澤木名誉総監督

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 本誌(「週刊新潮」)9月12日号が報じた、順天堂大学陸上競技部におけるパワハラ騒動。大学当局は同部を率いる澤木啓祐・名誉総監督(80)の退任を発表した――はずなのだが、当人はまさかのご乱心である。周囲を困惑させる、名将の言い分とは。

【写真】「殴る、蹴るの暴行」も告発された澤木氏

「ええ? どういうイチャモン付けようってんだよ」

「馬鹿か? なあ?」

 まるでヤクザ映画のせりふのようだが、実はこれ、箱根駅伝の名門・順大陸上競技部で名誉総監督を務めてきた、澤木啓祐氏の口から発せられた言葉なのである。

 2度の五輪出場経験を持ち、名伯楽の聞こえも高い彼が、どうしてこうも声を荒らげているのか。

“でくの坊が”といった暴言も

 事の発端は、6月26日までさかのぼる。うだるような暑さの中、澤木氏は集まった部員に1万メートルを走るよう指示し、「甘えさせるな!」と給水を禁止した。結果として複数の部員が熱中症になり、救急搬送される者まで出る始末。無理がたたって足首をひねり、靭帯損傷と診断された部員もいたという。

澤木名誉総監督

 学内関係者が語る。

「この件をきっかけに、澤木氏のパワハラが大学に告発されました。“腹筋に力が入ってない”と部員の腹を傘でたたいたり、飲みかけの炭酸水をぶっかけたりと、昭和の体育会系さながらの指導を続けていましたから。体罰だけでなく、“でくの坊が”といった暴言が嫌になり、辞めてしまった部員もいます」

「どの指導者より私のレベルが高い」

 こうした専制君主ぶりを本誌が報じると、大学側も文書をHPで発表。大筋で話を認めた上、澤木氏が名誉総監督を退任し、指導からも退く旨が記されていた。

 渦中の人となった澤木氏は、今月4日に行われた集会で300名超の部員らを前に、繰り返し無念を口にしていた。

「大人の言葉で言えば、不徳の致すところ」

「この年で死んでも死にきれない」

 とはいえ指導には絶対の自信を持っている様子で、

「走・跳・投、すべてにおいて、どの指導者より一番私のレベルが高い。(選手を見る)目については自信を持っております」

 と、いつもの“澤木節”を披露し、大学関係者や他の指導者をあきれさせた。

 そんな一幕がありつつも、最後には仲村明監督から「長い間ありがとうございました!」とあいさつがあり、拍手と共に降壇した澤木氏。誰しもがこれで一件落着と胸をなで下ろしたのだが……。

堂々と練習に参加

 大学関係者や指導陣が驚かされたのは、集会の直後のことだった。部員が練習に励む競技場に、なんと先ほど勇退を宣言したはずの澤木氏が姿を現したではないか。しかもいつも通りキャンピングチェアに腰かけ、堂々と指導を行っている。 

 ある部員が嘆く。

「中には、あきれて笑い出す部員もいました。つど澤木さんの周りに集まってみんなで指示を仰いだり、以前と何も変わりません」

 先の学内関係者いわく、

「長門(俊介)駅伝監督や教員が、“さすがに退任あいさつをしたばかりでそれは……”と止めはしたようです。しかし澤木氏は“見学だ!”と言って聞かず、制止を振り切った」

 長門駅伝監督も、同部でコーチを務める初代「山の神」今井正人氏も澤木氏の教え子。逆らうことなどできるはずもない。

「7日には順大で、他校も参加する競技会が開かれました。そこにも現れたので、辞めるつもりはないんだろうと関係者は諦めています。大学上層部も頭を悩ませているようです」(同)

「私は被害者」

 名門の“襷(たすき)”を手放そうとしない澤木氏の真意を問うべく、本人の携帯を鳴らした。すると開口一番、冒頭のせりふを吐いて「すごみ」を出しつつ、質問に答えたのだった。

――指導を続けている?

「確かに4日は止められたけど、見るだけならいいだろう。あくまで“見学”。誰から聞いてるの、全く」

――部員に何か指示していたと聞いているが。

「そりゃ感想ぐらいは言うかもしれない。7日も、あいさつに来た他校の監督と話したり、それぐらいだろうが。それが悪いのか」

――過去に暴行があったとも。

「そんなこと一切してない。こっちの心情も理解してもらわなきゃ、やるせない。私は被害者だよ」

 順大文書・広報課に問うと、

「学生が安全かつ健全な環境でスポーツに取り組めるよう、努めてまいります」

 このまま生涯現役、“迷”将として「完走」するおつもりだろうか。

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週刊新潮」2024年9月19日号 掲載