【谷頭 和希】「観光は金持ちのもの」でいいのか…日本で起きている「高すぎるテーマパーク」の襲来

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「若者のディズニー離れ」という言葉が、SNSをにぎわせている。ディズニーリゾートのチケットが高すぎて、若者がディズニーリゾートに行けなくなっているというのだ。

これについて、ディズニーリゾートが戦略的に「客層の選択」をしているように思うが、これ自体はネガティブなことではなくても、危険な流れのように感じる。

なぜなら、ディズニーリゾートを含めたテーマパーク、もっといえば観光業全体で「量から質への転換に伴う客層の選択」が起こっているからだ。

広がる「テーマパークの高額化」

今回の「ディズニーの若者離れ」騒動から考えてほしいのは、オリエンタルランドの「量から質へ」の方向性は、ディズニーランドだけではなく、テーマパーク産業を含めたありとあらゆる観光の現場で起こっていることだ。

つまり、さまざまなエンターテイメントが「若者離れ」を起こしているともいえる。

ディズニーリゾートに対して、ユニバーサルスタジオジャパン(以下、USJ)のチケット代も高騰している。2024年にはチケット料金のさらなる値上げを行い、もっとも高いチケットで10900円。これは、ディズニーリゾートと同じ水準だ。

これ以外でも、「高すぎる」と話題になったテーマパークもある。今年、お台場に誕生したテーマパーク「イマーシブ・フォート東京」だ。USJの業績をV字回復させたことで知られる森岡毅氏が率いる株式会社・刀がプロデュースしている。

入場料は6800円。しかし、これは一部のアトラクションが楽しめるチケットで、すべてのアトラクションを楽しむには、追加の料金がかかる。特に、江戸の世界に迷い込む体験ができる「江戸花魁奇譚」は、1回9000円という値段。

「量から質」を重視するテーマパークの変化

イマーシブ・フォート東京のオープニング・セレモニーの際、そのプロデュースを務めた森岡が述べたことは、この「量から質へ」の転換を顕著に表していた。森岡は、現在のテーマパークは、多くのゲストを入場させて同じ体験をさせるモデルなのに対し、イマーシブ・フォート東京ではそれを変え、「ひとりひとりに違う体験をさせる」ことを目指している、という。

ちなみに、イマーシブ・フォート東京で楽しめるのは、「イマーシブシアター」という参加型演劇の形式を採ったアトラクション。これはゲストがそのアトラクションに一人の参加者として入り込むもので、客の反応や選択によって、そのアトラクションの内容が変わる。だから「ひとりひとりに違う体験をさせる」ことができる、というわけだ。

ちなみに、「江戸花魁奇譚」では、ショーを構成する出演者15人に対して、それを体験するゲストの数は30人。それだけ濃密な体験ができるのだ。まさに「量から質へ」を体現しているのが、イマーシブ・フォート東京なのである。

「高級化」の流れは観光業にも……

さらに、こうした「量から質へ」の流れは、観光業全体の流れでもある。

2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」には、この方向性が明示されている。そこでは、今後の日本全体の観光の方向性として、「量から質」への転換が謳われている。

これまでのように、観光客の量に依存して収益を上げるのではなく、一人一人の消費額を増やしていく方向で観光地を作ることが目指されているのだ。この背景には、やはりコロナ禍が大きい。世界的な外出自粛の波を経験したことで、観光客の量だけに頼るモデルの危険性が露呈したからだ。さらには昨今話題になっている「オーバーツーリズム」(観光客の増大によって観光地の質が低下し、さらには地域住民の生活に悪影響を及ぼすこと)の問題も関係していると思われる。

「量から質へ」の転換は、テーマパークのみならず、観光業全体、ひいていえば日本全体で起こっている変化なのである。

しかし、「質」を向上させるには、基本的にその施設の利用料を引き上げるしかない。

観光立国推進基本計画でいわれていたように、量に頼るのではなく、一人一人の消費額を上げる方向を目指すのなら、当然、それぞれの商品やサービスの単価は上がっていく。

すると、結果としてはディズニーが「若者離れ」を引き起こしたように、そこにやってくる客層は「選択」されていくことになる。

観光は金持ちのもの」でいいのか?

以前、私は今回の記事と似た視点での記事を執筆したことがある。そのときに「テーマパークは行きたい人だけ行けばいい」「企業なのだから妥当な判断」など、比較的こうした現象について肯定的な意見も散見された。

しかし、そのような状態は、本当に健全な状態なのだろうか?

というのも、今まで書いてきた通り、時代の流れから見るに、今後、多くの観光業では「量」から「質」への流れは必然的に進んでいくと思われるからだ。そうなると、いよいよ若者などの金銭的に余裕のない人々が、観光やエンターテイメントを楽しむことはできなくなってしまう。

もちろん、それぞれの企業の方向性をコントロールすることはできない。本来、国はそうした若者を援助するポジションにいるはずだが、国の方向性からは、そうしたことへの意識はあまり見られない(また、ここでは深く触れないが、こうした問題の根底にある「若年層の賃金が上がっていない、保険料等の支払いが増額されている」問題についても、解決を図るべきだろう)。

観光は、金持ちのもの」といってしまえば、それで終わりだ。

しかし、それで本当によいのか、どうか。「若者のディズニー離れ」という言葉は、こうしたことを考えるきっかけにもなるのだ。

ディズニーだけはない、「若者のテーマパーク離れ」が止まらない…観光業全体で起きている「量から質」の転換