総武本線・亀戸線が乗り入れる街・亀戸。「カメイドクロック」にあるフードコートは、新陳代謝を続ける亀戸を象徴するような場所だ(筆者撮影)

時にレストランであり、喫茶店であり、高齢者の集会所にもなる「フードコート」。その姿は雲のように移り変わりが激しく、楽しみ方は無限大。例えるなら「市井の人々のオアシス」だ。

本連載では、そんな摩訶不思議・千変万化な「フードコート」を巡り、記録しながら、魅力や楽しみ方を提唱していく。

今回は、東京都江東区にある商業施設「カメイドクロック」のフードコートを訪問する。その名も「アソビバ!フードパーク!」である。

従来、東京を西と東に分けると「住みたい街」として名前が挙がるのは吉祥寺を筆頭に中央線沿線など西側が多かったが、近年は東側にも注目が集まっている。同エリアはいわゆる「下町」的な昔ながらの街が多い一方、近年は開発が進み、新旧が入り交じった独特の空気感が人気の一因かもしれない。

今回の亀戸も、歩いてみるとそうした「二面性」が感じられる街であった。

駅の出口で開発度に大きな違い、2つの顔を持つ街

スタート地点である亀戸駅でまず驚かされたのは、出口による開発度の違いである。具体的には、アトレがあり、東武亀戸線改札もある北口と、線路を挟んで反対のカメイドクロック側・東口とで見える景色が違いすぎる。

【画像】東京・亀戸「カメイドクロック」にあるフードコート「アソビバ!フードパーク!」。生まれ変わる街・亀戸や、フードコートの様子【全35枚】

北口には通りいっぺんのチェーン店がそろっており、マンションもそこそこある。また、アトレも2024年秋にリニューアル予定であり、活気を感じる。東京スカイツリーも遠くに顔をのぞかせており、東京東部の勢いを感じさせる一帯になっている。


北口と全く空気感が異なる東口(筆者撮影)

反対に東口からまず目に入るのは、大量の自転車。そして昔ながらな喫茶店や立ち飲みチェーンの晩杯屋など、何となくこちらのほうが私が持っていたイメージに近い。もちろん、これは褒めている。


そうそう、こういう街並みを求めていたのだ(筆者撮影)

駅のすぐ前の道の奥に入ると、さらに居酒屋が立ち並ぶ。駅近の好立地にもかかわらず空き地のまま放置されている区画も複数あり、これから開発が進むのであろうか。同じ駅前でもそれぞれの側でここまでの差があるとは思っていなかった。

ちょっと歩くとディープな景色が広がる

駅前は非常に近代化された最近の勢いある街と、昔ながらの下町らしい街、その両面の顔を見せてくれたが、ちょっと歩くと後者の匂いが色濃く残っているように感じる。そもそも北口も路地を一本入ると、かなり渋い景色が広がる。

名物として知られ、今年にオープンした麻布台ヒルズにも出店している「亀戸ぎょうざ」も発見。


発見、亀戸ぎょうざ(筆者撮影)

さて、亀戸ぎょうざを見てお腹も空いてきたので、そろそろフードコートへ向かおう。

カメイドクロックは、亀戸駅の東口にある。オープンは2022年と新しく、以前は「サンストリート亀戸」なる商業施設があり、さらにさかのぼるとセイコーインスツルの工場があった地である。

メインターゲットは子育て世代のファミリー層であり、スーパーや生鮮専門店などが集まった「カメクロマルシェ」、下町ならではの食文化を発信する地域コミュニティ拠点「カメクロ横丁」、それに加えて今回訪問するアソビバ!フードパーク!が核になっている。


フードコートに到着(筆者撮影)

アソビバ!フードパーク!があるのは4階だ。およそ540席あるフードコートで、ラインアップはマクドナルドやケンタッキーフライドチキンといったファストフードに、サーティワンアイスクリーム、あとはペッパーランチや大阪王将、どうとんぼり神座といったチェーンや、うどん、カレーなどがそろっている。


アソビバ!フードパーク!のラインアップ。「これでいい、これがいい」というメンツ(筆者撮影)

訪問したのは平日昼時であったが学生が多い。マクドナルドとサーティワンが圧倒的な人気を見せていた。


このレトロな雰囲気に惹かれた(筆者撮影)

餃子を見て、大阪王将に吸い寄せられる

さて、そんな中で今回のチョイスであるが、まず大阪王将を選ぶことにする。理由としては、亀戸ぎょうざを目にしたこと、そしてレトロな街並みや雰囲気を味わったことで、大阪王将の店構えにどことなく魅入られたことが挙げられる。我ながら、単純な理由である。

