夏休みが明けた9月は不登校になる子どもが増える時期と言われています。

8月、石川県白山市で子育てに関する講演会が開かれ、「学校に通わない」選択をした金沢市に住む中学3年生の少女が、得意なミシンに打ち込み、前向きに生きる今の思いを語りました。

講師は15歳の少女とその母

石川県白山市で開かれた子育てに関する講演会。会場には教育関係者や一般の保護者など約80人が集まりました。登壇した中学3年生の佐々木奏さんは、ある事情からいまも学校に通えていません。

その事情とは、彼女が「字を書くことが苦手」で「極端に体力がない」というもの。

不登校”を選択した理由

文字は読めるのにうまく書けない奏さん。いわゆる学習障害の一つ「書字障害」です。加えて、人よりも体力がなく他の人と同じペースでの運動ができません。

学校では授業での書き取りに苦労したほか、中学校に入学しても集団行動で遅れてしまう自分を責めてきました。そして1年生の2学期から奏さんは「学校に行かない」という選択をしています。

文部科学省の2022年度の調査では小中学校で不登校の子どもは約29万9000人と過去最多となるなか、奏さんは、不登校になっても無理やり再登校させてはいけないと話します。

奏さん「無理やり登校させていいものではない。あれは下手したら殺人と同じ。あのまま鬱になって自殺していくんだろうなと思う」

罪悪感を抱える子どもたち…リモート授業という選択肢を

現在、学校とはプリントでやり取りしているほか授業は、タブレット端末を使ってリモートで参加しています。奏さんが通う中学校では出席扱いにはなりませんが、選択肢があることが奏さんの心を楽にしているようです。

奏さん「リモート様様です。リモートのおかげで多少何とかなっているというか。出席日数にはなっていないけど」

母親「でも学ぶことはできる。『どうしても学校に行かなければならない』という一択と、リモート授業という選択肢がある場合では、(リモートの方が)『授業に参加できた』というのがあるから、罪悪感を抱えることはないのかなと」

奏さん「不登校は『ズル休みしてしまった』という気持ちになるのと、『明日どんな顔して学校に行けばいいんだろう』というのがある」

母親「リモートっていいよね。革命だよね」

学校では、いじめにあうことも無く、奏さんの特性に合わせた学校側の配慮もあって、奏さんは学校が嫌いなわけではありません。講演会では、「他の人とは違う自分」が「周りに迷惑をかけている」と感じてしまい、自己肯定感が下がってしまう複雑な心境が打ち明けられました。

母親「日々重なるので余計に『私は周りに迷惑をかけているんだ』と思っちゃう。それが重なっていくしんどさがある」

奏さん「特に誰も自分の事なんか見ていないと思うんですけど、やっぱり迷惑をかけちゃって…みんなから責められているような気がしたりとか。気のせいなんですけどね。そんな罪悪感で学校に行けなくなっちゃって…」

“得意なこと”で取り戻した自己肯定感

他人より出来ないことが多く自己肯定感が下がった奏さんの心を救ったのは、ミシンでの作品制作です。会場には、これまで手掛けた帽子や鞄のほかゲームキャラクターの衣装や、学校の制服も並びます。

その実力はミシンの全国コンテストで優秀賞をとりながら、さらに「ぬいぬい屋SOU」というブランドを自ら立ち上げイベント会場でポーチやカバンなどの雑貨を販売しているほどです。

奏さん「(作品を作ると)誰かが喜んでくれるというのがすごく嬉しいので、それを見ているだけでもやりがいみたいな感じ」

きっかけは、小学校に入学前。雑巾縫いに追われる母親のお手伝いでミシンを使って以来、ミシンでの作品作りに没頭します。奏さんの母親は以前の取材で当時の様子を私たちに話してくれました。

母親「字を書くことがうまくできなかったり、字を書くことに凄くエネルギーを使って、ストレスをものすごく感じてしまうという特性がありますね。学校に行ってたときに…『私は何もできないポンコツだ』と言ったことがあったんですよ。でも、そのときはミシンができていたので『いや、ミシンできてるじゃん』と思って」

一方、自分が手がけた作品で誰かに喜んでもらいたいという思いは、技術の向上となり、自己肯定感の回復にも繋がります。

学校は嫌いではないけど…複雑な心境

作品販売を通して少しずつ自信が持てるようになった奏さん。

講演会ではミシン作品の話になると表情には笑顔が戻り、嬉しそうに語りだします。

奏さん「今は、今年のホームソーイングコンクールに向けた作品を作っています」

母親「夏休みは毎日ミシンをしているよね。中学校からは(苦手な)筆記を頑張るより(受賞歴を内申点に書ける)ミシンを頑張った方がいいんじゃないかと言われて、その言葉はすごくうれしかったよね」

奏さん「(筆記は)頑張ったところで結果が見えているから」

今ではイベントの主催者から出店を誘われることも増えた奏さん親子は「ありがたいことだ」と多くの人との縁を感謝しています。

奏さんは、好きなことを長く続けるためには「『やらなくちゃいけない』のは本当によくない」として楽しむことが大事だと強調します。その一方で、自身が抱える「字が書けない」という苦手なことについては、意外な言葉が返ってきました。

奏さん「苦手なことは目を向けないようにしている。自分の中では筆記用具という言葉はない。キーボードとフリップ入力しかない」

母親「自分の力量を分かっているというか、きょうはここまで、みたいな」

奏さん「自分は、字を書くことに関しては諦めちゃっている。自分でも読める気がしないし、読ませる気もないけど『まぁいいかな』と。白紙よりかはいいかなと」

自分の苦手と向き合いながらも、作品づくりを通じて少しずつ自信を取り戻した奏さん。奏さんの母親は「本人がやりたい時に、できた時が嬉しいので、そういう時に褒める」と話します。

奏さんには初めての講演を終え「学校に適応できない人がみんな落ちこぼれになってしまうのは嫌だという気持ちを伝えたかった」と話していました。