映画『リレー(原題)』より
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 『最後の追跡』のデヴィッド・マッケンジー監督の新作スリラー映画『リレー(原題) / Relay』が第49回トロント国際映画祭で世界初上映された。主演のリズ・アーメッド(『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』)のスター性に、ブラックリスト(未製作の優れた脚本リスト)に載ったジャスティン・パイアセッキのグイグイ引き込む脚本、マッケンジー監督の設定したクールなトーンが完璧にはまった良質なスリラーとなっていた。

 内部告発をしようとして機密資料を持ち出すも、企業からの脅しなどに遭い、資料の返却と引き換えに身の安全の保障を求める人々がいる。リズが演じたのは、そんな人々と企業の仲介業をしている男アッシュだ。彼は依頼者にも企業にも顔を見せず声も聞かせず、聴覚障害者向けの電話リレーサービス(※耳が聞こえないAがチャットしたものをオペレーターが読み上げ、それにBが回答、その回答をオペレーターがチャットでAに伝える)を使って完全なる匿名を貫いている。

 しかし、新たな依頼人となったバイオテクノロジー企業の社員サラ(『イエスタデイ』のリリー・ジェームズ)は企業から執拗な嫌がらせを受けており、彼女に対して親身になり、これまでの依頼者のように一線を引けなくなってしまったアッシュは、自身の身を危険にさらすことに……。サラに付きまとう企業側のチームのリーダーを演じたのは、『アバター』のサム・ワーシントンだ。

 どこにでも監視カメラがあって携帯では位置情報を特定できるなど、痕跡を残さないことがかつてなく難しい現代において、アッシュがどう身元を隠したまま機密資料と現金(サービス利用料)を受け渡しするかが面白くスリリング。電話リレーサービスの使い方がとにかく巧みで、緊迫感、笑い、親密さなどその時々で全く違う表現を可能にしているから驚きだ。アッシュ役のリズにはほとんどセリフがないが、孤独なヒーローを見事に体現。そのカリスマ性で観る者をくぎ付けにする。(編集部・市川遥)

第49回トロント国際映画祭は現地時間15日まで開催