もうワンチョイスは、だしをかけて味わうカレーうどんという、何となく「今風」な食べ方を打ち出していた「香川一福」で。


ミシュランの味、いかに(筆者撮影)

ミシュランガイド、ビブグルマンを3年連続で受賞したらしい。そんな店の味を気軽に楽しめるのはフードコートならではだ。

うどんは待ちなしで提供。茄子のてんぷらも付けた。だしをかける前提だからか、うどんに乗ったカレーは結構固めである。つゆ、というよりはカレーそのものといった感じ。

同店の公式サイトによると、カレーは四ツ谷にある、ミシュラン1つ星を獲得したフレンチ店が監修しているらしい。亀戸のフードコートで、ミシュランが渋滞している。


「カレーうどん」を注文(筆者撮影)

大阪王将でチョイスしたのは、餃子&炒飯定食。990円とコスパが良く、意図せず唐揚げも付いてきた。


唐揚げとスープがうれしいセット(筆者撮影)

ミシュランの味と、町中華ライクな大阪王将の味がここに相まみえる。まさに新旧が交わる亀戸のようなタッグといえよう。

さっそく、餃子を一口。柔らかめの食感だが、あんはたっぷりでおいしい。すかさずチャーハンも合わせる。冷凍食品や家で自作するチャーハンではなかなか味わえない油の量と焼き感で、これも美味である。

カレーうどんのほうは、だしをかける前はまぜそばのような感じ。カレー自体は非常にオーソドックスで、意外としっかり辛い。これだけではやや味気なく、だしをかけて完成といった感じの味である。


新旧交わる、亀戸の街を筆者なりに表現したタッグだ(筆者撮影)

食べながら辺りを見ると、談笑したり勉強したりする学生、あとは小さな赤ん坊連れが目立つ。新陳代謝を続けてまだまだ発展途上の亀戸という街同様に、可能性にあふれた若者たちである。

平成に生まれた「昭和レトロ」と、地名の誤解

なお、この日は「藤」で知られる亀戸天神社や、スポーツの神を祀った亀戸香取神社なども訪問していた。

道中には亀戸梅屋敷という施設があった。名産品の販売や観光案内だけでなく、寄席も開かれているらしい。


亀戸梅屋敷(筆者撮影)

亀戸香取神社の参道は「亀戸香取勝運商店街」になっている。どうやらこの商店街、江東区で最も古いとされ、形成は明治時代までさかのぼるという。確かに、歴史を感じる建物が多いなあ――と思ったのだが、どうもこれらは平成に入ってレトロを武器にしようと生まれたものらしい。


平成に生まれた、昭和レトロな建物たち(筆者撮影)

商店街を抜け、亀戸香取神社に到着。天智天皇の御代に、藤原鎌足が東国訪問の途中で訪れ、旅の安泰を祈ったのが創立の起因という。ここに祀られているのは「国家鎮護の神」として知られる経津主神(ふつぬしのかみ)なる神で、日本における武将の祖神なのだとか。武道から転じてスポーツに縁起が良い神として広がっていったのだろうか。


亀戸香取神社、本殿(筆者撮影)

人影もまばらな平日、過去に想いを馳せる

亀戸香取神社からちょっと足を延ばし、亀戸天神社も訪問した。もう藤の時期は過ぎ、平日ということもあってか人影はまばらである。業者が草刈りをしている音のみが響いている。


亀戸天神社に到着(筆者撮影)

ここ亀戸天神社は、藤もそうだがカメもたくさんいる。これが亀戸という地名の由来と思っていたのだが、今回あらためて調べてみるとどうも違うらしい。

地名の由来にはいくつかの説があるそうなのだが、ひとつは、亀形の井桁がある、亀の背の甲から水が湧き出る「亀ケ井」という古井戸があったこと。もうひとつは、この地が島であったころ、形が亀に似ていたからというものである。他には、「かみど(神戸)」であったという説もあるという(以上、江東区のサイトによる)。


ミシシッピアカミミガメ、通称ミドリガメ(筆者撮影)

新陳代謝を続ける街・亀戸。神社はもちろんのこと、フードコートでも、その魅力と活力を感じた午後だった。

【その他の画像も】東京・亀戸「カメイドクロック」にあるフードコート「アソビバ!フードパーク!」。生まれ変わる街・亀戸や、フードコートの様子【全35枚】

(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)