに使った美しい攻撃だった。得点に絡んだ選手たちがベンチへと向かい喜びを共有している中で、川島は一人静かにガッツポーズをして、すぐさま定位置に戻った。
「いやぁ、久々に無失点で終えられました。チーム全体で最後まで身体も張れましたし、みんなで意思疎通してやった結果だと思います。ただ喜ぶにしてはまだ早いと思っていました。これまでも2-0から追いつかれた試合がありましたし、とにかく最後の最後まで自分たちは気を緩めてはいけないという気持ちでいました」
サポーターに落ち着けと促す川島
追加点に熱狂する磐田サポーターは「川島!」とコールを送った。しかし当の本人は‘‘落ち着け‘‘と言わんばかりに両手のひらをサポーターに向けた。
「自分たちが描いたプラン通りに進む試合はほとんどない。その中でどのように対応できるかが大事だと思います。ただプラン通りにやるのではなくて、何かが起こったときに自分たちで対応していく力が必要です」と、いくつもの死闘を経験してきたベテランにとって勝負はここからだった。
試合は前半30分を過ぎたあたりから徐々に柏がボールを保持する展開へと変わっていた。後半もその状況は続き、磐田は守備に奮闘。足をつり始める選手も出てくる中で、川島はシュートストップでチームを引き締めた。疲労困ぱいの仲間たちも守護神のプレーに応えるように身体を投げ出してゴールを守りきった。
試合はそのまま2-0で終了し、磐田はリーグ戦3試合ぶりの勝利を掴み取った。チーム最年長の41歳は表情を緩め、笑顔で仲間たちとハイタッチを交わして喜んだ。
しかし試合終了後のミックスゾーンでは、守護神は再び戦いの顔に戻っていた。
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「結果がすべてだと思いますし、まだまだ改善できるところが自分たちにはある。次の試合に向けて気を緩めずにやっていきたいと思います」と次節(vsアビスパ福岡、21日午後7時ホーム・ヤマハスタジアム)を見据えていた。
(取材・文 浅野凜太郎)