日本上空の大気境界層(海抜1000m〜3000m)付近を飛ぶ10回のフライト調査で、高度数千m上空の大気から数百種類の細菌や真菌を採取することができたという論文が報告されています。

Microbial richness and air chemistry in aerosols above the PBL confirm 2,000-km long-distance transport of potential human pathogens | PNAS

https://www.pnas.org/doi/abs/10.1073/pnas.2404191121

10,000 Feet Up, Scientists Found Hundreds of Airborne Germs - The New York Times

https://www.nytimes.com/2024/09/09/science/high-altitude-germs.html

バルセロナ地球健康研究所の計算生態学者であるザビエル・ロドー博士らの研究チームは、川崎病と呼ばれる病気の原因を探る研究を行っていました。

1967年に小児科医の川崎富作氏が初めて報告して知られた川崎病は、日本人など東アジア系人種の4歳以下の乳幼児にみられ、発熱・目の充血・口唇の発赤・発疹・手足の変化・リンパ節の腫れなどの症状が特徴です。川崎病の原因は記事作成時点でも不明ですが、ロドー博士は中国北東部からの風と川崎病の発生が関連しているのではないかと考え、セスナ機に乗って日本上空の最高高度3000mでサンプルを採取して分析しました。



その結果、中国の鉱山由来と思われるハフニウムという希少鉱物が高濃度で検出されました。また、266を超える真菌の胞子や、小さな塵粒(じんりゅう)に付着した300種類以上の細菌が発見されました。



これらの微生物の多くは植物や土壌に由来するものでしたが、中には人間の体内に生息するタイプのものも含まれていました。中には1900kmを超える距離を飛行してきたと推定されるものもあったそうですが、それでもなお生存しており、実験室で培養すると増殖を確認できたとのこと。

ロドー博士は発見された微生物の中に、潜在的な病原菌が含まれている可能性を指摘しています。具体的には細菌の約3分の1が人間にとって病原菌となる可能性があるそうですが、「これらの微生物が実際に地上に落下し、人間に病気を引き起こさせるという証拠はまだ得られていない」と慎重な姿勢を示しています。実際、上空の空気に含まれる病原菌の数は、換気の悪い建物の中で感染者が吐いた息に含まれる病原菌の数よりもはるかに少ないとのこと。



ロドー博士は、今回の研究結果は川崎病の謎を解明するものではないと論じています。しかし、はるか上空の風に乗って流れてきた病原菌が子どもたちに何らかの病気を引き起こしている可能性も考えられます。

研究には関わっていないバージニア工科大学の航空生物学者であるデビッド・シュメール氏は「発見された病原菌の数に驚いています。しかし、これらの微生物は病原菌の親戚であるだけで、無害かもしれません。病原菌であるかどうかを突き止めるには、人間の細胞や実験動物に感染させるのが一番いい方法です」と語りました。