2024年の顔・河合優実 ブレイクの実感なく「天狗になるのが怖い」 際立つ演技力は脚本の整理力にあった
俳優・河合優実(23)を「2024年の顔」と呼んでも異論は出まい。2024年1月期放送の連続ドラマ『不適切にもほどがある!』で演じた純子のハマり具合が一躍注目の的に。続く主演映画『あんのこと』で見せた高い演技力と声優初挑戦の劇場アニメ『ルックバック』の大ヒットと、話題に事欠かない新星だ。
天狗になるのは怖い
9月6日公開の主演映画『ナミビアの砂漠』は第77回カンヌ国際映画祭において、国際批評家連盟賞受賞の快挙。2025年春放送の『あんぱん』で朝ドラデビューも果たす。ブレイクという言葉では言い足りないくらいの躍進を見せている。
が、本人は至って冷静だ。「生活もこれまでとあまり変わらないので、どのように思うのが正解なのか。今までブレイクだと言われてきた人たちはどう過ごしてきたのか気になります。ブレイクのイメージだけでいうと、天狗になるのは怖いのでそこだけは注意したいです」
俳優デビューして5年。初心は忘れたくない。「映画を作る事、役を演じる事が楽しくて俳優をやっているので、その気持ちはずっと変わらないと思うし、変えたくありません。“ブレイクする”とか“売れる”という延長線上に自分の夢や目標は置いていなくて、今までやって来たことを変わらずに続けたいという意識だけを持ち続けていたいです」
冷静な本人と打って変わって、家族は沸き立っている。「私の活動をとても喜んでくれて、出演作は必ずチェックしています。妹は一般募集の『ナミビアの砂漠』の試写会に応募して当選して、ちゃっかり山中監督と写真を撮っていました。もう何してんの…と。親は私の報告が滞ってしまい、知人から出演情報を仕入れたりすると『録画したいんだからちゃんと教えなさい!』と…。結構怒られます」と苦笑いだ。
ノートに書き出すメソッド
際立つ演技力ゆえ、河合は「役そのものにしか見えない」と評されることが多い。カンヌ国際映画祭でも「息をのむほど素晴らしい」「登場の瞬間から惹きつける」などと絶賛された。鼻にピアスの穴を開けて奔放に生きるカナの実在感を、河合は強烈に発した。本作に限らず、どのように脚本を読み込めばそこまでのリアリティを生み出すことができるのか?
「自分が出演することをまず忘れて、物語として脚本を読んで全体像をざっくりととらえます。このストーリーにどんなメッセージがあるのか、どんな空気感が映ったら面白いのかをイメージして初めて自分が演じる役について考えます」
ここまでは脚本の読み込みとして一般的だが、その先がちょっと変わっている。ペンとノートを用意して自分の出番のシーンを一言一句書き出すのだという。
「自分の役が出るシーンだけを紙に書き出すことでキャラクターの心情や状況の変化を確認できるので、頭の整理にもなります。『ナミビアの砂漠』の場合はカナが浮き沈みの激しい性格なので、シーンを書き出しながらカナの気持ちが落ちた理由を考えたり、前の登場シーンとの感情の落差を計算したりしました」
アクションへの興味
この独自のメソッドは主演ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』や同時期撮影の主演映画『あんのこと』で身に着けたという。主演作や重要な役回りを与えられる機会が増えたからこそ、試行錯誤して辿り着いた方法ともいえる。
「それまでは決まったやり方のないまま勢いでやっていましたが、撮影は必ずしも物語の順序に沿って行われるわけではないので、行き当たりばったりで演じるとわけがわからなくなる。キャラクターの行動で物語は動いていくので、ストーリーを牽引する主人公を演じる自分が状況を理解していないと物語が正しく成立しなくなります。出演シーンを紙に書き出すようになって以降、自分の演じ方の方向性も定まった気がします」
スリムな見た目とは裏腹に体を動かすのは得意。『ベイビーわるきゅーれ』シリーズのようなアクションにも興味がある。
「小さい頃からダンスをやっていたので体力には自信があります。アクションにも興味があるし、スポーツや楽器など演じる役のために練習をする経験がまだないので挑戦してみたい」とチャレンジ精神は十分。「気持ちの面では、面白いものに出会いたいというのが一番。今まで見たことのないような作品、今の時代だからこそやるべき作品、今見せるべき作品、監督独自の感性を感じる作品に俳優として関わっていきたいです」
ブレイクにおごることなく前進姿勢を貫く河合。次はどんな役柄で観客を驚かせるのか。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)