by Kary Mar

インド洋に生息するオグロメジロザメは、日中のほとんどの時間をサンゴ礁で過ごしています。しかし、近年の海水温上昇に伴って多くのオグロメジロザメがサンゴ礁を離れ、より水深が深い海域に移っていることが明らかになっています。

Environmental stress reduces shark residency to coral reefs | Communications Biology

https://www.nature.com/articles/s42003-024-06707-3

Sharks deserting coral reefs as oceans heat up, study shows | Sharks | The Guardian

https://www.theguardian.com/environment/article/2024/sep/09/sharks-deserting-coral-reefs-climate-crisis-heating-oceans-study



オグロメジロザメは自身の天敵となるより大きなサメから避難するために日中はサンゴ礁で生活しており、夜になるとエサを求めてサンゴ礁の外に出るとのこと。戻ってきたオグロメジロザメのフンはサンゴ礁に住む生物に栄養を与えます。

ランカスター大学のデビッド・ジャコビー氏らの研究チームは、2013年から2020年にかけて、インド洋中央部のチャゴス諸島付近の海域に暮らす120匹以上のオグロメジロザメに追跡タグを装着して調査を行いました。70万以上のデータポイントと衛星データ、サンゴ礁の海面温度や風、海流のパターンなどを組み合わせて分析をおこなった結果、2015年から2016年にかけて発生した史上最大規模のエルニーニョ現象に見舞われた際に、オグロメジロザメはサンゴ礁を離れ、別の海域に移動していたことが明らかになりました。



by Kary Mar

調査では、エルニーニョ現象が収まったあと、別海域に移動したオグロメジロザメがサンゴ礁に戻ってくるまで、サンゴ礁に戻ってくるまでに最大16カ月を要したことも報告されています。

ジャコビー氏は「サメは変温動物で、体温は水温と連動しています。そのため、海水温が高くなりすぎると、彼らは移動する必要があるのです。今回調査を行った多くのオグロメジロザメが、沖合のより深く、より冷たい海域に移動したと思われます」と解説しました。

オグロメジロザメは乱獲などの要因により、絶滅危惧種として認定されています。同じく、熱帯のサンゴ礁は近年の海水温の上昇や乱獲、水質汚染に伴って深刻な被害を受けています。エセックス大学のアンナ・スタロック氏は「オグロメジロザメは、サンゴ礁の生態系バランスを保つのに非常に重要な役割を果たしています。オグロメジロザメが草食性魚や小型の捕食魚の両方を食べることで、サンゴの生育を阻む藻類の過剰な繁茂を防いでいます。エルニーニョ現象というサンゴ礁にとって最も致命的な時期にオグロメジロザメがその海域を離れたということは非常に心配なことです」と語っており、オグロメジロザメの生息域の変化によってサンゴ礁の生態系バランスが崩壊することを危惧しています。



一方で、一部のオグロメジロザメはエルニーニョ現象の最中でもサンゴ礁に残ったことも報告されています。これらのサンゴ礁では付近の島々でネズミの根絶が進められたり、鳥の個体数が増加したりといった要因でサンゴ礁の肥沃(ひよく)化が進んでおり、健康で回復力があるとされています。研究チームは「サンゴ礁の保護を強化することが、オグロメジロザメが故郷のサンゴ礁にとどまるのを助けるかもしれません」との展望を示しました。