【西田宗千佳連載】機能提供の遅れでつまずく「Copilot+ PC」
Vol.141-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフト が進めるAI 向けに強化された機構を持つPC の普及。「Copilot+PC」と銘打ったモデルの狙いと普及に向けた課題を探る。
今月の注目アイテム
ASUS
Vivobook S 15 S5507QA
直販価格24万4820円〜
マイクロソフトとプロセッサーメーカーは、2023年末から「AI PC」というブランドでのマーケティングキャンペーンを展開してきた。そして現在は、マイクロソフトがさらに積極的に旗を振る形で「Copilot+ PC」を展開し始めている。
どちらもAIを使えるのがポイントだが、定義の「ゆるさ」が違いと言える。AI PCは、メインプロセッサーにAI推論用のNPUが搭載されている、もしくは比較的性能の高いGPUを搭載していることが条件だが、厳密に性能を定義したものではない。一定価格以上の最新のPCならみな条件を満たしている、といってもいいだろう。
それに対してCopilot+ PCは、より厳密な定義がある。ハードウェアとしては現状、メインプロセッサー搭載のNPUが「40TOPS以上」の性能を備えていること、とされている。それ以上に大きいのが、「Windows 11でのAI関連機能に対応していること」でもある。2024年後半(おそらくは近々)に正式アップデートが予定されている「Windows 11 24H2」ではNPUを使う機能が複数追加され、それを使えるのがCopilot+ PC……ということになる。OS自体の動作条件は変わらないが、新機能の一部がCopilot+ PCでないと使えない、ということだ。
あくまで「AI関連の新機能を使える条件」と考えるべきなので、今後は位置付けが変わる可能性がある。現状はAMD・インテル・クアルコムが提供する最新のNPU搭載プロセッサー向けとなっているが、強力なGPUを搭載したPCではそちらを使って対応することも十分に可能だ。新プロセッサーを使ったPCの拡販、という側面が大きいので現在は「NPU」推しだが、条件が変わってくるとの噂は根強い。
一方で、Copilot+ PC向けの機能の価値については、少なくとも8月末現在、さほど大きなものにはなっていない。絵を描く機能などがあるが、クラウドで行なえることと大差ないからだ。
課題は、最大のウリである「Recall(リコール)」が、テスト公開すら頓挫した状況にあることだ。
Recallは、PCの中での作業を全て自動的に「スクリーンショットを撮る」という形で記録し、そのスクリーンショットをAIが解析、検索可能にすることで、「PCで対応した作業のすべてを思い出して活用する」ことを狙ったもの。当初は6月の発表後すぐに、Windows Insiderを経由してテスト公開……との話だったのだが、それが「数週間のうちに」と変わり、さらに現在は「10月にWindows Insiderでテスト公開を開始」と、徐々に後ろへズレている。
せっかくのCopilot+ PCだが、コアで従来のPCとの差別化を狙う機能の提供が遅れたことは、認知に大きな影響を与えている。急いで買う必然性を奪い、マーケティングキャンペーンとしての効果が疑問視される結果になっているわけだ。
これに限らず、今回マイクロソフトはちょっと慌てて展開しすぎたのではないか、と思える部分が多々ある。Recallの提供が延期された理由も含め、マイクロソフトが慌てた理由などについては次回のウェブ版で解説する。
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