数十億年前の「火星」の表面には豊富な液体の水が存在していたと考えられています。この大量の水は、少なくない量が地下に染み込んで現在でも存在する、という説もありますが、どの深さにどのような状態で存在するのかは大きな謎でした。


カリフォルニア大学サンディエゴ校のVashan Wright氏とMatthias Morzfeld氏、およびバークレー校のMichael Manga氏の研究チームは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「インサイト(InSight)」が計測した地震波のデータを分析しました。その結果、火星の地下には、岩石の隙間を埋める形で豊富な液体の水があるとする、これまでで最も確かな証拠を発見しました。その豊富さは、過去の火星が表面に湛えていたであろう液体の水の量を上回るほどです。


見つかった水は深さ11.5〜20km(※1)の地下にあり、近い将来に汲み上げることは不可能です。しかし、火星独自の生命体を探す試みにおいては、最も有望な探索場所として掘削が試みられる可能性があります。


※1…11.5±3.1kmから20±5km。


■豊富にあったはずの火星の水はどこへ消えたのか

【▲ 図1: 独自の海を持っていた、約40億年前の火星の想像図。(Credit: ESO, M. Kornmesser & N. Risinger)】

現在の「火星」の表面は文字通り荒涼としており、液体の水はどこにも見当たりません。しかし数十億年前の火星には、深さ1000m以上にもなる海をはじめとして、液体の水が相当豊富にあったのではないかと推定されています。液体の流れた跡、三角州や堆積物の存在、水によって変質した岩石など、かつての液体の水の証拠は次々と見つかっており、豊富な水の存在は疑いようのない状況となっています。


火星表面に豊富に存在した液体の水は、遅くとも約30億年前には全て失われていたと考えられています。では、豊富な水はどこに行ってしまったのでしょうか? かつては「蒸発や分解によって宇宙空間に逃げてしまった」という説や「極地の氷冠、あるいは地中のごく浅い場所に氷として存在している」という説が主張されてきました。しかし研究が進むにつれて、これらの説では失った量を説明できないほど、火星表面の水はかなり豊富にあったのではないかと考えられるようになりました。


このため近年では「かつての火星に存在した液体の水は、その大半が地下の奥深くに浸透した」という説が有力視されるようになりました。ただし、地下の奥深くは、地球ですら簡単には手の届かない領域です。ましてや遠い星である火星の内部を知ることは困難であり、この説の実証はこれまで困難でした。


また、地下に存在する水は、必ずしも “液体の水” であるとは限りません。例えば地球では、地下奥深くに存在する水は、高温のマグマに混ざっているものや、鉱物の成分の一部として化学結合しているものもあります。これらも惑星科学的には水として扱われますが、一般的にイメージされる “水” とは異なるものであると言えます。水がどのような状態で存在するのかを知るには、水が地下のどのくらいの深さに存在し、その環境でどのような状態が安定であるのかにも左右されます。


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